《3》ラナイ、取り繕う

 ちょうどラナイのいる場所の上空を猫くらいの大きさのラシエンが飛んでいた。

 ラナイが裏口から一人で出て行くのに気づき追いかけてきていたのである。


『あ、やべ』


 ラナイを追いかけつつ出店や広場の催し物などに少し気を取られていたラシエンは、彼女が男に絡まれているのに気づいて慌てる。


『この大きさじゃ迫力ねぇよな……元の姿で威嚇してやるか……ん?』


 ラナイの傍に降り立とうとした時、赤茶色の頭が彼女の居る方向へ猛然と歩いて行くのを認めた。

 なんだか不穏な空気を纏っているのは気のせいではあるまい。


『……俺の出番はなさそうだな』


 ラシエンは引き続き上空に待機することにした。




 男の手がラナイに触れようとした瞬間、誰かがその手を掴んだ。


「……俺の連れに何か用か」


 殺気すら滲ませて突然現れた男は低く言った。

 物騒なオーラを放つ男の登場に、ラナイに絡んでいた青年二人はひっと口の中で悲鳴を上げる。


(うげ、男がいたのかよ)

(しかもヤバそうだぞおい)


 男二人は素早く視線だけでそんな会話をした。


「いやいやいや、この子が道に迷っていたみたいだから、ちょっと声をかけただけさっ」

「知ってる人と合流できてよかったなっ。それじゃ俺たちはこれでっっ」


 早口でそう言うと青年二人は脱兎のごとく逃げ出す。

 ラナイは唖然とその後ろ姿を見送っていたが、青年たちを追い払った人がこっちを振り返ったので名を呼んだ。


「リュウキ」

「……で、何してるんだお前は」


 殺気を引っ込めたものの、まだ憮然とした様子でリュウキはたずねる。


「え、私は……」


 言いかけたところで、先ほどのリュウキとリルの光景が頭をよぎる。ラナイは思わずリュウキから視線を逸らしてしまった。


「? どうした」


 訳が分からずリュウキは眉をひそめる。


「い、いえなんでも。リュウキは何でここに?」


 ラナイは平静を装いつつ問い返した。


「オウルから、ラナイが一人で出かけていったと聞いた」


 追い払ったオウルが居間に姿を見せたので、性懲りもなく戻って来たのかと思っていると彼がそんなことを言ったのだ。確かにラナイの気配が家や周辺になかったので急いで出てきたリュウキである。


「そ、そうでしたか」


 正確には気づいたラシエンがついていったので一人ではないのだが。敢えて言わなかったオウルだったりする。


「(えと)私はちょっと小物を買いたかったのですが、皆さんの食事を持っていたので買うことができなくて。置いてからもう一度行こうと思いまして……」


 ラナイは即興で不自然ではないように事情を作った。


「……誰にも言わずに?」

「すぐ近くだったので」

「ここはパルシカの家から離れているが」

「ああ、(ええっと)近くだったんですが、どうも道を間違えてしまって……探しているうちに迷ってしまいました」


 自然に自然に……。ラナイは自分に言い聞かせる。


「……そうか」


 リュウキは訝しげな顔をしていたが、ひとまず納得したようだ。

 視線を合わせようとしないのは気になったが、勝手に出てきて絡まれたりしたので気まずいのかとリュウキは思っておくことにした。


「じゃあその店探すか、特徴は?」

「え、あ、いいですよ。なんか迷惑かけてしまいましたし、帰ります」


 ラナイは苦笑いを浮かべた。本当はそんな店ないし……

 一方リュウキはそんなラナイを少し眉を寄せて見ていたが、何も言わずに歩き始める。ラナイは俯き気味にその後をついて行った。

 通りの左右には、食べ歩きできそうな砂糖菓子や揚げ物などを売っている店、射的・小玉掬いといった遊びを楽しめる店などが立ち並ぶ。軽業師が技を披露している場所では人だかりができている。

 ラナイの斜め前を歩いていたリュウキは、楽団が軽快な音色を奏でる広場を通り過ぎたところでふと立ち止まった。


「ラナイ、小物屋ってこういうやつか?」

 

 リュウキの問いかけにラナイはやや遅れて顔を上げた。

 

「え? ああ、そうですね」


 彼の示した先には縁取りのある白い布をかけた木製の台が並んでおり、その上には首飾りや腕輪、髪留めといった大小様々な装飾品が乗せられていた。


「目当ての物はないだろうが、似たものならあるかもしれない。見てみるか?」

「……はい!」


 リュウキがそう声をかけると、ラナイはぱっと顔を輝かせて頷いた。

 実はリュウキは道すがら似たような店がないか探しながら歩いていた。出店のことは諦めると言った後ラナイが元気がないように見えたのは、遠慮して無理にそう言ったからだろうと思ったのだ。




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 まあリュウキの勘違いなんですが( ̄ー ̄)ニヤリ

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