~interlude4~

 シュッと物を飛ばしながら攻防は続く。

 舞の〈ウォーター〉は、確実に周囲のシン・クライムを抉っていく。


 それはそうだ、と舞は冷静に動きながら思う。


 あの少年の様ないつも楽しげな司祭が、改造人間である自分の能力に、聖なる力を付加してくれたのだから。


 だから、舞の力は吸血鬼であるシン・クライムには天敵の様なものだ。


 しかし、聖職者も魔の侵入を恐れながらの戦いとなる。

 魔物とはその黒と白の力のぶつけ合いであって、そのどちらがお互いの属性の力が濃いかの鬩ぎ合いだからだ。


 違う反発し合う色が侵入し、相手を塗り替えようとする。


 水弾は次々に女生徒の姿を浄化していく。吸血鬼は灰になっていくのが見えるのだ。


 ただ固有吸血界十七柱の一角であるシン・クライムが、そんな程度ですぐにやられる訳もなく、一つずつ潰していくしか出来ないでいるのが現状だ。


 舞は改造人間の為、ユーリと同程度、紅空よりは数段速い動きで、ナイフのように尖らせた水弾や、そのままぶつける面積の広い水圧など、容赦なく空中からまるで刃物を投擲するように鋭利にソレを投げ込んでいく。


 僧服は露出している部分は少なく黒い。だから暗器を持つエクスキューショナーもいるにはいるが、舞にはそんな物は全く必要がなかった。

 水を操る能力で、溺れさせたり、圧力で潰してしまったり、尖らせて貫いたり。


 自在に水を作り出すには、人間の体は便利だ、と舞は思う。

 何故なら体の大半は水分だし、だからこそ補給は怠りなくしなくてはいけないが、改造人間としての才能がそれを強化して補う作用も彼女は持っていたから。


 長袖は水を纏っているはずだが、舞の服は一向に濡れる気配はない。

 そういう調節もお手の物だからこそ、シン・クライムの研究に潜入して、エージェントとして探りを入れていたのだ。


 だが、彼の魔術師の作り出した力場はそれ以上。


 彼女はスライムのように、ドロドロの水の抜けた残骸になって、辛うじて生き延びることが出来たが、爆発が起きたようにあの時起動した固有魔術式は強大なもので、誰かの助けがあって初めて彼女はようやく復元出来たのだった。


 それだけ世界を塗り替える為に、用意周到に研究や鍛錬、素材の収集に時間を掛けて練り上げていただけはある。


 ――そうだとしたら、何故。


 彼はあんな風に自我を無くす道を選んでしまったのか。もしや、それが彼の望みだった訳ではあるまいに。

 そうなれば、姉を救うことも出来なくなるし、世界を望むカタチに変貌させられないはずだからだ。


 舞はしかし、いやそれだからこそか、と思案する。

 あれだけ強大な固有魔術式を自分にも作用させたからこそ、だから彼は呑み込まれたのだろう。


 ――――それにしてもキリがない。


 次から次に増えるシン・クライムと亡霊の様な動物達。

 造るのが上手な魔術師だったな、とこの短時間での量産体制に感心している場合ではないのだが、舞は敵ながらよくやると考えている。

 だが、こちらのこの水弾をどうやって防ぐのだと思っていると、水弾に向けてあちらはエナジーの塊をぶつけて来た。


「――!」


 それはあちらの内の一体を固めた物だったのだろうか。

 返って来たそれを、また別の一体がこちらに投げ上げて来る。


 ――まるで、意志のない亡霊が協力しているみたいだ。実際にはシン・クライムの不定型の意志の底にあったものが駆動させているのだが。


 少し慢心があっだだろうか。自分もまたユーリと同様、これまで後手に回っていただけに、焦りがあったのか、即行で本体に行き着きたいが為に、パワー全開で人形にぶつかりすぎた。


 だから、それに対処をしようと構えると、寸前で何か光を発した塊に反応が遅れる。


「しまっ・・・・・・!」


 エナジーをぶつけていたのは――――。

 爆散したゾンビの群れの頭上。

 落ちて来た物体。


「――うぅ」


 舞は改造人間なので、まだ動けはした。

 だが、あんな風に動いたアレを未だに見たことはなかったので、驚愕から次の動作に入ることが出来なかったのだ。


「な、何故あんな・・・・・・」


 ワラワラと群がる同型少女の群れ。周囲には泥を吐き出しながらついて回る犬共。

 素早く何か対処を、と思った瞬間。

 また爆散し始めるそれら。


 ――第二弾か! と思ったが違った。


 それらは無力化して、灰と化していくようだった。

 まるでどこかで本体が、ダメージを大きく受けたみたいに。


「まさか、空さん・・・・・・。あなたのそれを使ったんですか。いや、しかし、そんな心配をする余裕は、今私にはないか」


 次の為に、先程はすぐに張れなかった水の防御壁を張る対応をしなくては、と何事もなかったかのように立ち上がり、埃を払いながらそこからまた移動を開始する聖職者。


 安息同盟の人間には、名称とは違い安息はない。

 ただ任務を遂行するのに、動き続ける。

 その為の加護を与えられている。

 改造人間とはまた違った、教会の怪しい奇蹟とは最早呼べない強化のノウハウ。

 そしてまた夜に消える清峰舞こと、メイ・リーズ。またの名を、改造人間ウォーター。安息同盟の第六位。


 思惑はそれぞれに次の局面へと向かおうとしているが――。



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