第三話 立ち止まって戻っていく

 鳴子さんに頬殴られてそのまま眠りに付いてしまった琢磨。日々徹夜をしていたせいで長く寝てしまったようだった。締め切りまで時間が無く焦りはある。だが、冷静であった。

 琢磨はふぅと息をして、両頬を手で叩いた。

 赤土の粘土で型取った滝夜叉姫で使う女面に手で修正を掛けていく。この面を使う時は、滝夜叉姫が神と立ち会う時である。そうすることで鬼になり迫力が増し、観客を魅了させる。

 あえて整っている口をぐにゃぐにゃと曲げ、右目だけ鬼のような目にして、左目は鬼と人の中途半端な間な目にさせた。

 一通り型をつくり、見渡す。だが、何かが無かった。

 琢磨は一度立ち止まることにした。琢磨は本棚にある神楽面の事が描いてある本を数冊取り出し、本を開いた。この本には昔に創作された神楽面が描かれていた。

 昔は木彫りの面で作られていたのだが、石見神楽面に激しい舞をするため軽くて丈夫な石州和紙をつかって創作された。

 琢磨はその本を眺めながら、写真をもとに作ってみた。

 これは、ただ昔の物を作っただけに過ぎないものになった。いや、それ以下と言ってもいいほど出来の悪いゴミが出来た。

 これは逆に戻ってしまったようだった。

 琢磨は家を出て近くの土手で寝転がった。そして、寝ることにした。

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