となり
遠山李衣
となり
呼吸の音がする。トクン、トクン。規則正しいそれは、となりでかすかに音を立てている。
シングルベッドにふたりは狭い。それでも大きな身体を小さく丸めてる。
「ありがとう」
届くはずはないけれど、あなたの寝顔にそっとつぶやかずにはいられない。
ふと目を覚ました時、いつも横にいてくれているから、ホッとして私はまた眠りにつける。
あなたの息遣いが、私の安定剤なの。
明日も私のとなりにいてね。お願いだから、離れていかないで……。
どんなに強く願っても、あなたがこの場所からいなくなるのを止められなかった。
ひとつ確かなのは、あのときあなたは私を愛おしそうに見つめてくれたこと。
あなたを私の元から連れ去っていった。私は理解できずに空を見上げて泣いていた。変わらずにあなたの香りを、姿を追いかけるの。
ねえ、今あなたは幸せなの? どこで、なにをしているの?
世界が終わるとき、あなたと抱きしめあっていたかった。生まれ変わったとき、今度は違う形で出逢えるのかな?
呼吸の音がする。すぅ、すぅ。カーテンの向こうが白く染まりだしたころ、となりでかすかに音を立て始めた。
シングルベッドにふたりは狭い。それでも細い腕を精一杯伸ばしている。
「ありがとう」
気づいていないと思うけど、君の柔らかな声はどんなに小さくても耳が拾うんだ。
普段は陽だまりのように明るく元気なのに、夜になると何かに追われるようにうなされ目を覚ます。
何がそんなに君を不安にさせるの? ずっと僕はとなりにいるよ。いつだって抱きしめてあげる。
そう強く誓ったのに、僕はもう君を抱きしめることはできない。
ひとつ覚えているのは、最後に抱いた君の感触。
僕がいなくなったことを、受け入れられずに空を見上げて泣いていた。僕が使っていた枕に顔を押し付け、僕に似た人を見てハッとするね。
僕は今、幸せだよ。触れることは叶わないけれど、君のとなりでずっと見守ってる。
人生が終わったとき、君と抱きしめあえてよかった。生まれ変わったって、君のとなりにいつづけるよ。
終わり
となり 遠山李衣 @Toyamarii
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