間話 祭りの夜

《1》居間の二人

 ここからは番外編です。内容はほのぼの版の第7話中盤以降を、こちらの第7話終了後~第8話開始までのお話として再編成したものです。

 まあ、第8話冒頭の数行を物凄ーーく引き伸ばした感じが近いかもしれません(一種のパラレル?)。



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 今夜は収穫祭で大通りの店はまだ開けているところも多く、リュウキは書店や古本屋を回って何冊か書物を購入した。

 パルシカの家に帰り居間でいくつか本を広げて読んでいると、しばらくしてお風呂から上がってさっぱりしたリルが歩いてくる。

 居間をぐるりと見まわしてからリルは長椅子に座っているリュウキにたずねた。


「キサラ知らない?」

「俺が来てからは見てないな」


 リュウキは本から顔を上げずにそう答える。


「そっかー。今ラナイがお風呂入ってて、その次にキサラどうかなと思ったんだけど」


 どこに行ったのかなとリルは首を傾げた。


「そういえばオウルもいないのね」

「あいつならこっちの邪魔してくるから俺が追い払った」


 その時の事を思い出したのかリュウキは不機嫌そうに言う。


「あ、なるほど……」


 この場でちょっかいを出しているオウルと鬱陶しそうな顔をしたリュウキが目に浮かんで、リルは乾いた笑いを返した。それから長椅子の後ろから身を乗り出してリュウキの手元を覗き込む。


「何読んでるの?」


 リュウキはリルの方を少し見るとすぐに本に視線を落とした。彼女はまだフィルの祭りの時の服を着ていた上に、風呂場で洗った髪を乾かすために下ろしていたからだ。

 いい加減見慣れてもいいものだが、やはりそううまくはいかないらしい。


「遺跡・史跡関連の本だ。ちょっと気になることがあってな」


 今のリルの姿がフィルと重なりなんとなく落ち着かないながらも、リュウキは努めて平静を装いながら答える。


「ふぅん」


 そんなリュウキにリルは特に怪しむこともなく相槌を返す。おそらく彼女の目には普通に読書をしているように見えているのだろう。


「まだ確信があるわけじゃない。何かわかったら教えてやる」


 やや視線を彷徨わせながらリュウキはそう言った。しばらく読書に集中させてくれという態度を暗に示してみるが、


「あ、そういえば」


 リルは気づいた様子もなく続けた。これがオウルであれば早々に追い払うのだが、リルのことは主に自分の問題なのでリュウキは黙って聞いていた。

 ちなみに下を向いて本を読んでいるように見えるが、リルの姿を見た時点ですでに内容は頭に入ってきていない。どこまで読んだかすら怪しい。


「私がパルシカから借りたこの服着てるの見てやけに驚いてたけど」

「…………」


 なんとなく頁をめくっていたリュウキの手がぴたりと止まる。あの時あんなことを言ったのは、自身のこの姿がきっかけだとリルも気づいたのだろうか。


「ラナイの時まで同じ反応しないでよ?」

「……は?」


 リルの予想外の言葉にリュウキは間の抜けた返事をする。思わず顔を上げると、彼女は目を据わらせてリュウキを見ていた。


「ラナイにもパルシカはこれと同じような服貸してるのよ。なんでもこの服を出した時に一緒に出てきたとかで。お風呂から上がったらたぶんそれ着てると思うのよね」

「…………」


 リュウキは怪訝な顔をして考え込んだ。

 パルシカから借りた服を着たラナイに自分が驚く? 言われなくてもすることはないと思うが、どうにも話が見えない。


「あんなに仰天されたら似合ってないんだって思っちゃうじゃない。私はいいわよ別に。普段からこういうの着ないから」


 とか口では言いつつも拗ねているように聞こえる。


「でもラナイはもともと可愛いし、よく似合ってるのよ。いい、似合ってるのよ!?」

「…………」


 なぜか物凄い剣幕で強調されて、リュウキは訳が分からずに黙るしかなかった。

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