自爆、フレンドリーファイアは仕様です

春風 村木

ほんぺ

 よし、キャラメイクはこんなもんで良いだろう。


【Welcome to The magic world online !!】

【こんにちは 『コンソメ味』】

【さっそく あなたの物語が 始まります!】


 そんな文字列が流れ、画面が暗転する。

 見えてきたのは海。足元には砂。海辺だ。


ーードッギャーン!

 そして視界の正面には、船が爆発していた。


【なんてことだ 祖国に帰るために乗っていた船が 爆発してしまった!】

【しかも 逃げる際に 慌ていて 持ち物を全て船に 置いてきてしまったようだ!】


 突然の爆発に唖然していると、そんなアナウンスが流れてくる。男性声だ。誰だよ。

 そんな俺の疑問は答えられることなく、アナウンスが続く。


【しかし 貴方は幸運だった!】

【一つは船から逃げられなくなる前に ここまで逃げられたこと】

【ニつ目は――】


 すぐ足元の砂が爆発する。視界が晴れると、そこには黄金の装飾が施されたバックが突き刺さっていた。


【――船の爆発によって 一つの魔機が箱に包まれたまま ココまで飛んできたのだ】

【魔機――それは人間が魔法という力を発揮できる道具】

【その道具は本来 値段がつけられないほど貴重で 人々が求める 力だ】

【貴方は この魔機を使って この国で成り上がることを決めた!】


「欲に目がくらんでる……」

 そんなに貴重な物なら売って、そのお金で実家に帰れよと思う。本来の目的、帰国の事を忘れるなよ。

 ……まぁゲームのシナリオに完成度を求めてはダメか。面白ければ良いのだ。ゲームだから。


 とりま、魔機が入っているという砂に突き刺さったバックを開けようとする。

 すると目の前にウィンドウがポップアップ。


【魔機を選択してください】


 箱を開けるモーションないのかよ。頑張れよそのくらい。


【杖:威力UPポーナス】

【銃:発生速度UPポーナス】

【手:魔法搭載量増加ポーナス】


 選択ウィンドウには、このような選択肢が表示されている。

「……手ってなに?」

 杖は分かる。魔法といえば杖。当たり前だ。

 銃も分かる。魔法を打ち出す銃って、科学とオカルトが混じってカッコいいよね。


 んで、手は……何これ?

 手から魔法を出す行為自体はありふれている。ありふれているんだが、それが魔機の選択肢に出てくるのはおかしくないか?

 手から魔法を発動させるモノとして思い当たるのは……指輪か? ああでも、それなら選択肢に指輪と出すはずだ。いや魔機のカテゴライズとして、なんとか一文字に済ませるために【手】っと名称を付けているだけかもしれんが……選択ウィンドウには画像はない。見た目とか一切分からなかった。

 ……まぁ初期装備だ。気軽に選ぼう。


 【手】を選択する。

 するとバックが開いて、一つのグローブが出てきた。そいつは手の甲に無色のダイアモンド的なのが、はめ込まれている。

 なるほど、確かに手だ。手としか言いようがないねコレ。


「というか開くモーションあったんだね」

 多分選択肢で中身が変わるシュレディンガー的な箱だったのだろう。勘違いしちゃった。


 中にあるグローブを右手に嵌めていると、ウィンドウがポップアップして、アナウンスが鳴り響く。


【チュートリアル:武器装備】

【武器の装備は インベントリから可能です】

【現在 インベントリは 「インベントリ」と 宣言コールするか】

【右手の甲を 左手の人差し指で二度叩いて ポップアップさせることができます】


「いやもう、物理的に装備しちゃったよ」

 しかし、このインベントリからの装備は役に立つ。何せ、鎧などを防具として装備するとき、一人では手が足りず不可能だからだ。

 しかし、インベントリからの装備ならば一瞬で装備が可能である。つまり一人でも装備が可能だ。


 そのため、あらゆるVRのRPGでは基本的な機能なのだ。

 普通に、物理的に装備しちゃったけど。


【船が爆発した地点から 港まではそう遠くないはずだ】

【貴方は そこの森を抜けて 港へと向かった】


 アナウンスと共に、視界の端にコンパスのようなUIが出現する。そのコンパスが示す先は森だ。

 特にそのアナウンスを無視する理由もないので、コンパスが示すまま森へと足を運んだ。



 ◇◆◇◆◇



 森の中。奥に続いていく道に沿って歩いていく。

「お、なんか如何にも回収できそうな花があるな」


【チュートリアル:花】

【フィールドには様々な素材が「スキップ」


 長ったらしい説明を読むのはめんどくさい。スキップだ、スキップ。RPGをある程度遊んでれば察しはつくしな。

 この後も、咲いていた花やキノコなどを見つけるたび、素材回収のチュートリアルが始まるが、スキップ。適当に根っこから抜いてインベントリに入れた。


 そうして数十分がたち、初めての敵キャラを目撃した。

「……」

 ゴブリンだ。

 緑色で、子供よりやや身長が高い程度で、緑一色。とても筋肉質とはいえない貧弱な体であるが、その右手にはバットのように加工されている木製武器が存在していた。

 まだゴブリンはこちらには気が付いていないのか、空を見上げてぼんやりとしている。本来なら攻撃のチャンスであろう。


 ただ、

「まだ俺、魔法をどう発動すればいいのか分からないんだよなぁ……」

 攻撃手段がない。

 まぁゴブリンに近づけば、そのチュートリアルは開始されるだろうと思い、まっすぐ進んでゴブリンに見つかった。


【チュートリアル:魔機「手」】

【魔機「手」は 魔法が装着されている指を敵に向けて 魔法名を宣言コールすれば発動する】

【初期装備の「手」には 右人差し指に「魔弾バレット」が 装填されています】


「――グギャアォ!」

 謎の男アナウンスと同時に、ゴブリンがこちらに向かう。

 早い。数秒もしないうちにバッドを俺の顔にぶつけそうだ。さっさと倒そう。

魔弾バレット!」


 何も起こらない。


「……え、なんデギャッ――!」

 バットで殴られ、地べたにゴミの様にゴロゴロ転がる俺に対して、アナウンスが告げる。


【武器や防具は インベントリから 必ず装備してください! 装着してるだけじゃ駄目ですよ!】

「なにその仕様?! 身に着けるだけじゃ駄目なの?!」


 駄目らしい。

 インベントリを確認すると、右手の欄が空欄、装備なしだった。

「そのまま身に着けてもダメで、ちゃんと装備欄から装備しないとダメなのかよ……!」


 ゴブリンが振り回すバットをヒイコラ避けながら、装備してた魔機グローブをインベントリに放りこむ。

 すると、右手が光り輝いてグローブが装備された。

魔弾バリャト!」

 噛んだが魔法は発動した。

 右手から野球ボール大の黒球が飛び、ゴブリンの頭を貫く。貫いた。

 ゴブリンの顔面と後頭部から緑色の液体が、ドボドボと落ちる。

 顔面には穴が開いていた。そこから後ろの景色が見える。

「うわぁ……」

 グロイ。具体的に描写をするのが憚れるようなことがゴブリンの頭蓋に起こっている。さすが微粒子一つ一つを演算しているゲームだといえるようなグロテスクな現場がここに存在していた。

 あんま見たくないのでスルーして進むことにする。


「というか魔法すげぇな」

 本当に発動した。ゴブリンを倒した。

 現実にはありえない、その現象に凄い喜びを感じていた。


 というか、どう発射していたのだろう?

 発射した時、ゴブリンのバットを避けながらだったので発射した瞬間をよく見ていなかったのだ。

 好奇心に背を押されるままに、右手の人差し指を自分の目に向けてる。

魔弾バレット!」

 黒い球が目の前に発


【You Died】

【死因:魔弾バレット(自爆)】

【貴方が行った 最後のチュートリアルが 終わった地点で 復活します】

【これは チュートリアルマップ 限定処理です】


「……え?」


 死ぬの? 自分の攻撃で?!

 唖然としていると、目の前にウィンドウがポップアップする。


【最終ムービー】

【チュートリアル:最終ムービー】

【貴方が死んだ際 死ぬ直前の現場を映像として 見ることができます】

【この機能を活用して 強大な魔物に対して 対策を練ろう!】


 死因、魔物じゃなくて自爆なんだけどな。

 せっかくなので、最終ムービーを確認してみる。

「うわぁ……」

 先ほど倒したゴブリンと同じような事が、俺の顔に起こっていた。

 つまり、顔面と後頭部に血を山ほど垂れ流していた。

 正面から見てはいないのだが、きっと顔面から後ろの景色が見えるのだろう。


 げんなりした気分になりながら、俺は道を歩き始めた。



 ◇◆◇◆◇



 その後もゴブリンに会っては、ゴブリン体に大穴を開けさせていく。

 二体がかりで襲ってきたゴブリンを倒したとき、宝箱がドロップした。

 宝箱に近づくと、宝箱についてのチュートリアルが発生。スキップする。そのぐらい分かるわ。

 宝箱を開けると、いろんな図形が描かれているシールが入っていた。


【チュートリアル:魔法2 / スキル】

【魔法には スキルを 付与することが 出来ます】

【宝箱に 入っていた 「ホーミング」 のスキルを 付与してみましょう!】


 その後も、ざらざら流れてくる説明にうんざりしながらも、俺は【ホーミング】のスキルを、魔弾バレットに付与する。


【スキル:ホーミング】

【このスキルを付与した魔法は 自動的に一番近いオブジェクトに向かう】


「お、強くない?」

 このスキルの力があれば、魔法を明後日の方向に打っても自動的に敵に向かってくれるのだろう。

 このゲームを始めたばかりで、遠くから狙いを定めるのが難しい初心者である俺としては、とてもうれしいスキルだ。


 少し離れた場所にゴブリンが居たので、さっそく試し打ちだ!

 距離としては、50メートル先。そこから打ってみる。

 人差し指は思い切って、真上。

 そこから魔弾バレットを打てば、大きく円を描く形で、真上からゴブリンを貫くだろう。

 そんなかっこいい未来予想図を頭に浮かべながら発射する。


魔弾バレット!」


 まっすぐに真上に飛んでいく魔弾バレット

 ググっと大きく円を描きながら、頭を貫いた。


 俺の頭を。


【You Died】

【死因:魔弾バレット(自爆)】

【貴方が行った 最後のチュートリアルが 終わった地点で 復活します】

【これは チュートリアルマップ 限定処理です】


「……なんで?」

 どうして俺の頭を貫いたの?

 急いで最終ムービーから、魔弾バレットの動く軌道を確認すると、一つの真実が浮かび上がった。


魔弾バレット、俺を狙ってね?」

 何でゴブリンじゃなくて、俺の頭蓋を狙ってんだよコイツ。

 もう一度、スキルを確認してみる。


【スキル:ホーミング】

【このスキルを付与した魔法は 自動的に一番近いオブジェクトに向かう】


「このオブジェクトっていうの、俺も含まれているのか?!」

 いやオブジェクトっていう表現の仕方なんか変だなぁって思ってたけど、普通に考えて俺自身も入っているって思わないでしょ!


「つまり、俺が放った魔弾バレットは、ゴブリンじゃなくて、一番近いオブジェクトである俺を狙ったわけか」

 クソじゃん。



 ◇◆◇◆◇



 50メートル先から、まっすぐゴブリンを狙っても結局俺に向かってしまう【スキル:ホーミング】。

 しかし、25メートル先ならば、発射した瞬間は俺に狙いを定めるが、すぐにゴブリンに標準を直して胴体を破壊してくれた。

 多分、魔弾バレットが俺を狙おうと進んでいる時、俺より近いオブジェクトが見つかったら、そっちにロックオンする仕様なのだ。

 つまり、狙いは常時更新していくタイプらしい。


 そして一つ問題が発生した。

「気づいちゃうんだよなぁ……」

 25メートル地点だとギリギリ、ゴブリンが俺に気づいてめんどくさいことになるのだ。

 遠距離からの暗殺はできない。50メートル先からゴブリンを倒すには、スキル無しで魔弾バレットを打たなくてはならなかった。


 ――キィン――ガッ――!


 しばらく進むと、ゴブリンとオッサンの争い現場を発見した。

 オッサンの武器は鋼っぽい剣。防具は傭兵ぽい恰好だ。

 ゴブリンは木製バット。雑巾みたいな色した布を身にまとっている。

 互いの武器を打ち合っていた。


 俺の足音に反応したのか、おっさんが振り向く。

「――誰ッ! 人間か! 助けてくれッ!」


【クエスト発生!】

【クエスト:ゴブリンを一緒に倒そう(チュートリアルクエスト)】

【チュートリアルクエストを 自動受注します】

【これは チュートリアルマップ 限定処理です】


【チュートリアル:クエス「スキップ」


 ゴブリンは俺の方を向いていない。というか俺に気づいてすらいないだろう。

 なら、俺は離れたところから魔法をゴブリンに向けて放てば良いだけだ。

魔弾バレット!」

 魔弾バレットがスキル【ホーミング】の効果によって、俺を狙おうとして円弧を描く。

 だが、しばらく進んでいる間に、一番近いオブジェクトは俺ではなくなったのだろう。

 スキル【ホーミング】は新たなるロックオン先を判定。そこに魔弾バレットは進む。


 そして胴体を貫き、大穴を開けた。


「……ど、どうして……なんだ……ぁ……」


 オッサンの胴体に。


【護衛対象「アンク・ルおっさん」が 死亡した】

【クエスト失敗:ゴブリンを一緒に倒そう(チュートリアルクエスト)】

【クエスト開始直後に戻ります】

【これは チュートリアルマップ 限定処理です】


「……味方でも、ホーミングするのかよ」

 俺はオッサンの後ろから魔法を打っていたので、そのせいでオッサンに【ホーミング】のロックオン先になってしまったのだろう。一番近いオブジェクトを狙うらしいし。


「なら、ゴブリンの後ろに回って打ってみるか」

 即実行。


魔弾バレット!」

 今度はオッサンではなく、ゴブリンに魔弾バレットはロックオンし、ゴブリンの胴体を貫いた。


「……ど、どうして……なんだ……ぁ……」


 オッサンの胴体も、ついでに。


【護衛対象「アンク・ルおっさん」が 死亡した】

【クエスト失敗:ゴブリンを一緒に倒そう(チュートリアルクエスト)】

【クエスト開始直後に戻ります】

【これは チュートリアルマップ 限定処理です】


「……威力、強すぎない?」

 ゴブリンを貫いた魔弾バレットは、減速することなく、ついでにとオッサンの胴体も貫いたのだ。

 チュートリアルで貰える魔法の威力じゃねぇ。



 ◇◆◇◆◇



「あぁ、助かった! 君は命の恩人だ!」

 その恩人はお前を2回殺したんだけどな。ついでに右手も蒸発させてしまったよ。


 あの後、真横からゴブリンを魔弾バレットしようと行ったのだが、オッサンの右手も貫いてしまって、クエスト失敗してしまった。


 なので、

「まぁ、まさか真後ろに立たれるとは思わなかったが……」

 オッサンの脇の下から魔弾バレットを発動した。


 オブジェクトを貫けば、【ホーミング】は機能を停止し、そのまま真っ直ぐ飛んでいく。

 オッサンの真後ろなら、魔弾バレットが真っ直ぐ飛んで行っても大丈夫という戦法だ。


 オッサンの後ろにアルゴリズム体操的な前ならえ魔弾バレット攻撃する俺の姿は、とても見栄えが悪かっただろう。


「と、とりあえず、お礼をしなくては……金は、すまないが最低限しかもってなくてな、代わりにこれで許してくれ」

 そう言って、オッサンはビンをこちらに向ける。

 瓶には、緑色の液体が揺れていた。

 それを受け取る。


【回復瓶】

【中身の液体に触れると、肉体が再生する】


「では、さらばだ!」

 オッサンはそのまま道を走り去っていた。


【クエスト完了:ゴブリンを一緒に倒そう(チュートリアルクエスト)】

【報酬:「称号(前):さすらいの」「称号(後):初心者」】

【チュートリアル:称号「スキップ」


 称号とかどうでもよかったので、俺も先に進むことにした。


【チュートリアルマップを 超えました】

【オンラインモードに移行します】


【ようこそ 魔法が支配する この世界に!】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自爆、フレンドリーファイアは仕様です 春風 村木 @harukaze_miraki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ