Chapter 13 驚き!新たな闇の力
部屋の中でアラームがけたたましく鳴る部屋であかりは手を伸ばし、それを止めようとした。あと少しで手に取れるところまで来たところで突然、誰かの手が携帯を取り上げる。
「……はれ?」
あかりは体を起こし携帯を探す、するとすぐに理由がわかった。
「んもー、急におねむを邪魔するなんてぇ……このフィリア・ロッサがとっちめてやろうかしらぁ?」
フリフリのパジャマを着たフィリア・ロッサがストラップ部分をつまんで持っている、彼女は昨日から遠城家で居候していた。
「ロッサさん、おはようございます」
「おはよ紅っち。なぁにこれ、いきなり変な音が鳴ってうるさかったんだけどぉ」
ロッサは頬を膨らませた、初めて見る近代兵器に怒りをあらわにしている。
「ごめんなさい、起こしました? それ時間が経つと音が鳴るようにしてて……」
「まぁ! これ紅っちのだったのぉ? 返すわ」
「ありがとうございます。あの、今から着替えるのでちょっと部屋出てもらえますか?」
「どうしてぇ? 女同士なんだし、服を着替えるくらいなんとも――」
あかりはロッサを強引に部屋から追い出した、十三歳の少女といえど、他人に着替えを見られるのは恥ずかしいからである。
ロッサがいなくなった部屋であかりは早速クローゼットから制服を取り出し、パジャマから着替えた。
『――あの女がここに居座って一夜が明けたな』
「うん。始めはいきなりだったし戸惑ったけど、なんだかお姉さんが出来たみたい」
『――姉か。それなら良いが……』
ヴェルガは依然としてロッサに警戒していた、元は闇の刺客の一人だっただけに当然である。少し時間が経ってあかりの着替えが終わるとロッサを再び部屋に入れた。
「まぁかわいい! この赤い細長い帯がいいわねぇ、これどこの銘柄なのかしらぁ?」
ロッサは胸元で結ばれた蝶結びのリボンを撫でながら言った。
「私が通ってる学校の制服です」
「ガッコウ? セイフク?」
「――あかり、ロッサさん。朝ご飯が出来たわよ!」
ロッサが初めて見る服装に考えこんでいると下の階から母親の呼ぶ声が聞こえた。
「ロッサさん、朝ご飯食べに行きましょう」
「いらないわぁ。ロッサはもう一度寝るからぁ、紅っちだけ食べてらっしゃいな」
「ダメです、朝ご飯は食べないと体によくありませんから!」
ロッサが嫌がる中であかりは強引に背中を押し、彼女を台所へ連れて行った。
「いただきまーす!」
二人の目の前にはきつね色に焼かれたトーストと牛乳が入ったマグカップが置かれている、あかりが元気にパクついている一方でロッサは異世界の朝食に戸惑いの表情を浮かべていた。
彼女はエステラ・トゥエ・ルーヴで朝食をあまり食べず、お昼になろうとする時間には起床して日々を過ごしていた。
そのためか朝陽は苦手で、一筋の光も当たらない真っ暗な場所で眠るのを好んでいた。
「ロッサさん、早く食べないとパンが冷めちゃいますよ?」
「いらないわぁ、紅っち食べてぇ」
「そ、そうですか? それじゃいただきますね」
あかりはロッサの目の前の皿に置かれていたトーストを取るとさっきと同じようにパクつく、最後に牛乳で流しこんで完食した。
「行ってきまーす!」
駆け足で家を出ていく姿にロッサは呆然とする、今まで戦いの時だけしか見たことがなかったあかりの素顔に何も言えなかった。
一方、闇の城ではリーヴェッドがバルコニーで光が射さぬ空を見上げていた。
「――四色の輝石は全て、異世界の者の手に渡ってしまったか……ならば我々漆黒の闇は輝石を持つ者の力を我が物に……」
女帝の考えが変わっていた。
今までは輝石そのものを狙っていたが輝石を持っていると思われる持ち主に狙いを定め、力とともに闇の物にしようということである。この異世界のよる持ち主が闇の刺客となればいいところ全てこちらの物となる、そう思うとリーヴェッドはおかしさのあまり笑ってしまった。
「ならばどのような者が輝石を持っているのか確かめる必要があるようだな……ファニス、ファニスはおらぬか!」
「はっ! ファニスはここに」
ファニスと呼ばれた男はすぐに現れるとリーヴェッドの前でひざまずいた、彼は上下濃い灰色のスーツを着ている。
「この世界にいると思われる四色の輝石を持つ者がどのような者か探ってまいれ!」
「承知しました。このファニス、行ってまいります」
ファニスは冷ややかな目で笑うと、その場で影となって消えた。
「おはよー」「おはよ!」
場は変わって、学校の校舎内では生徒たちが挨拶を交わしていた。
それをあかりは駆け足で掻い潜るとすぐに自分の教室の扉を開けた。
「おはよっ!」
「よっ、あかり! 相変わらず遅刻のデッドラインギリギリだな」
先に来ていた浩平が茶化す、小学校時代からこうしてあかりを弄るのが日課だった。
「バカ浩平ったらもう……」
「おはよーあかり、藤井くんと仲良いね」
呆れ顔であかりが自分の席に座ると、千里が気さくに挨拶してきた。
「おはよ千里ちゃん。仲なんて良くないよ、浩平がからかってるだけだもん」
「そうかなぁ? ケンカするほどナントカって言うじゃん!」
「ないない。千里ちゃん、授業始まるよ」
教室内に始業のチャイムが鳴り、先生がやってきて今日も授業は始まった。
そんな中であかりは窓の外を眺めていた。
『――アカリ、聞こえるか?』
突然ヴェルガが心の中に語りかけてきた。
(ヴェルガ、どうしたの?)
『――この異世界で四色の輝石を持つ者が揃った。だがこれから先、今使う神術だけで闇の力へ対することは出来るのか?』
確かに今四人が使うことが出来る神術は一人につき一つ、ヴェルガによると実際は一人につき三つの神術を得ることが出来るが今の力ではまだ足りないと言う。
(じゃあ私たちが最初に使った神術はすぐに使えたのはなんで?)
『――それは輝石を持つ者なら誰もが出来たからだ、それにアカリは我の力を借りたであろう? そのくらい手間もないということだ』
(そうなんだ……)
ふとあかりは千里を見る、今まではカメラを片手に神たちの戦いを撮影していた彼女も輝石の持ち主になったことを改めて思い出した。
(そういえば千里ちゃんが転生するとこ見たことないな……)
そう思っているとチャイムが鳴り、授業の終わりを告げた。
一方闇の城を出たファニスはあかりたちの通う学校の屋上にいた、今は休み時間だが屋上には誰もいない。
「アディートさんはここで初めて輝石の神と出会ったと聞きました、それならまたここに神は戻ってくるでしょう」
さっきまで冷ややかな目をしていたが遠くの空を見つめると一瞬にこやかな表情を浮かべる、異世界の空の色が気に入ったようだ。
「――!」
突然ファニスは背後に人の気配を感じ振り向く、そこにいたのは一人の女子生徒だった。
「あなた……誰ですか? ま、まさかドロボー!? 先生!」
「おっと、逃がしませんよ?」
逃げようとする女子生徒を見てファニスは術をかける、彼女の前に見えない壁が現れた。
「あなたには私の側にいてもらいますよ、輝石と輝石の持ち主の橋渡しとして……」
ファニスは女子生徒を利用することを決める、彼女は今起きていることに訳がわからなかった。
そういったことに気付かず、あかりと千里は教室内で談笑している。
時間が経って校内にチャイムが鳴った。
「――の句には……」
クラスメイトが教科書を読んでいる中で千里は考える。
(あたしが輝石の持ち主になったってことは、いつもの撮影が出来ないってことじゃん! くあー、あかりたちの活躍もっと撮りたいのに……)
写真を撮る者として千里は悩み始めた、先日初めて戦った時は気にも留めなかったが今になってこのままでいいのかと思う。
『――チサト!』
(ん? 何よ、ジェセ)
『――悩むことはない、ただひたすら目立てばいいんだ! 目立てば誰かがチサトに注目するかもしれないぞ!?』
ジェセは続けて高笑いした。
(目立つか……考えたことなかったな。いつもあたし写真撮ってる側だったし)
千里は今一度考え始める、運動会や文化祭があった時は何も参加せず写真を撮り続けた。
その出来栄えにクラスメイトがほめてくれる姿が印象的で中学に上がってもずっとと思っていた最中にこの学校へ転校する、ここでも同じように撮り続けていた時出会ったのがあかりだった。正義の味方のように戦う姿に今までとは違う思いを感じ取る、自分もその立場に立って何をすればいいのかわからなかった。
ボーっと考えているうちにチャイムが鳴る、校内は再び休み時間に入った。
「遠城さん、いる?」
教室の外から隣のクラスの女子生徒が顔を出す、どうやらあかりに呼び出しのようだ。
「何?」
「遠城さんを連れてきてくれって私のクラスメイトから言われたんだけど、いいかな?」
「いいけど……」
あかりは女子生徒に連れられ廊下を出る、なぜ呼び出されたのか見当もつかなかった。
やがて二人は階段を降りると、どこのクラスも使っていない空き教室の前にやってくる。
「ここにクラスメイトが待ってるわ。遠城さん、入って」
あかりは警戒もせずに中へ入る、その後にクラスメイトは入らず元の教室へ戻っていった。
「えっ? ちょ、ちょっと!?」
『――妙だな』
その直後にヴェルガが口を出した。
教室内は机やイスは片付けられていてカーテンが閉められ、隅っこには掃除用具が入っているロッカーが一つ置かれていた。
「妙って何が?」
『――この中から僅かに黒い気配が感じられる』
「え、そんなまさか……」
「遠城さん」
その時だった、あかりは教室内で声をかけられる。
カーテンが閉まっているといえど暗く、その姿は確認できなかった。
女子制服が僅かに見えるため、この学校の生徒であることはわかった。
『――アカリよ、黒い気配を感じるということは闇の者がいつ現れるかわからぬ。転生の詠唱だ!』
あかりは激しく頷くと転生の構えに入った。
「――ヴァイス・ファ……!」
「うあああぁぁっ!」
突然声をかけた女子生徒はあかりに向かって突進してきた、一瞬のことに油断したのか二人はぶつかった。
「あっ!」
その弾みで紅き輝石は床に落ちて転がっていった。
「お見事! さすがですねぇ」
別の声が女子生徒を拍手交じりに褒め称える、同時にその声の主は輝石を拾い上げた。
「これさえあればもうあなたに用はありません、元の持ち主とともに消えてもらいましょう。この闇の力で!」
拾い上げたのはファニスで、あかりに突進してきたのはさっき屋上で捕らえられていた女子生徒だった。
「甦るのです! 我が闇の力、ヴァルザーナ!」
ファニスは左手に溜まった闇の力を黒板へ向けた。
「!?」
女子生徒は我に返ると目の前で起きていることに目を白黒させる。
「あ、あわわわっ!」
やがて怖くなって、そのままロッカーへ隠れた。
闇の力を浴びた黒板はきしみ始める、それをあかりはただ見ているしかできなかった。
輝石は今ファニスの手の中にある、このまま漆黒の闇の物となってしまうのかと思った。
一方千里はあかりを空き教室へ連れて行った女子生徒に話を聞いていた。
「なんであかりを呼び出したの?」
「私が呼び出したんじゃないよ、あの子が二時間目入る前に頼んできたの」
「あの子って?」
「私のクラスメイト。『紅く輝いたビー玉を持った子が校内にいるらしいから探してほしい』って」
「!?」
それを聞いて千里は嫌な予感がした。
「それで私、遠城さんが紅いビー玉持ってたこと思い出して――」
「あかりはどこ!?」
「一階の空き教室……あっ、龍丘さん!」
話を聞き終えずに千里は空き教室へ向かった。
「あかり、もしかして今戦ってるの?」
今彼女心の中は神と闇が戦っている様子を写真に撮りたい気持ちと、同じ神として戦わなくてはいけないという気持ちが交差している。
一階を降りて千里は空き教室の前にやってきた。
「ここか……」
『――くーっ! 感じるぜ、黒い気配が! チサト、転生と行こうぜ!』
「うんっ!」
千里はすぐさま転生へ向けて構えた。
「――ヴァイス・ガイルス!」
この言葉のあと彼女は両腕を横に広げると、全体が黄色い光に包まれる。
両手には白い手袋が、胸元には薄い黄で彩られた白いフリルがついた半袖の黄色いチェック柄のドレスが着せられた。
足には先ほどまで履いていた上履きが短いブーツと膝までの長さがある靴下に、スカートはドレスと同じ柄のショートスカートにそれぞれ変わった。
さらにポニーテールで揺れる髪が砂のような山吹色に染まると転生は全て完了した。
「ジェセ、開けるよ?」
『――いいぜ!』
千里から転生した黄の神は教室の引き戸を引こうとした、しかしいくら力を入れてもビクともしない。
「何これ? 鍵がかかってる」
『――どうやら闇の術で閉じ切ってるみたいだな』
「チッ」
黄の神は歯がゆい気持ちになって舌打ちする、中にいる友達を思うと心配だった。
同じ頃あかりは闇の力により動き出した黒板の攻撃を受けていた。
黒板消しによってチョークの粉を振りかけられ、髪は真っ白になっている。
「ケホッ、ケホッ!」
ただそれにむせるだけで反撃出来ぬまま、教室内を逃げるしか出来なかった。
「さぁ、おしまいと行きましょう!」
これを見ていたファニスが指を鳴らす、その直後に無数のチョークが弾丸のようにあかりへ迫った。
「もう、ダメ……!」
諦めかけていたその時、教室の窓ガラスが割れる音が耳に入った。
カーテンは激しくはためき、暗かった教室に黄色い光が射す。
その光のまぶしさはロッカーに隠れていた女子生徒も隙間から見ていた。
「何あの光……?」
「――ガイルス・セレイデ!」
黄色い砂岩のような盾があかりの前に現れる、自分も神だけになぜここに盾が出来たのかすぐに想像がついた。
「イエロー!」
「へへっ、ごめんごめん。ここ入るのに手間取っちゃった」
「まったくもー、大胆なんだから!」
あかりは少しおかんむりだった、しかしすぐにそれは消える。
ピンチを救ってくれたことに内心感謝していた。
「なんと! もう一人、輝石の持ち主がいたのですか!?」
ファニスは黄の神とあかりを交互に見て、慌て出した。
「イエロー、輝石があの人に取られちゃって……」
「何!? よーし!」
黄の神はすぐに神術の構えに入る、ロッカーの中にいる女子生徒はこれから何が始まるのかという表情だった。
「――ガイルス・タウラ!」
雄々しい牛のような形の光が黄の神の体を包みこむと、その直後にファニスへ力強くタックルした。
「ぐはっ!?」
腹部に強い衝撃を受けた勢いで紅き輝石は手から落ち、あかりの元へ転がっていった。
「このままでは終わりませんよ、漆黒の闇が潰えるその日まで!」
ファニスは腹部を抑えながらも影となって消える、雄々しい牛のような形の光は直後に黒板にぶつかる。
教室内にあった闇の力は消え、元の空き教室に戻った。
「まったく……二度も助けられちゃった」
あかりは一つため息をついた。
「いいじゃんいいじゃん、細かいことは」
「ま、そうだね」
この時校内にあった黒い気配は消える、しかし新たな闇の刺客が現れたことにより神の力をさらに強くして行かなくてはいけないと二人は思った。
「な、何あれ……か、カッコよかった……!」
一方ロッカーの中にいた女子生徒は黄の神の戦いを見て、憧れを抱き始めていた。
『――さっすがチサト! 俺の声が聞こえただけあって、だんだん神らしくなってきたぜぇっ!』
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