取材の話
「てかさぁ、シンちゃんヒマなの? 遊んでもらってる身としてはありがたいんだけど、シャカイジンとして大丈夫?」
「本当に随分な物言いをしてくるなコイツ!?」
信司を略してシンちゃん。当人としては不本意なあだ名だが、そう呼ぶのは三上徹(みかみ とおる)しかいないため最早諦めの境地である。何度言っても直らなかったと言うこともあるし、そもそも徹の物覚えは凄まじく悪い。
「だってさぁ、誘ったらホイホイ来るなんて……マジで大丈夫? 朝はいってきますとか言ったものの、お昼ごはんは公園のベンチで食べて、その後ずっとハトのセックス見て夜まで過ごしたりしてない?」
「何だその歪んだ失職者観念!? そもそもハトの交尾に何ら興味を持てないし職を失ってもねーわ!! 俺は呼ばれたついでに取材しに来てんだよ!!」
「そんなこと言って、ネコのセッ「言わせねーよ!? つーかセから始まるその単語を口にするのを即刻止めろ!!」……はーい、もー、シンちゃんうるさーい」
お前のせいだからな!! と尚も騒ぐ信司を横目に、徹は肩を竦める。暇を持て余していた時にふと信司の事を思い出して電話で呼び出したは良いものの、ここまで口煩く騒がれるとは思いもしなかった徹である。
「てか、取材って何の? あ、そう言えばさぁ、この間テレビのカメラの人に会ったんだぜすげーだろ!」
「テレビのカメラの人って誰……一応電話でも説明したんだけどな……?」
「それをオレが覚えてるって思う方が間違ってると思わない?」
「堂々と言うことかよ……!!」
ふふんとどや顔で胸を張る徹に、信司は大袈裟に頭を抱えた。徹の記憶力は知っているものの、まさか十分足らずで全消去されているとは思いも寄らなかったのだ。仕方なく、不本意極まりないと表情で示しつつ、信司は口を開いた。
「あー、その、ゲーセンに出るって噂のな? って言うかゲーセンに出ると言うよりは、ゲーセンから出た時に出遭うって感じの怪談、じゃなくて怪異か。それで通り魔みたいなアレなんだけど」
「シンちゃん怪談の語り部としてヘタクソにも程がなくない?」
「止めろ無邪気を装ってアイデンティティーをぶち壊しにかかるんじゃねぇ鬼畜生かよ」
「鬼はルキじゃね?」
「あー、うん、先輩ってば暴力の権化って感じだもんな」
「誰が暴力の権化ですか張り倒しますよ」
「そう言う所ォ!!」
ひょい、と二人の間に割って入ったのは、浅葱色の袴に白い装束を纏ったルキ。くたびれたスーツ姿の信司と、いかにも今時の中学生と言った服装の徹と、三人で並んでいるといかにも訳のわからない集団である。
「徹とキミが一緒に歩いてたら目立ってしょうがないですよ」
「そこにルキが来たことで控えめに見てもサイキョーに見える?」
「最狂かな?」
「物珍しさからかさっきから注目の的ですよ。これだから後輩は……」
「いや、オレと徹だけだったら学校から呼び出し食らって迎えに来たちょっと若くてイケメンなお父さんって感じで大丈夫でしょう? どう考えても注目の的のど真ん中は先輩では?」
「何でちょっと設定盛った? 柳川君くらいの顔面偏差値になってから物を言って欲しいですね」
「未来永劫口を開くなって言われた……先輩の酷さが酷い……」
「落ち込むなってシンちゃん! ルキがシンちゃんに顔の出来の真実を突きつけて傷つけたってりょーさんに言いつけといてやるから!」
「追い討ちィ!!」
ぎゃいぎゃい騒ぐことによって、更に注目の的となっている。と、そこでルキがぽんと手を打った。
「そうでした、僕ってばお勤めの途中でした」
「神社の服着てるからまぁそうだろうなって思ってました」
「えー、ルキも一緒に遊ぼうよー」
「徹や後輩と違って色々忙しいんですよ。そろそろ秋祭りもありますし」
「あっ、猫丸がサンマ焼く屋台とかやりたいって言ってたヤツ?」
「屋台で秋刀魚を焼くのはちょっと色んな意味で難しそうなんで謹んで辞退をお願い申し上げたんですけどね」
「先輩が誤解してるみたいだから言っておきますけど俺は仕事ですからね」
「あんまり徹に悪い遊びを教え込まないでくださいよ、最終的に首を獲りに行くのは僕なんですから」
「それは徹の首だけの話ですよね? ね?」
「所で、首塚ならぬ耳塚って知ってます?」
「やめて!! ほんとうにやめて!! ぼうりょくのごんげ!!」
「今ここに耳塚を建てよう」
「じひぶかいせんぱい!! やさしいせんぱい!!」
右手で何かをもぎ取るような素振りを見せるルキに、耳を押さえて悲鳴を上げる信司。徹はそんな二人を見てけらけら笑っている。
「トモダチとトモダチが仲良いと嬉しいよなー」
「仲良い!? これが!?」
「耳」
「やさしいせんぱいとおれはとてもともだちでなかがいいよ!!」
ルキの一言で震え上がる信司と、心底楽しそうに笑っている徹。音声さえなければ、その服装や年齢は兎も角として、仲良し三人組といった風ではあるが……。
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