貴船・滝夜叉姫編
第一話 とある神楽団からのお願い
琢磨が撫子と神楽面作りを始めようとした時、家の電話が鳴った。琢磨は急いで電話を取る。
「もしもし、甘噛神楽面工房です」
すると男の太い声で、
「あの、神楽面製作を依頼したのですが、よろしいですか?」
「ちょっと待ってくださいね」
琢磨は自分が受けている仕事を確認し、
「大丈夫です」
と答えた。
「良かったぁ。実は結構な急ぎで5月24日の日曜日に納入してほしいのですが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
確かに結構な急ぎだが、創れる自信だけで返事をした。そして琢磨は、
「どんな神楽面をご所望ですか?」
「滝夜叉姫に使う姫の面を一式お願いします。」
「分かりました。お名前と電話番号、どこで渡せばいいのか場所を教えてもらってもいいですか?」
「はい、えっと名前は坂上
「分かりました。それでは、5月24日の日曜日、指定の場所にお届けします」
「はい、了解しました。あの、一つだけ言いたいことがありまして」
「と、言いますと?」
「独創的で魅力溢れる面を創っていただきたいのです」
「独創的で魅力溢れる面……、分かりました。精一杯頑張らせていただきます」
「それではお願いします」
ぶちっと電話は切れ、琢磨は電話を受話器に置いた。
「よっしゃ、仕事じゃ!」
「え、でも神楽面の作り方を教えてくれるんじゃ……」
「ごめん、仕事が終わるまでは待ってくれないか、結構急ぎな仕事なんだよ」
「そうなんですか。……分かりました」
撫子は悲しそうな顔をしたのだが、琢磨はこれからつくる神楽面で頭がいっぱいだった。
・・・
四月七日火曜日。登校日である。昨日まで同級生に撫子という名前が無かったはずなのだが、
「今日から一緒に学校生活を送る仲間が増えるぞ」
そういって教室に入ってきたのは、弟子である撫子。クラスの男子の目は一点に集中した。ほんと、思春期。琢磨も例外ではない。
「え、えっと日和 撫子です。これからお願いします」
と、当たり障りのないあいさつをして終わらせた。
「えっと、日和さんの席は……」
そう言って辺りを見渡し、琢磨の隣を指を指す。
「甘噛の隣の席だ。甘噛、日和さんが分からないことを教えてやれよ」
「あ、いや、はい、分かりました」
そうして、撫子が琢磨の横に行く。すると、撫子が、
「師匠、今日から学校生活でもお願いします」
「あ、ちょ、おま」
周りがざわつく。あぁ、予想はしていたよ。そして、周りの視線がグングニルなり突き刺さる。
「おい、甘噛。放課後、職員室に来い。不純異性交遊は学生の本分を踏みにじっているぞ」
「いや、そんなことしてな」
「はい、今日のHRこれにて終了、日直、号令」
「きりーつ、きをつけ、礼」っと日直が挨拶をした。
あぁ、最悪の気分だわ。
・・・
さて、放課後。職員室に呼ばれ、無茶苦茶怒られ、事情を説明するも聞いてもらえず、一時間以上の強制監禁され、疲れた顔をした琢磨は鉛でもついているのかと思うほど重い足取りで帰路についた。
家に付くと、撫子がエプロンを身に着け、夜ご飯を用意してくれていた。
「師匠、ご飯出来てますよ」
「お、ありがとう撫子」
琢磨は急いで作務衣に着替え、夜ご飯をささっと食べて作業部屋に行った。
撫子はなぜか悲しげだった。
・・・その後、二週間の月日が流れ4月21日火曜日となった。
一週間前からずっと作業しているのだが、全然イメージが固まらない。
何も変わっていないことはない。それは、琢磨が一人暮らしに戻っただけだ。そして、焦りと寝不足で出た怒りに身を任せて言った言葉に後悔をしていたのだった。
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