10

 抜かれたばかりの歯が、わたしの眼の前に捨てられる。

 鮮血と悲鳴が染み込んだグロテスクなフォルムも、よく見れば少女に相応しい小さな歯だ。これは、彼女の顎のどの部分なんだろう?


「アッハッハッハッハ! ……ざまぁ。くっくっく……アッハッハッハッハ!」

『ペナルティが実行されたので、ゲームを再開する。さあ──』

「……てめぇ、このおぉぉぉッ!」

「アッハッハ……へぁ?!」

『隣人を愛すのだ』


 ──ドサッ!


「ふざけんな……よッ! てめぇ、この、ざけんな、ふざけんなッ!」


 床に響く鈍い衝撃。

 一回、二回、三回、四回……

 やっぱり、七海が問題をまた起こした。


「や、やめて七海さん! わたしは大丈夫だから! ねえ、氷見さんが死んじゃう!」

「あーあ、七海ちゃんたら……もう、しょうがない子ねぇ。でも、そーゆーところが大好きよ」

『ルール違反だ。ペナルティとして、おまえたち五人のなかで一人を……』

「うるせぇ! うるせぇ、うるせぇ、うるせぇぞ! 知るか、知るか、知るかよこの野郎ッ! なんでもおまえの思いどおりになると思うなよ、このクソ野郎ォォォォォ!」


 ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ!


『繰り返す、おまえたち五人のなかで一人を……』

「うぁあああぁぁぁあぁぁぁッッッ!!」


 ゴスッ、ゴスッ、ゴツン!


『酸素が無くなって窒息死するだけだぞ』

「知るかァ! 知るかよ、知らねぇよ!」


 ゴツン、ぶちゅん、ぐちゃ!


「……ねえ七海ちゃん、もう死んでるわよ。やめてあげなさい」

『10……9……』


 死んだ。氷見さんが七海に殺された。

 とうとう、共食いが始まったみたい。


「そっ、そんな……氷見さんが……どうしてこんなことに……」

『8……7……』


 そういえば、今回のペナルティって、なんだろう?

 誰か知ってる?


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「お疲れ様。ペナルティの順番、次はわたしね」

『6……5……』


 恭子さんには、ペナルティの内容がちゃんと聞き取れていたのかな? そもそも、五人のうちの一人がもう死んでしまったのだから、このゲームはそんなに難しくは…………えっ?


「なーんちゃって。わたし、痛いの嫌いだから、この子の指をへし折るわね」


 いつの間にか恭子さんが、わたしの手首を掴んでいた。

 指をへし折るですって!?

 そんな──ここにきて、わたしなの!?


『4……3……』

「白くて綺麗な指。ピアニストみたいなのに、勿体ないわね」


 数ある指のなかから、薬指が選ばれて持ち上がる。

 嫌、イヤ、嘘、ウソ……やめて、ヤメテ……

 お願い、誰かわたしを助けて!


『2……1……』


 ──パキッ。


「ああああああああああああッ!!」

『ペナルティが実行されたので、ゲームを再開する。さあ、隣人を愛すのだ』


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