《7》行動開始
結界柱のある場所へ向かおうとしたノイエスは、何かを思い出したような顔をして振り返った。
「あ、結界柱の点検にはワタ坊使っちゃうから見回りはお願いね! 連絡用にワタサブロー渡しとくから何かあったらそれで!」
広間から出ていくノイエスの方からワタ坊兄弟が一体こちらに飛んできた。
「ワタサブロー、ちゃんと飛べるようになったのね」
「ハイ、マスターの対応は迅速デス」
くるりとリルの前でワタサブローは飛んで見せるとリュウキの肩に着地する。
リルはリュウキとキサラに目を向けると言った。
「じゃ、私とリュウキで手分けして他に誰か残っていないか最終確認しちゃおっか。キサラはこの広間で待機で」
「俺は左の方見てくる」
「了解した」
頷き合った三人は、それぞれ結界柱の
数十分後、リルたちは再び広間に集まっていた。隠れていたならず者はなし、社の関係者が数人身を隠していたのを見つけていた。
結界柱の方もノイエスが確認した結果、異常はないとのことだった。
「それじゃ、今度こそ他の社に向かう?」
「……そうだな」
リュウキはやや間をおいてリルに答えた。結界柱を破壊すると言っている割には、その周囲に特に何も仕掛けていないのが気になったのだ。
簡単にはわからないようにしているのだろうか。
いつまでもそのことばかり考えているわけにもいかないので、とりあえずは先に結界柱の社を奪還する事に決める。
考え込んでいたリュウキの隣でノイエスが寝こけている男たちを見た。
「このおじさんたちあの捕縛陣の中に入れちゃったらどう?」
「お、そうだな。俺たちでやっておくか。ノイエス君たちは残りの社に向かっててくれよ」
門番兵たちはキサラから腕輪を受け取り、ならず者たちから腕輪や武器を全部外すと彼らを移動させ始めた。
念のため起きてしまった時のために縛り上げておく。
一方、リルはイオがついて来ようとしているのに気づいた。
「あ、イオニアさんはここで皆さんと待っててくれる?」
「ううん、あたしも行く。あとイオでいいわ」
「いや、でも危ないから……」
「他の社に行くなら、近道を知ってる。あたしも役に立ちたいの……お願い」
イオは懇願するようにリルを見返した。移動時間を短縮できるなら願ってもないが一緒に行動するとなると危険が伴う。
リルは困って思わずリュウキを見た。
「ど、どうしよ?」
「……わかった。早く到着できるに越したことはないし、説得する暇が惜しい」
少し間をおいてリュウキは言った。返事に少し間があったのはリュウキもイオの身の心配をしたのだろう。
「こっちよ。ついてきて」
そう言うとイオは歩き出した。外へではなく、社の内部のどこかに向かっているようだ。
これから話すことは他言無用にしてほしいんだけど、とイオは前置きしてから話し始める。
「各社には緊急用の転送陣が敷かれているの。これは防犯の意味もかねて神殿の一部の神官や巫女しか知らされてないもので、操作できる人も限られているのよ」
イオは歩きながらリルたちに説明した。
「あたしは運よく操作できるから、それ使うわ。社同士はもちろん神殿にも通じてるのよ」
「神殿にも転送陣……それはいいわね。移動の時間も省けるし、裏をかくこともできるかも……」
真面目な表情で考え込むリルの隣でノイエスは目を輝かせて飛び跳ねた。
「神殿の転送陣かぁ~どんなのかな! 楽しみ~」
「ちょっとノイエス、今緊急事態なのわかってる?」
緊張感のないノイエスにリルは呆れる。スレイシェに着いた時にリルもヴァレルやラナイとはしゃいでいたのは既に忘れているようである。
リルたちはイオの案内で狭くはない通路を歩いていく。突き当りが角になっていて、そこを曲がると行き止まりだった。
イオがそこの壁に手を当てると手元が仄かに光り、水色の光が細い線となって一瞬壁の模様をなぞる。すると壁の一部が消え去り、奥に部屋が見えた。
その部屋は床に聖方陣が描かれており、傍に操作用の細長い四角柱の台座が建っている。リルたちが中に入ると入り口は消えた。
「中は無事みたいね」
「ちょっと確認するから待ってて」
イオは操作用の台座の前に移動する。その面に触れると橙色の文字や記号が浮かび上がった。
「転移回路、転送空間、動力源よし……うん、あっちとは正常につながってるみたい」
異常がないことを確認したイオは転送陣を起動させる。床の聖方陣が淡く光を帯びた。
「入っていいわよ。ただ、正常に動くからといって向こうも安全とは限らないから気をつけて」
「よし、ちゃっちゃとやっつけてやるわ! ってこらノイエス、行くわよ!!」
「ちょっと、もうちょっと見させてよ~~~」
リルは転送陣に食いついているノイエスの襟首を掴む。その間にリュウキが先に陣に足を踏み入れた。
「あー! 先越されたじゃない!」
続けてリル、彼女に引っ張られたノイエス、キサラ、最後にイオが飛び込んでいった。
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