第十三話 面
これから土日を迎える金曜日の夜。琢磨と撫子は工房に籠り神楽面製作をしていた。
葛城山の大鬼の面は大きく迫力のあるものを作らなければならない。
前と同じく石膏の型に粘土をはめ、取り外し手で成形を加える。
だが、何度やっても撫子の面は怖く恐ろしく迫力があるなんてのはなく、ただ絵本などに出てくるちっぽけな鬼といった感じだった。
これではダメだとおもった琢磨は、撫子には教えていない秘密の部屋に招くことにした。
警戒はされたが、その部屋の電気をつけると何演目もの大鬼の面が数多く納められていた。
「ここは、俺の親父とじっちゃん、その先祖が代々自分の一番だと思った神楽面を納める場所なんだよ」
「へー」と撫子は目を輝かせていった。
普通なら泣いてしまうのだが、神楽面好きにはたまらない部屋なのだ。
「神楽面てのは江戸時代から和紙を使って面に変えたという話もある。高千穂などの神楽はゆっくりした昔ながらの舞だから木の面で十分なんだが、石見とか広島の新舞は早さが求められるから軽くて丈夫な和紙の面になっただぜ」
「知ってますよそのくらい」
と撫子に言われた。それもそうだ、叔父が神楽の八岐大蛇で使う蛇胴をつくっているなら神楽にも精通しているはずだ。
「だったら、昔は蛇胴じゃなくて、布に蛇の模様を描いたもので舞っていたのも」
「その衣装なら鳴子おじさんの家に飾られていますよ」
「ですよね!」
くそ、いいとこを魅せれていない。じゃなくて、こんなことを言いたいじゃない。琢磨は深呼吸をして話し出す。
「神楽面てのは自由だ。だけどただの面てのはどこにでもある。さっき撫子が作った面は言い方が悪いが節句などで大量につくられる紙で出来た鬼の面と同じなんだよ。神楽面てのは形が無いから面白い。撫子は多分前の俺みたいにいいとこをとってはめただけの面をつくってるんだよ。時間はいつまでかかっても構わない。ダメそうなら俺がカバーするから好きなように思いっきりやれ」
「分かりました」
撫子は何かを掴んだかのように神楽面製作に没頭した。琢磨は限界を迎え、風呂に入り寝るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます