絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~
夜月紅輝
第1章 ある意味ドキドキの展開
第1話 忘れられない夏#1
あっつ~~~。
私はうなだれていた。
ジリジリと照らす太陽の下は実に苦痛で、時折鏡に反射して光を浴びせてくる太陽を睨んでは眩しさに目がやられてた。
そんな私を人々は奇異な目で見た。それはきっと私の容姿にああるのだろう。
その姿は一言で言えば小学生並みの幼児体形のチンチクリン。もちろん、私はそうは思わないが。
しかしその一方で、目を奪われるような端正な顔立ちと太陽に光で反射されて白く見える白に近い銀髪。
そんないわば日本人離れした顔立ちは他の人達にとってみれば奇異な目になるのも当然なのだろう。
そのような視線にはすでに慣れている。だから、気にすることもなく、左右で多くの人が行きかう通りを歩いく。
――――――ミーンミンミンミン
セミの声が夏を彩るかのようにあちこちから聞こえてくる。
そのすぐ横には半分浮いているかのように見えなくもない車がエンジン音もなく静かに通り過ぎていく。
なので、むしろうるさいのはこんな暑さの中でもガヤガヤと騒げる人達の方。
声が聞こえないから自然と大きくなってしまうのだろうが、現在一人で歩いている私にとってはなんとも苦痛な時間であった。
はあ......少し静かなところで休もうかな。
私は辺りを見渡す。市街地であるからかいたるところに高層ビルのようなものが目に付くが、特に興味ないのでお構いなしに自分の欲しているものへと視線を動かしていく。あ、あった。
見つけたのは白くねじれたものに茶色い三角錐が逆向きでそれを乗せている――――――つまり、アイスクリームの模型である。
それを見つけた瞬間、私の瞳はキラキラと輝いていく。その看板が砂漠で見つけたオアシスか何かに映って見える。
その模型があるところまで人ごみをかき分けながら、スタタタタッと駆けていくとお気に入りのバニラストロベリー味を購入。
その時、少々店員に体形で失礼なことを言われてしまったが、お気に入りの味があったので不問とした。
私は舌先をチョロっと出すとそのアイスを舐めていく。ん、これ。この味。
舌先で感じるバニラの甘みとイチゴの特有のコクのある果物感がたまらない。舌先が次を求めるように勝手に動いていく。
無表情だった顔は少しだけ口角が上がっている。基本無表情で私の意思でも動かぬ表情筋はどうやら相当お気に召したようだ。
そして、私がアイスを堪能しているその時だった。突如として、その動きを止める。
私の顔は相変わらず無表情であった......いや、思わぬ面倒ごとで怒気が漏れてるかな。
それから、その表情のまま右手をそっと横に突き出した。
「アストラル―――――解放」
そう言うと体の周りに僅かに白いオーラを纏わせる。しかし、それは他の人からは見えないようで、その変化を気にする者はいない。
「私が見逃すかと思った?」
私はそう呟きながら背後にいるサラリーマンに日本語ではない別の呪文に近い言葉を呟き、その人に向かって手を伸ばす。
その瞬間、そのサラリーマンから黒い影が一気に飛び出した。
その影は路地に入っていき、陽の光が入らない日陰に同調するように姿を隠していく。
「ギッギャ!」
少し黒ずんだ赤色をした全身に漫画やラノベに出てくるようなゴブリンのような小人体形したそれは必死に私から逃げるように積み上げられた箱をなぎ倒しながら走っていく。
それを路地からバッチリと視線を追っていた私は少し前傾に体を倒すと―――――――消えた。
まあ、実際に消えたわけじゃない。ガッガッガッと常人とは思えない身体能力で手から取り出した身長の二倍ほどの大鎌―――――上下ともに逆向きに湾曲した刃がついている―――――を壁に刺して、壁を蹴ってそれの行く道を先回りするように素早く駆け抜けていっただけだ。
「ギギギャッ!?」
「逃がさないよ」
「ギャアアアッ!」
私はそれを攻撃範囲内に収めると地面に突っ込む勢いで壁を蹴った。
そして、天地がひっくり返った状態でそれと顔を合わせると鎌を振り下ろす。その鎌はそれを袈裟切りに斬っていき、向かってきた方向とは反対側に吹き飛ばす。
すると、それは手足の先から灰のようなものへと変えていき、空気中に溶け込んでいくかのように姿を消した。
その見慣れた光景から目を離すと私はふとあるはずのものがない左手に視線を向ける。
あ、アイス落とした.......。
それから時間は少し経ち、私はある事務所へとやって来ていた。
その事務所は中央に机と両側を挟むように置かれたソファ。そして、壁に書類棚と神棚、一つの書斎があるだけのありがちな、それでいてどこか殺風景にも見える内装であった。
そして、そこにあるソファのひじ掛けを枕にして我が物顔で寝そべっていく。
そんな私の姿を見て書斎に座って一口コーヒーを飲んでいる所長が尋ねる。
「どうした? そんなうなだれた顔をして」
「バニラストロベリー.......落とした.......」
「相変わらず容姿に合ったようなことで悩むな結衣は」
「ちっちゃい言うな」
「それは言ってない」
私は書斎に座る所長を睨むように見る。
そんな私の反応を楽しむかのように所長はまた一口コーヒーを口に移していく。
「それで? 何が原因で落としたんだ? もしかして――――――アレか?」
私は目を隠すように腕を被せながら、コクリと頭を促していく。その反応に所長は「やっぱしな」という顔をした。
「まあまあ、そんなに気を落とすなよ。結衣はむしろ私達の職務を全うしてくれたんだ。誇らしいことだぞ?」
「それでもあの味は帰ってこない。それとここ冷房効いてる?」
「最近、調子悪いみたいだ。全く効いてないわけじゃないが、あんまり涼しくならない」
「道理で暑い.......」
そう言う私の白みがかった柔肌にはうっすらと汗をかいていた。額にかいた汗は少しずつ移動していき、やがて髪の方へと流れていく。べたついて少し気持ち悪いな。外よりはマシだけど。
すると、私はおもむろに姿勢を直すと背もたれにもたれかかりながら、服のボタンを開けていく。
今は女二人だけなので問題ナッシング。
「そういえば、皆は?」
とはいえ、他の皆の姿が見えないのは気になる。本来ならあと4人ほどいるのだが(そのうちの2人の所在はわかるとして)、誰一人としてその姿を見かけない。
その質問に所長は答える。
「今は外で仕事してる。丁度結衣がいないタイミングで応援要請があったからな。暇してたんで出したんだ」
「それじゃあ、兄さんは?」
「ああ、そいつなら今頃―――――――――」
――――――ピロロロロ
所長が答えようとした瞬間、書斎にあった電話が鳴った。
だから、所長は一旦会話を中断すると受話器を手に取り、話していく。するとすぐに、頭を抱えて深くため息を吐いた。
そして、電話を終えると所長は私に告げる。
「バッグを
***
「はあ.......」
私は陰鬱な表情である住宅街へとやって来ていた。
時刻は20時。夏場であるからか存外明るく感じる。
セミの音は無くなり、夜の少し熱ぼったい風が頬を撫でる。
私は電柱の天辺に立ちながら周囲の道を見渡していた。それは“アストラル”の独特の気配を辿って来てのことだ。しかし、今はどうにもその気配が見つからない。
「仕方ない」と私が別の場所に移動しようとした時、少し遠くに気配を感じた。
その方向を見ると一人の少年が大事そうにバッグを抱えたまま辺りをキョロキョロしながら歩いている。しかも、その周りにインコを飛ばして。そのことに私は思わず歯噛みする。
「.......見つけた」
そう呟くと右手に昼間の鎌を作り出し、手に持つとその場から跳躍した。
そして、一瞬で少年に近くまで急接近すると目が合った。
「死んで」
私は躊躇いなく鎌を振るった。すると、インコには避けられ、少年には咄嗟に鞄を盾にしながら、横っ飛びされた。
しかし、その鎌は少年の腕を僅かに斬り、その刃を
私はドンッと地響きにも似た着地音を鳴らすとすぐに尻もちをついて頭にインコを乗っけている少年に鎌を向ける。
「動かないで。すぐに終わらせるから」
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