2
怒鳴り声が飛び交い、その言葉の途切れや強弱の隙間から漏れ聞こえてくる泣き声。それらはわたしに、学校で目撃したいじめや暴力事件を思い出させた。
いまこの争いのなかに飛び込めば、絶対にどちらかにつかなければならないだろう。いじめで例えるならば、加害者か被害者の側に、だ。
そのどちらかの選択肢も嫌ったわたしが選んだのは、一人の傍観者になることだった。なんの関わりを持たずに、ただ、遠巻きで事のなりゆきを見ているだけの存在。自分の身が危なくなれば、その場からそそくさと退散すればいい。テレビ番組のチャンネルを変えるみたく、違う場面を──見たい景色を見ればいいのだ。
結局わたしは、当時と同じように見て見ぬ振りをする選択肢を選び、起き上がるタイミングを完全に見失ってしまっていた。
これが正しいとは思わない。けど、間違っているとも思ってはいない。だって、いまもわたしには、なんの危害も及んでいないのだから。
「あーっ、クソ! いいよ、もう! おまえら勝手につるんでろよ! あたしはあたしで、勝手にやらせてもらうから!」
「勝手にって……止めはしないけど、出入口も窓もない部屋に閉じ込められたこの状況で、わたしたちに一体なにが出来るのよ?」
「それは……あたしの勝手だろ!」
そんな二人のやり取りを最後に、女性のすすり泣く声だけを残して会話が終わった。
やがて、落ち着きを取り戻した彼女も静かになる。
こうして殺伐とした密室空間に完璧な沈黙が生まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。