おまけ2紀美枝と改造人間ミス・ウェンズデイ・モーニング1
とある場所のとある施設内。
その施設の資料の閲覧室と思しきスペースに、一人の女性が座って何やら資料を眼鏡の先で睨みながら読んでいる。
そこに背の小さな見かけは子供の様な、髪が長くその容姿には似合わないほどの艶やかな女性が、本を山ほど抱えてそこに持って来る。
だがその動作は、その髪の艶やかさとは対照的に愛らしい感じを受けるのだ。
そしてどうやら、その眼鏡の女性が所望した資料を集めていたらしい。
「魔女に関する資料でしたよね。それと他にも魔眼や神秘についての資料は、とりあえずこれだけ詳しいのを持って来ました」
「ああ、ありがとう、ミス・ウェンズデイ・モーニング。君はここの閲覧室のデータに相当明るいようで、その内容にも造詣が深いと要から聞いたんでな。しかし、君も大変だろう。ここの資料は結構な量だ」
「いえいえ、ミス・ビギン・ヒア。背が小さくても、ちゃんと脚立なんかで届くから大丈夫です。それにここで音を上げていたら、もっと規模の大きい図書館なんてどうするんですか。管理しているのはわたしだけじゃないですし、心配いりませんよ」
ミス・ウェンズデイ・モーニングと呼ばれた小柄な女性が、ミス・ビギン・ヒアと呼ばれた眼鏡姿の目つきの鋭い女史――暁紀美枝だ――彼女へと何でもないという風に気さくに返事をする。
「だが君の様な改造人間は、私みたいな人間よりも、機関では軽んじられている。もう少し機関の評価機構も見直すべきだと、私は前々から提言しているのだが」
愚痴る様な言葉を吐く紀美枝に対して、ウェンズデイ・モーニングという改造人間は苦笑いして、それは仕方ないのだという風に自嘲する。
「それはもうどうしようもないです。わたしは隠密には向く能力かもしれませんが、全然戦闘の心得も基礎技術も水準に達するほどにはなっちゃいませんから」
フム、と少し不満気な顔をする紀美枝。
「そうは言っても、君が要に拾われたのも何かあるからなのだろうが。しかし、そういう使い物にならないと判断された改造人間を拾って来るのが好きだな、要も」
ふふ、とそこは躊躇のない笑みのウェンズデイ・モーニング。
「そりゃあ、七色の虹はあれだけの人ですから、NPGもあまり口出し出来ないんでしょう。だからあの方のやってるのは、慈善事業の様なものですよ」
「いや、あの女がそんな慈悲深い器であるはずはない。何か――そう何か君にも真価があるはずなんだ」
眼鏡をキラリと光らせて、紀美枝はそう断言する。
「あはは。書類の整理とかデータの管理してるから、それにかなり精通してるからですかね。それともわたしの〈サウンド・オブ・サイレンス〉がそんなに何か役に立つんでしょうか」
彼女の〈サウンド・オブ・サイレンス〉とは、対象の物体や音響を不可視にする、ただそれだけのものだ。
攻撃力も何もあったものではないし、改造人間としてのグレードも低い。
だが、それだからこそ、暗殺などの任務に当たる編成でチームを組めば、かなりの精度を誇るのだが、彼女の歯切れは悪い。
「あまり能力の切れが良くないんです、緊張すると特に。周波数なんかを操作する類なんですが、どうも全然習熟しなくて」
「――それは君が臆病だと常に言われているのが原因か?」
少し暗い顔をしたウェンズデイ・モーニングはコクリと俯くしかない。
「ええ。やっぱり機関での任務には何も向いてない性格なんです、わたし。こんな所で改造人間として生きてるのが不思議なくらい」
いや、と首を振る紀美枝。そうではない、と言う。
「君の臆病なのはある意味で美点だよ。それだけ他者への配慮があるのは、この環境ではそれだけで貴重だ。それにね、いいかウェンズデイ」
ゴクリと何を言われるかと唾を飲むウェンズデイだが、この女史はいつも誰に対しても否定的な評価をした試しがない、とも思うのだ。
「そんな能力であるのがその証拠でもある。君がそういう任務に将来就くとしても、その慎重さは決して劣る性質ではなく、成功への秘訣でもあるんだ」
「そんな・・・・・・。わたしのこのビビりが、ですか?」
「そう。だがビビりと決めてしまうのは良くないな。私はね、あの子を長年見ていると、危なっかしいと思うことがよくあった。だからあれだけのことをしても、まだ私は未練たらしくしているのだが。君は危機管理能力に長けている。撤退すべき時にはそうするだろうし、キチンと完遂出来ると見たら、一歩危険にも踏み込んでいけるはずだ」
そう、それが君の慎重さだ。と付け加えて更に言う。
「今はまだその時期ではないだけだ。無茶苦茶すぎる任務ばかり持ち込む要が悪いよ、まったく。だがまぁ、私以上に生き残るのには適しているよ、君は」
「・・・・・・ありがとうございます。ビギン・ヒアほど被弾率が低く生還する人にそう言われるなんて。でもそのフィアレスさんがその調べ物に関係するんですか?」
今、話題に出た女の子は、紀美枝がここに来る前に管理下に置いていた少女だ。
それはウェンズデイも聞いている。何でも魔眼持ちで重宝されているとか。
だから話を振ってみる。
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