相容れないもの
宮藤さんが買ってきた物が、床に散りばめられていた。
衣服であったり陶器であったりと、その布陣は様々だ。
直接床に置いちゃうところが、生活力の無さを如実に物語っている。
これは全部、私の為に買ってくれたのだろうか。一先ずお礼を言わないと。
「ありがとう……。凄い量だね、持って帰るの大変だったんじゃない?」
「気にするな。なんてことない」
そういう宮藤さんの顔色は、あまり芳しくない。呼吸も乱れている。
強がりだとすぐわかる。だけど、人に気を遣わせようとしない姿勢には好感を覚える。
……宮藤さんは、人の好意をそのまま受け取るのが苦手なのだ、きっと。
今まで、不器用な生き方をしてきたのだろう。こういう人種は、一貫してプライドが高いから、悩みなど打ち明けられる程、関係の深い者もいない。ずっと孤独で耐えてきたのだ、可哀想に。
加えて、宮藤さんの堅苦しい口調も周りに壁を生じさせてしまうのだ。ほんと、誰の影響を受けたらこんな喋り方になるのかな。
自分より大人の女性の生き方を酷評する、年齢不詳の居候女児。我ながら安定しないキャラ設定だ。
閑話休題。
「まず何から開けよっか?」
そう訊いたのは、約束通り買って来てくれたお団子を食べ終え、一休憩挟んだ後だった。
宝箱を開く時の様なドキドキ感。これこそ、留守番の醍醐味。一緒に買い物行かなくて正解だったかもっ。
「フッ、好きなものから開けるといい」
「お、その返答は自信たっぷりとお見受けした」
「まぁそこそこな」
「じゃあ、これから!」
手を伸ばして掴んだのは、長方形の箱。形状的にコップかな。
割れ物を入れるに相応しい厳重な包装を解くと、出てきたのはクマが描かれた可愛いコップ。
暫し、見惚れてしまう。その沈黙を、気に入らないと解釈したのか、
「好みじゃなかったか?」
「いやビックリしちゃって。てっきり渋めのコップを選んだのかと」
「失礼な。私だって二年前はピチピチの女子高生だったのだぞ」
唇を尖らせ、むくれる宮藤さん。制服とか似合わなそうだなと失礼なことを考える。
「今は、働いてるの?」
尋ねながら、『働いてない』という言葉を望んでいた。表情が曇ってるのが自分でもわかる。
「いや、大学に通っている。私は社会に出れる程、立派な人間じゃないからな」
顔に出てしまった安堵の表情を悟られまいと、
「そっかー。誘拐犯だもんね」
皮肉めいた冗談で返すと、軽く頭を小突かれた。痛い。
「聖音、そこの白い紙袋を開けてみろ。今日一番の収穫だ」
「え、そうなの?」
ワクワクしながら袋を覗く。中には黄色い服が、綺麗に折り畳まれていた。
全容を見ようと、紙袋から服を取り出し掲げる。
「おー、お……お?」
歓声はすぐに戸惑いへと打って変わる。
服の中央には、ホットドッグを模した犬が描かれている。なんだこの不思議生物?ぶっちゃけ気味が悪い。
「ホットドッグドッグちゃんだ。可愛いだろう?」
宮藤さんはご満悦、といった表情で服を眺めている。
「あーうん。そうだね」
取り敢えず、苦笑を顔に貼り付けて流しといた。
宮藤さんとは、服のセンスが相容れないらしい。
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