2:皆殺しの番か? その1
「さっさと行け!」
教兵に刺股や槍で小突かれて広場いや闘技場に出ると、背後で鉄格子が閉まる派手な音が響いた。
俺たち3人を含めて囚人が8人。何もない空間に歩み出る。
と、対角線上にある鉄格子が開かれた。
高い鉄格子を潜るようにして頭を下げて進み出たあおいつは、外に出ると伸び上がって咆哮を放った。
「ミ、ミノタウロス!?」
「冗談じゃねぇ!」
囚人ふたりが悲鳴を上げて引き返そうとするが、もちろん鉄格子は無情に閉ざされたままだ。
「ミノタウロスって魔族か?」
「ああ、そうだな」
「だったら、魔王が話せば味方してくれないか?」
「可能性はあるが、そうするとメディアにバレてしまうな」
「そうか」
妹がいるからにはローネが連れてこられたのは恐らくこの都市だ。メディアが黒幕である可能性もあるから、できるだけ正体は知られたくない。
「魔王、姿を隠して逃げよう」
「うむ」
魔王は魔法を使おうとして困惑の唸りを漏らす。
「む?」
「どうした?」
「魔法が……使えぬ」
「は? 忘れたのか?」
「そんなわけがあるまい! 魔法が使えぬのだ。メディアめ、魔法封印の結界を張っているな」
「ソーコちゃんは来ただろ?」
「あいつは魔法で呼び出したわけではない。呼べば来る」
「犬か! 待てよ。じゃあ、勇者の鎧もか?」
「恐らく使えんだろう」
勇者の鎧を呼び出そうとしたが、まったく反応はなかった。
「ってことは、魔法なしで」
「うむ。自らの力を持って生き残るしかないな!」
勇者が筋肉自慢なポーズを取って魅せる。
喜ぶな勇者! おまえの体はセイルのだから、その力こぶはちょっと魅せるには貧相すぎるぞ。
「くっ……! なぜ筋肉がこれだけしかないのだ!?」
「ムキムキのセイルなんぞ見たくもねぇわっ!」
「胸はなくてもいいが、胸筋は欲しかった!」
「セイルは胸が欲しいと思ってるぞ」
「ジェイトに押しつける胸が欲しい」
「腕立て伏せをするのだ! そして、肉を食うのだ!」
「硬いのは却下」
熱弁を振るう勇者だが、セイルは素っ気ない。
というか、今胸の話をしてる場合じゃないだろ。
ミノタウロスは俺たちを見つけて突進してきた。
「うっ!? うわーっ!」
悲鳴を上げて逃げ出した囚人の方に興味を持ったのか、ミノタウロスはそっちに突っ込む。
スパーンッ!
頭から左右に伸びた角に囚人が引っかけられて天高く跳ね上げられた。
それを見て観客が悲鳴と歓声を上げる。
ミノタウロスは角に着いた肉片を首を振るって落とし、次の獲物に向かって走り出した。
ズドンッ!
逃げる背中に体当たりすると、囚人は吹っ飛んで鉄格子に激突。ミンチと化す。
その調子でさらに二人を母親でさえ認識できない状態にすると、残ったのは俺たち3人と向かい側にいたおっさん囚人だけになった。
歓声が血に飢えた殺せ殺せという叫びに変わっていた。
「なんだ、こいつら!? 聖なる場所じゃないのか、ここは?」
「メディアは愛と快楽の神だからな」
「なにか手はないのか?」
「いやー、魔法が使えないとただの美少女じゃからのう、ワレは」
「魔法で筋力を上げていたからな、今はただの美少女だ、オレは」
「使えねー! 美少女推してる場合か!」
「ジェイくん、使えるー?」
「ジェイト、倒して」
ファミとセイルが俺に期待に満ちた視線を向ける。いや、無理だし。俺はただの村人Aだし。
そうこうするうちにミノタウロスが俺たちに気づいて頭をこっちに向けた。そして、後脚でザッザッと地面を蹴る。
「突っ込んでくるぞ。来たらさっとかわせよ」
おっさんが俺たちに頑張れよとばかり、ニカッと笑って親指を突き立てる。
「そんな簡単に――」
「ジェイくん、来たよ!」
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