第4話 神殿内部
《1》神殿の奥へ
※ここからはしばらくラナイとオウル側で話が進行します。時間はやや遡って、二人が応接間から出たところまで戻ります。
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応接間にリュウキとジェスナ(+遅れてきているリル)を残し、ラナイとオウルは巫女ミレイに案内されて神殿の奥にある宝物殿に向かっていた。
白い大理石に青い装飾の施された回廊を歩きながら、ラナイは少し前を行くミレイに話しかける。
「ミレイさん、お久しぶりです。お元気でした?」
「ええ、ラナイさんも元気そうでよかったです。三年前突然神殿から天導協会に行ってからほとんど顔を見せないのでどうしているのかと思ってましたが……」
ミレイはラナイが神殿に所属していた頃の先輩にあたる巫女で、ジェスナとは同期だ。普段どこか冷たい雰囲気を感じさせる彼女だが、中身は温かな人であることをラナイは知っている。
「すみません……母の事任せきりにしてしまって」
「それはいいのですよ。ジェスナがよく心配してましたよ? あっちでうまくやってるかなーとか、ちゃんと食べてるかなーとか、こき使われてないかなーとか……言い出したらきりがないんだから。ラナイさんの姿見かけたら抱きつきそうなくらい」
「あ……すでに」
苦笑いを浮かべながらラナイは言った。神殿でジェスナに再会するや否や抱きつかれたのはついさっきの出来事である。
「あら、そうだったのですね。その光景が目に浮かびますね」
ミレイはくすりと小さく笑った。そんな彼女を見て、ラナイは先ほどのジェスナとミレイのやり取りを思い出しながら考えた。
(……二人の間で何かあったのかと思ったけど……思い違いだったのかしら?)
喧嘩中だったのだろうかと思ったりしていたが、ミレイがジェスナに対して怒っているような雰囲気はない。
「イオとはたまに手紙のやり取りをしてたんですが……ちょっと二人以上は余裕がなくてよろしく伝えてほしいと書いてばかりで悪いことしましたね」
「気にしなくていいですよ。手紙が来たら来たらで騒ぐに決まってますし」
やれやれといった感じでミレイは肩をすくめる。ラナイは手紙を持ったジェスナが嬉しそうにしている様を思い浮かべて顔を綻ばせた。
ちなみにこれはラナイなのでかなり控えめな想像である。おそらく実際は小躍りするか飛び跳ねるか本当に踊り出すか、もっと大仰な反応を示すだろう。
「ジェスナ姉さんに悪気はないんでしょうけど……」
「ええ、わかってはいますがね。ちょっと大袈裟なんですよね。ジェドがいた時はそれこそ二人揃って……まったく、あの双子は」
ふっとミレイは目を細め、懐かしそうで、そして少し切なそうな表情をした。そんな横顔を見てラナイはある事を思い出した。
(……そういえば、ミレイさんってジェド兄さんの事……)
ラナイは一度静かに目を閉じた。
「本当に、ジェド兄さんにも良くしてもらいました」
ジェスナと瓜二つのある青年の姿がラナイの脳裏に浮かぶ。焦げ茶色の短髪に青い瞳、彼は姉とは違い眼鏡をかけていた。
(ジェド兄さんやジェスナ姉さん、ミレイさんのためにも、<三界の書>は守らなくちゃ……)
彼らだけではない。命を懸けた栗色の髪の青年――アラス、山吹色の髪の少女――フィルの二人。そして、彼のためにも。
二度と、あのような事は起こしてはいけない。
ラナイは改めて心に強く決めた。
「そういえば、イオもジェスナ姉さんと同じ神殿入口の担当だと手紙に書いてあったんですが……」
イオというのはラナイが神殿にいた頃仲が良かった巫女の少女だ。ちなみにジェスナとジェドの実の妹に当たる。
入り口付近で会った時はジェスナ一人だった。たまたまその場にいなかったのかと思ったが、ラナイたちが応接間で待っている間でも、彼女は現れなかった。
「イオは、今日は神官の随伴で他の町に出かけてますね」
ミレイは前を向いたままそう答える。
「あら……行き違いでしたか」
肩を落とすラナイにミレイは慰めるように言った。
「今日は急だったんで仕方ないです。ラナイさんが来たことは伝えておきますから」
「ありがとうございます。大神官様にもよろしくお伝えください」
「わかりました」
僅かに目を伏せミレイは頷く。
この時前を向いていたラナイとミレイは気づかなかったが、後方の回廊の一部分がほんの僅か不自然に揺らめいていた。床の両端に引かれた水路に重なっていたので、注意深く見なければ見落としてしまいそうなものだ。
魚のような形にも見えるそれは三人の後をついていくように動いた後、小さな波紋と共に景色に溶けていった。
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