わたし魔王の生まれ変わりなの、と幼馴染みは言った。

神代創

1章 村人Aは村を出る

1:告白されたが返事に困った その1

「ジェイくん、わたし、魔王の生まれ変わりみたいなの……」


 幼馴染みのファミことファミルがさりげなく告白したのは、王都からの使者が復活した魔王討伐のために村からも軍に人員を派遣せよと伝えに来た翌日だった。


 村の長たちは誰を選ぶか会議中だ。17歳になって成人した俺も選ばれるかもななんてぼんやり考えていると、夕方になってファミが人気のない森に俺を呼び出したのだ。


 まさか、告白か?

 そんなことを考えなかったかといえば、まあ、考えなかったわけじゃない。


 ファミは左隣の家の幼馴染みだ。1年下で、生まれた時からの知り合い。背は低いが、胸はとても健やかにたわわに育ち、ぽわっとした雰囲気の癒やし系。村の若い連中からは嫁にしたいナンバー1。それがいつも俺にくっついてるもんだから、やっかみはハンパない。


 そんなだから、告白と考えたのも仕方がなかったのだ。

 それが、こう、なんというか、斜め上に予想外な方向にずれていた。


「あー、そうなんかー」


「ジェイくん、信じてないでしょー?」


「いや、信じてるよ?」


「ホントにー?」


「ホントホントマジホント」


「ウソだー」


「なんでだよ?」


「だって、そんなこと聞かされたら、フツー『あはは、ファミは冗談もかわいいなぁ』とか『わっ、キモッ! でも、そんなところもファミはかわいいよ』とか反応すると思うの」


「そんな反応するヤツいるか! つーか、可愛いのは絶対条件か? いや、だから腕をつかんで胸をすりつけてくるな」


「どうして?」


「はしたないのはダメ」


「ジェイくん、堅物だよね。ここは柔らかいのに」


「微妙なところをすりすりするんじゃない」


 ファミの手をぴしゃりと叩くと、ファミは名残惜しそうに手を離した。


 俺たちの座っているのは真新しい切り株だ。断面は年輪が磨いたように綺麗に見え、おまけに真っ平ら。一流の家具職人でもこうはいかない。


 周りには木しかないし、おまけに村のある方向には切り倒された巨木が大きな陰になっていた。隠れて何かやるなら絶好の場所だ。


 ファミの胸が左腕に押しつけられ、手がすりすりと伸びてきて股間を刺激する。さすがの俺も反応しそうだ。


 こんなことをしているが、ファミとはこれ以上の関係ではない。俺も経験はない。みんなも外でこれ以上はしてはいけないぞ。これも問題あるが。特に誰かに見つかるかもしれないし。


「こんなところでなにしてる、ジェイト?」


 ほら見つかった。


「あー、セイルちゃんに見つかっちゃったねー」


 倒れた大木の幹の上に、長身の女の子が腰に拳を当てて俺をにらんでいた。


 セイルは右隣の家の幼馴染みだ。1年下で、生まれた時からの知り合いというのも同じ。ファミと違って胸はかなり少ない。何を思ったか、揉んでくれたら大きくなるかもと言って、しょっちゅう俺に揉ませようとするくらいだ。そんな切羽詰まった顔をしなくても、どこかにその胸が好きなヤツがいるだろうに。それより相手をにらむような目つきを止めた方がいいと思うぞ。


「それで?」と、いつものように無表情なセイル。こいつが感情を表に出すのを見たことはない。


「ファミが大事な告白したんだよー」


「告白?」と小首を傾げるセイル。


「あー、つまり、おまえと同じようなことだ」


「えー? セイルちゃん、先に告白してたのー?」


「ファミも告白したんだ。上手くいった?」


「んー、よくわかんない。あんまりびっくりしなかったよねー、ジェイくん?」



 俺がファミの告白に驚かなかったのは前日にセイルから似たような告白をされていたからだ。



「ボク、勇者の生まれ変わりなんだ」と――。

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