大浴場
「あ、ニギじゃん、おーい、ニーギー!」
「せーんぱーい、せーんーぱーいー!」
「うるさい、連呼するな聞こえてる」
ばしゃ、と上から湯を浴びせられてもけたけた笑っている二人、ウル=ツヴァイとヘレシィ=ジェファ。へたった緑髪の色合いは違えど、同じノスタリアであるからか、顔が隠れてしまっている今の姿は双子にも見える。
抑止庁には、職員の福利厚生のための施設が多々あり、ここはその内の一つである大浴場である。男湯、女湯、個人用浴室、個人用散湯室に分かれており、職員ならば無料で利用出来る。
そんな大浴場の、男湯の湯船の縁で――湯を浴びせかけた方であるニギ=ゼーレヴァンデルングは、湯桶を置いて己の髪を結び始めた。支給品の一つである防水性の組紐を使って、湯に着かない程度に結い上げれば、かかり湯、からの入湯。
「ぁー……あ、あぁー……」
「ガラキのじーさんかよ、じじくせー」
「先輩まだ二十代だったのでは? 実はサバを読んでいたとか?」
「久々の机上仕事でな……肩が凝ってて……あー……」
湯に浸かると同時に「じじくせー」吐息を漏らすニギ。そんなニギを見ていた二人は、すすす、と彼を挟む位置へと移動した。
「肩お揉みしましょうかー?」
「今なら安いですよー?」
「金取るのかよ」
じ、と目線で文句を言い。ニギは両側で手をわきわきと動かしている二人に湯をかける。わーきゃー騒ぐウルと、含み笑いを漏らすヘレシィに挟まれ、苦笑を一つ。
「しかし、ウルとヘレシィが揃ってるのは珍しいな」
「ニギもこの時間に風呂なのは珍しいよな! オレとヘレシィは合同任務帰りからの非番中!」
「サイレンでアレをアレする感じのお仕事でした」
「そうか、始末書は何枚書いた?」
「先輩の部隊とは違うんで始末書はゼロですね」
「反省文はオレとヘレシィんトコの……誰だっけ?」
「新人さんですね。まだ試用期間なんで名前は覚えてないんですけど」
「つーか今回の任務のせいで辞めるんじゃね?」
「そうかー……反省文だけかー……うらやましいなー……」
「先輩の部隊は建造物への思いやりと人間への心配りがあれば良いんですけど」
「それってどうやったら身につく? ヒイナとリコリスに早急に身につけさせたいんだが」
「エリーの部屋に行くしか」
「人格破壊以外の方法で頼む」
「難しいことを言いますね」
「逆に聞くが、いや、やはり止めておこう」
「何だぁ? 気になるから聞かせろよー」
「それ以外の方法でヒイナやリコリスを矯正出来る方法が浮かばなかった。自分で考えられないことを他人に考えさせるのは良くない」
ゆるゆると首を横に振るニギを見て、笑い声が弾ける。
「そーゆーのなんつーか知ってるぜ!」
「匙を投げるって言うんですよね」
「投擲ならリコリスの独壇場だぞ」
「お? 部下自慢? しちゃう? やっちゃう?」
「それなら我が隊からはニーナとヴァンを推しましょうか。いやぁ、とても有能な人材を二人もいただいてしまって申し訳ない!」
「あの時の人事、絶対裏で何かしてただろ! あー、オレんトコのイチオシはアーテムとマオマオだなー、どっちも戦闘力は低いけどオレの隊でまともな戦闘用補助官ってこの二人くらいしかいないし」
「誰もするとは言ってなかったんだが……じゃあリコリスとトルネ」
「「狂科学者」は始末書提出枚数が悪夢の三桁に届きそうだって聞いたんですけど」
「「人喰鮫」ぇ!? あいつめちゃくちゃ弱いし今期の殉職率一位じゃん!!」
「いや、それがな、トルネは常識を持ったままでいてくれるんだ……そして臆さず指摘してくれるんだ……」
「それは有能」
「えぇ、満場一致で有能ですね」
「まぁその後怒ったリコリスに解体されてるんだが」
「あーまぁ残当だな」
「彼、戦闘力はゼーレ隊で最下位ですもんね。で、そのキレ症の「狂科学者」の方は?」
「純粋に戦闘力」
「それな。この間の訓練で何の躊躇いもなく首飛ばしに来たもんな……狂犬かよ笑えるわー」
「「狂犬」は残念ながらいるんですよねぇ。白兎専用の」
「彼女の話は止めてくれ、この前帰宅準備してたら脛ごと持っていかれるかと思った」
「帰宅準備中なら労災じゃないですかやったー」
「降りなかったんだよなぁ残念なことに」
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