第7章魔眼の真価と吸血鬼の戦い二回戦。または儀式でドキドキ?空とユーリの繋がりは更に濃密に4
今日は、工場跡地の方に来た。
何やら移転した工場の後は、何も開発もされずに何故か放置されていて、広いのに寂れた場所になっている。
郊外の土地なので、いずれ再開発されて、何かの倉庫になるとか言われているのに、一向に何も建ったりする近々の予定が立つこともない。
「――うん。ここにもやっぱり沢山張ってるわね。街中にあちこち張り巡らしているのだけど、こういう場所に隠れてる可能性もあるから、探索にはちょうどいいかもしれないわね。コソコソしてるのももう終わりなんだから」
ユーリが霊視をする。
その紅い眼には、血縁だからって訳じゃないだろうに、シン・クライムの固有魔術式の痕跡が読み取れるらしい。
もしかしたら、魔術師として一流なら人間でも視えるのかもしれないけれど。
「!」
ユーリが反応して、そちらに何かを投擲する。
――破裂音。
そしてグチャッと言う鈍い音。
しかし、そこからドロドロの空間から漏れ出す泥が見えており、その中から無数の目のない猫や犬がこちらに向けて、唸り声を上げながら群がって来る。
「ソラ。気を抜いては駄目よ。あれだけではないわ。本体もいるかも」
「うん。あ、ユーリ! あれ――!」
そして、目を凝らすとその空間から出て来たのは、小松さんの姿のシン・クライム。なのだが。
シン・クライムも何体も出て来たので、私は酷く驚いていて、足が一瞬の間止まっていたかもしれない。
猫が泥を吐きながら飛びかかって来たのに咄嗟に反応して(出来たというべきかも)、素早く式神も展開しながら、ナイフでシュッと切り裂いていく。
当然眼鏡は外している。――魔力の巡りも随分いつも以上に良さそうだ。
あれだけ準備したんですもの。これくらいやれなきゃ。
でもかなり素早い対応で、次々に動物を斬首していく様は、少しグロくて居たたまれなくなってしまう。
恐らく野良が多数で、飼い犬なんかもそこらから調達しているのではないかしら。
統率なんかは取れていないから、ゾンビといっても、かの吸血鬼がこちらの式神のようにかなり上等なコントロールをしている訳ではなさそうだ。
まだまだ無数に襲いかかって来る動物。的が小さいからやりにくいったら――!
「やっ・・・・・・!」
式神の対応で、複数現れたシン・クライムにもこちらは攻撃する。
格闘タイプの式神は、どうやらこちらのナイフと同じ効力を持つらしく、他は武器がそれ相当なようだ。
だから、こちらはかなり相性的には有利なはずなのよ。相手の弱点を突ける訳だから。でもかなり頭数が多くて、制御するには大変だし、とても完全に制御は仕切れない。
だから、私は出来るだけユーリとは離れていたのだけど、ユーリはどうやら今度は彼女の固有魔術式〈フラクチャー〉を全開にせず展開していくと見えた。
「――ソラ。わたしも注意するけど、あまり近づかないでそっちに行ったのと交戦して。巻き込みたくはないけど、そんな便利には出来てないのよ、わたしの魔術式は」
無言で目で合図を送って、素早く距離を取ってから、動物達を牽制しつつ、シン・クライムの一つとも交戦し始める私。
この前よりは動きが滑らかじゃないから、もしかすると本体ではないのかも?
でもかなり一進一退で、犬猫に対処しながらだと、正直いっぱいいっぱいなのだ。
式神の自動操縦で、かなり追いつめているのにも係わらず、シン・クライムは動きが適確で、本当にこれが意志などなくなった怪物なのかと驚愕してしまう。
弓の式神の弓矢を、吸血鬼は巧みに棒の様な物で弾きながら、槍の攻撃も躱していく身のこなし。
私は〝疾走〟を掛けていても、追いつくのがやっとで、ナイフの射的距離ではかなり厳しい。
式神はどうやら連携が段々取れるようになっていくみたいで、かなり三体で追い込んでいく。
格闘術が蹴りを入れて、槍が中距離から飛んで来る。そして、そちらに気を取られていると、弓が飛んで行って貫かれる。そういう寸法。
それはやはり超速の世界で行われていて、今の私は神経が研ぎ澄まされているから、魔眼の効果でそれを何とか追えるけど、確かに生身の人間には異形の化け物との戦いは、相当な難行なのが理解出来る。
私はだから周囲の動物をとにかく、気持ち悪さとも戦いながら、一つずつナイフで応戦して消していく。
泥になって消えてしまえば無力化してしまえると思うのだけど、キリがないほど多数の動物だ。もしかしたら、調達しているだけじゃなく、シン・クライム自体が複数増えているようなマジックを使っているのかもしれないと、最悪の事態を考えてしまって、嫌な気分になる。
これだと消耗選で、それだと勝ち目はないのよね、と思っていると、向こうでは凄くバチバチやっていて、ユーリの魔術式が破壊と爆裂の限りを尽くしていた。
シン・クライムは次々に爆散していく。
――――冷静になろう。
あの三体の連携の先に、私の動きを合わせるのよ、空。
彼が格闘術を躱し、槍を躱し、弓を弾くのにも多分限界はある。
――そして、死角。
後ろに回って、とにかく思いっきり魔眼の力を込めて、相手の死角にスピードを倍速で動いて、攻撃を仕掛けるのよ。
――ザシュッと。
――突いたのが心臓だったのか。
そんな手応えはなかったと思うけれど、一つを確実に仕留めた! そんな感触は確かに感じたはず。
シン・クライムは、グチャグチャと崩れながらドロドロな液状になっていき、そのまま闇に沈んでいく。
「逃げた・・・・・・? いや、回収したって所かしら。でも、まだ・・・・・・!」
こっちにも数体襲いかかって来るシン・クライムと動物。
――――こうなったら、もう一つの魔眼を試してみようじゃないの。
そんな思考と、澄んだ精神が適確に相手の像をクリアに捉える。
増えた小松さんの姿のシン・クライムを目標にする。
今回は何故か前回と違って、不快感を持たずに、クリアな思考で集中力も維持出来ていて。
魔眼の視界が、相手の存在をグニャリと曲げてしまう様な。
相手の中に無理矢理入って行く様な。
そこから私の魔力を一気に放出するイメージが、頭の中に膨らむ。
魔眼は暴走もしなければ、私を呑み込むこともない。
だが、少し頭がクラクラして来る。
自分の体と魔力炉が悲鳴をあげているのが分かる。だが止まらない。
何故なら、この間のように、反転しそうな酩酊感はなく。
静かな境地で、剣士が飛ぶ燕を切るかのように、穏やかで。
だが、魔力炉はガンガンと燃えているのが分かる。
そして、安定しながら神経は尖っていて、眼の奥から気が逸るのが抑えられない。
襲いかかって来る複数のシン・クライムに向けて、私は自分の意志で初めて、解放させた魔眼〝崩壊〟を行使した――。
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