24:外道
診療所からの帰り、うすぼんやりとした月明かりに
「なにか分かったか?」
前置きのないしゃべり口から、きっと相手は、レーダーマッキーだ。
何度かうなずき、マクブライトがハナコにかわる。
『よお』
「意外と長くかかったね」
『ああ、だが、奴らの正体が分かった』
「あの政府軍のこと?」
『ああ、あのあと八方手を尽くして、どうにか政府軍のデータベースに潜り込んだんだ。そこで奴らの情報を得た。とは言っても、残ってたのは設立の経緯くらいのもんで、その他ほとんどの情報は削除されちまってたが』
「それで、なにが分かったの?」
『こいつは極秘中の極秘情報だから、心して聞けよ。まず、奴らの部隊は《446部隊》っちゅう特殊部隊だ。ムラトが引き起こした十一年前の《血の五月》のときの戦災孤児をあつめて、詳細は分からないが《
「そんな奴らが、なんでアリスを狙うわけ?」
『それついてはなんの情報もなかった。すまない』
「そう」
『ああ、だが調べたことで、非常に面白いことがあと三つばかり分かった。まず一つ目、奴らは、いくつかある特殊部隊のなかでもかなり異質な部隊で、驚くことに《自由行動権限》が与えられてやがる。これは文字どおり独断で行動ができる権限で、逐一、上に報告する義務がないんだ。この権限は規律を重んじる軍において異端中の異端だ。それも、この部隊が、徹底的に洗脳された孤児たちによって組織された部隊である、ということに由来するものなのかもしれんが』
「じゃあ、ネロの意志によってアリスを狙っているってこと?」
『そうなるな』
あの冷たい三白眼を思い出す。
奴は、いったい何が目的なんだ?
『それで二つ目なんだが』
レーダーマッキーが息を吐く。
『奴ら、《傀儡プログラム》の最終行程として、九年前に《
「地獄なら…… 地獄なら、あたしも経験ずみだ」
『……そうだったな、すまねえ。そして三つ目だ。これはまあ、あまり重要なことでもないのかもしれないが、ニコラス・トンプソンって奴が副隊長代理だってのが気になって、調べてみたんだが、案の定、副隊長はべつにいる』
「そいつは、別働隊かなにかなの?」
『いや、これも詳細は分からないが、その副隊長、やつらが九番にやってくる前の、《赤い鷹》の
「じゃあ、今回はあまり関係のない話ね」
『ああ。だがこのことは、お前らにとってはプラスだな。いま確実に《446部隊》の戦力は削がれている。その副隊長、名前はシーザー・ガローネっつうらしいんだが、そいつは戦闘における主だった指揮を任されていたらしいからな』
「唯一の朗報だね」
それでも、奴らが手強い敵であろうことは間違いない。
「それで、《ピクシー》のことは、なにか分かった?」
『それなんだが、こっちのほうはまるで情報がない。そういう計画があったことは掴んだんだが、なにしろ四十年ちかく前の話だからな。おそらく完全に闇に葬り去られた計画なんだろう』
「そうか。じゃあ、シロー・メンゲレにヒサト・メンゲレ、この二人のセンから当たってみて」
言って、ハナコは神父から聞かされた《プロジェクト・ピクシー》についての情報を、人の良い情報屋へ
『……なるほどな、その二人が《プロジェクト・ピクシー》の中心人物だったってことか。分かった、調べてみよう』
「ああ、よろしく頼む」
通信を切り、マクブライトに携帯電話を放って渡す。
「なるほど、《446部隊》ね」
マクブライトが言う。
「知ってるのか?」
「噂だけはな。
「……とにかく、明日は早くにここを発とう」
結局、《446部隊》にしろ《ピクシー》にしろ、おおよその正体はつかめたが、どちらも、何を目的としてアリスを狙っているのかは分からずじまいということになる。
「奴らもいずれはここをかぎつけるだろうしな」
捨てた煙草を足でもみ消し、マクブライトが言う。
ハナコはその言葉に、ふと不吉な予感めいたものを感じた。
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