《5》また会う日まで

「あ、あと、リュウキも。改めてよろしくというのはなんか変だから……ありがとうでいいかな」

「……は?」


 リルが何やらぶつぶつと言いながらリュウキを見る。彼は意味がわからなくて訝しげだ。


「ほら、追跡隊の本当の目的っていうのかな。<聖域の書>について教えてくれたじゃない」

「……別に。ただの気まぐれだ」

「内容からしてたぶん私だけ知らされてなかったことだと思うし。なんというか、やっと本当の意味で仲間になれたのかなーと思うと嬉しいのよ」


 えへへとリルは照れ笑いをしながらそう言う。

 昨日リュウキと話し合って一緒に任務を続けることにはなった筈だが、まだどこか夢のような、現実感がなかったリルである。

 しかし、リュウキやオウルからいろいろ話を聞いたことでリルは彼らの仲間だという実感がわいてきたのだ。


「……途中で抜けたりしたら許さないからな」


 リュウキは相変わらずぶっきらぼうな口調だが、どこか重みのあるものが含まれている。


「そっちこそ覚悟しときなさいよね。何があってもついて行ってやるんだから!」


 対してリルは強気な笑みを浮かべて宣言した。そんな彼女を見ながらリュウキは静かに考える。


 自分と行動を共にするうちに、リルがフィルの事を知る日が来るだろう。

 仮にここでリルと別れていたとしても、その後彼女が何らかの形で知る可能性はもちろんある。

 自分の知らないところで知られるよりは、いいかもしれない。


 リルが三年前の<虚無大戦>の真実を――自分が、フィルを手に掛けたことを知った、その時は――…………


 ある決意をリュウキは胸の内で固めたのだった。







 レトイやリュウキの話が一段落付いたので、リルたちは当初の目的―――<聖域の書>の追跡を再開することにした。

 出発する前にパルシカに挨拶していくために、五人は鍛冶屋の工房に顔を出した。


「そうかい。気をつけて行くんだよー」

「パルシカも元気でね! また暇ができたら遊びに行くね」

「いつでも来な~」


 リルの後にラナイはぺこりと頭を下げて言う。


「お世話になりました」

「いいんだよ、また来な」

「はい」


 笑顔を浮かべるパルシカにラナイも微笑んで頷いた。それからパルシカはラナイの横に視線を動かす。


「リュウキもだよ?」

「……覚えてたらな」

「なんだい、おばちゃんは寂しいと死んじゃうんだよ?」

「兎かよ……」


 おどけた様子で言うパルシカにリュウキは半眼になって呆れた。少女二人はくすくすと笑いを零している。

 オウルとキサラは軽く会釈すると外へ出ていき、リルとラナイもそれに続く。

 最後にリュウキが出て行こうとするとパルシカが不意に言った。


「リュウキ、あんたはアラスほど付き合いが長いわけじゃないけど、あんたもあたしにとっちゃ息子みたいなものなんだよ」

「…………」

「別に会いに来なくてもいいけどさ、それだけは覚えててほしいんだ」


 先程までとは打って変わって、パルシカは優しさをたたえた瞳で形見アラスの紅い剣を託した少年を見つめる。

 リュウキは背中を向けているので表情は見えない。だが、ぽつりと言った。


「……また来る」





 ◇◇◇


 こうして少年は、少女たちと共に再び歩き出す――――


 第一章 少女と少年の邂逅編 完。


 

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 数ある小説の中から本作を読んでいただきありがとうございました!!

 

 この章、完成した当初はほのぼのとした感じだったんですが、キャラの掘り下げ(主にリュウキ)をしているうちに気づいたら後半がシリアスになりました。作者自身もびっくりです。


 この後幕間を挟んで第二章へと続きます。

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