7
「嫌っ……嫌だ……ひぃぃぃ!?」
大きな物音がした。
その同じ場所から、なにか引きずるような音が壁際へと向かって遠退いてゆく。
多分きっと、尻餅を着いた氷見さんがそのまま後退りをして逃げているのだろう。
『10……9……』
秒読みが始まった。
今度は平手打ちみたく簡単に済まされる罰じゃない。
爪を剥がされる。それは手なのか足なのか。どっちにしても、どちらにせよ──
「いやぁぁああぁああああああぁぁ! た、た、助けてぇぇぇぇぇ! 助けてよぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「おとなしくしなさい! こっちの手元が狂って、余計に大怪我しちゃうわよ!?」
「テメェ、じっとしてろよ! すぐに終わらせてやるから!」
『6……5……』
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌ぁはぁぁぁぁぁぁぁ! 助けてください、助けてください、なんでもじまずがらぁ……お願いじまずぐぁらぁぁああぁあぁぁぁぁッ!」
「氷見さん、落ち着いてっ! 時間がもう無いんですよ!?」
争う音が部屋中に響く。
天井からの声もほとんどが聞こえないくらい、暴れて、暴れて、泣き叫んで、暴れて、泣いて、狂ったように泣きわめいて、暴れて、泣いて、それよりも遥かに大きな絶叫が聞こえてきたとき、カウントダウンが止まった。
ペナルティが終わったんだ。
それでも、まだ泣き声は続く。
惨めったらしい、万人の同情を誘う哀れで悲痛なか細い泣き声。
悪夢だった。
最悪の夢のなかの出来事だった。
密室に閉じ込められた同じ境遇の仲間たちに……ううん、はじめから仲間じゃなかった。一人一人の、〝個〟の集まりでしかなかったんだ。でなければ、こんな
こんなことでは、なれっこない。
恋人同士だなんて不可能だ。
犯人は一体、なにを求めているのだろう?
犯人は一体、どんな結末を見たいというのだろう?
『……ペナルティが実行されたので、ゲームを再開する。さあ、隣人を愛すのだ』
わたしにはまるでわからないし、知りたくもなかった。
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