ストーカーボーイズ~同級生の男子二人がストーカー友達でした~

永久保セツナ

第1話 同級生の男子二人がストーカー友達でした

【※警告※】

 この作品はフィクションであり、ストーカー行為を助長・推奨するものではありません。

 ストーカー行為は法律で罰せられる犯罪です。

 現実とフィクションの区別がつかない方は読まないでください。


 ***


秋野あきの~、なんか予算三万でいい感じのカメラとか盗聴器とかねえか?」

 金髪のポニーテールを揺らし、日焼けした浅黒い肌の男子高校生――水上みなかみにしきが、友人の秋野あきの夕陽ゆうひに訊ねる。

「カメラだったらこれオススメ……盗聴器はネットで買えるよ」

 水上とは対照的に、品行方正な黒髪で色白の秋野が電器店のカタログを取り出し、写真を指差す。

「あー、なるほど……いや~、もっとバイト頑張らないとな~でもバイトに時間割くとかえでを見守れないんだよな~」

 水上は頭の後ろで手を組み、背を反らしてギシッと椅子をきしませる。

 ちなみに今は昼休み。教室で弁当を食べながら男子高校生ふたりが盗聴器を話題に出している、異様な光景。

(昼休みにストーカー談義をする男子高校生……この世界は狂っている……)

 ちなみにアタシは水上のストーカー被害に遭っている女子高生、松崎まつざきかえで

 友人の照山てるやま紅葉もみじとお弁当を食べていたら、近くの席からストーカー談義が聞こえてきて、なんとなく耳をそばだててしまったのを、いま猛烈に後悔している。


 アタシ――松崎楓が、いかにして水上錦のストーカー被害を受けるまでに至ったのかを説明しなければならない。

 水上は見た目通りの、いわゆるチャラいギャル男である。アタシ自身はギャルというほどでもない。スカートを少し短くしているだけの、ごくごく普通の女子高生だ。

 アタシが初めて水上に出会ったのは、友人の紅葉と一緒にだべってた喫茶店。ふわふわのパンケーキで有名で、それを楽しみに二時間並んだ。

 そして、アタシたちの順番が回り、席についてパンケーキがやってくる。そのバターとメイプルシロップたっぷりのパンケーキにナイフを入れようとした瞬間――

「――いい加減にして! アンタ気持ち悪いのよ!」

 至福の時間を罵声で台無しにされて、なんだよ、と声のする方を見る。

 どうやら男女のカップルが喧嘩をしているようだ。叫んでる方の女は何故か顔が青ざめていて――

 気持ち悪い、と罵られた男は、その罵り言葉が似合わないほど美形だった。

「うわ、イケメン……。アイドルみたい」

「いや、アイドル……ではなかったはず。あの人、同じクラスの水上くんだよ。あんまり学校には来てないみたいだけど」

「えっ、そうなの?」

 アタシと紅葉がひそひそと話している間に、カップルの女は水上というらしい男にグラスの水をバシャッと勢いよく浴びせた。

 店内はシン……と静まり返る。

「私、もう帰るから。二度と顔見せないで」

 女は怒った様子で店を出ていく。カネを払わず出ていくところを見ると、この状況で彼氏に奢らせる気満々らしい。

 水上は微動だにせず、ただただ水を髪の先から滴らせながらテーブルを見つめている。

「あ、あの……大丈夫?」

 アタシは世話焼きな性格が災いして、その水上とかいう男に話しかけてしまった。ハンカチを差し出したが、水上はハンカチを見つめるだけだったので、アタシが水のかかった箇所を拭いた。

 ――今にして思えば、その行動こそがすべての元凶であった。

 アタシのハンカチを持った手を、水上は両手で握りしめた。

「……運命だ」

「はい?」

「君、同じクラスの松崎楓さんだったよね? こんなところで逢えて、しかも俺に優しくしてくれるなんて、運命に違いない」

「は、はあ……」

「楓さん。俺と付き合ってください」

 アタシはほぼ初対面の男に、しかも男が失恋した直後に、突然告白され、付き合うことになったのである。

 いや、アタシにも「顔はいいし、彼氏欲しかったし、ちょうどいいかも?」くらいの魂胆はあった。

 しかし、水上の実情を知り、アタシは告白を受けたことを後悔することになる。


「ねえ、紅葉。アンタの彼氏――幼馴染だっけ? そいつもアンタのことストーキングしてるんでしょ?」

 アタシは声を潜めてストーカー談義をしている男子高校生ふたりを横目で見る。

 水上と話に興じている黒髪で色白の男子――秋野夕陽は、紅葉の彼氏で、幼馴染。そして、紅葉のストーカーでもある。

「紅葉は嫌だとか気持ち悪いとは思わないの?」

「うーん、夕陽は昔から過保護なとこあったし、もう慣れちゃったかな」

「この世界は狂っている……」

 アタシは頭を抱えたくなってきた。ストーキングに慣れるとか、この友人もどうかしている。

「楓」

 水上の声がして、ビクッと肩が震えた。

「楓と照山さんも、こっち来ない? 一緒にお弁当食べよ?」

「うん、いいよ」

 紅葉が勝手に返事して、秋野の隣に机をくっつけてしまう。アタシだけが孤立無援だ。仕方無しに、水上の隣に渋々机を寄せた。

「……で? さっき何か不穏な会話が聞こえてきたんだけど?」

「盗み聞きなんて、楓もいい趣味してるな」

「いやお前に言われたくねえわ! 聞きたくなくてもこんな近くで話してたら聞こえちゃうでしょ!?」

 水上の台詞に、アタシはダァンと机を叩く。

「カメラと盗聴器を買って何に使うつもりなのよ!? いや、盗聴器の使いみちなんて限られてるけどね!?」

「もちろん、楓の姿と声を記録して、俺のコレクションに――」

「キッモ」

 アタシの目はもはや死んでいる。

 しかもこのクソストーカー野郎との仲は、紅葉のみならずクラス、いや学校中に公認されていた。悪夢か?

 ――いや、告白を受けたのはアタシ自身だ。その責任は自分でとらなければならない。

 とにかく、このストーカー野郎を更生させないと、そのうち監禁でもされかねない。考えただけで身震いがする。

 というわけで、アタシは水上のストーカー被害に悩まされながらも、水上のストーキングをやめさせる方法を探している道の途中である。

 コイツと別れたいのはやまやまなのだが、下手な刺激を与えたらヤンデレ街道まっしぐらだろうし、なんだかんだアタシ好みの顔のイケメンなので手放すのも惜しい。

 ……まあつまり、イケメン彼氏をキープしたまま、その性癖を改善したいわけだ。

 アタシ、松崎楓と、ストーカー彼氏、水上錦の戦いが今始まる!


〈続く〉

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