第52話 ランダムボスイベ 1戦目/よくある低レベル無双

 私は今ひじょーに困っている。


「まずは自己紹介しましょうか。私はエイル、レベル87の槍を使うファイターよ」

「黒柴犬だ。ディフェンダーをやっている。レベルは80だ」

「僕はユリスといいます。レベル75のプリーストです」


 赤髪ポニーテールの高身長の女の人、オールバックの大楯の男の人、小柄な男の子が順番に名乗る。


 イベント案内のお姉さんから専用ステージに飛ばされ、5人のランダムに選出されたプレイヤー達が今ここに集っている。強さのバランスとクラスバランスは取れているという話だが、レベルだけで強さが図れない部分もあるし、こればかりは分からない。


 ただ、私が非常にやり辛いのはただ一つ。


「私はエアリーといいます。レベル78のアーチャーです」


 1戦目からエアリーと同じになるなんてどんな偶然なの!?

 まさかこれも運営に仕組まれ――て、そんなわけないか。


 と、他の四人が名乗ったんだから私も名乗らないと。


「わ、私は夜桜アンリです。レベル60のマジシャンです」

 

 私が名乗ると四人がこちらに注目する。


「大体同じレベル帯になると思ってたんだけど、そうでもないみたいね」

「まぁ、まだイベントは始まったばかりだろ。ちゃんとマッチングシステムが機能してないのかもしれん」


 高レベルの二人、エイルさんと黒柴犬さんが意見を交わす。


 ――う。予想はしていたけど結構言いたい放題言われるなぁ。遠回しになんでこんな弱い奴が、みたいに言われてるよね?


 まぁ、でも黙ってればそのうち――


「マッチングシステムで判断されるのは戦闘力です。レベルは低くともそれ以上のスキルを持っているのかもしれませんよ」


 二人に意見したのは予想に反しエアリーだった。


 エアリーも私が弱いと判断していた一人だと思ってたんだけど……。


「そうですよ。それにもうこのメンバーで戦うしかないんですから、仲良く頑張りましょう」


「そうですね。レベルだけが強さではないわ」

「あぁ、そうだな。一緒に頑張ろう」


 ユリスさんの言葉に二人は顔を見合わせ考えを改めたようだ。


「さぁ、行きましょう」


 エイルさんが先頭に立って歩き出す。


 その先には一つの大きな闘技場があり、そこに今回倒すべきボスモンスターのみがいる。勝てば普段集めるのが面倒な素材やお金が手に入り、負けても特にペナルティはない。なので、負けても気にせず、すぐに次の戦場に向かえばいいだけだ。あと、たまにレアボスモンスターが出るらしく、それを倒すことが出来ればレア装備が手に入るらしいが、何が手に入るのかまではさすがに情報を得ることは出来なかった。


 というのが今回のイベント、『みんなで楽しむ、ランダムボス討伐イベント』の内容だ。


 闘技場の入り口から中央に繋がる薄暗い通路を私達は進んでいく。

 その最後尾を歩いていると、ペースを落としてエアリーが横に並んできた。


「髪型変えたんだね」


 言われて私は一瞬ビクリとした。

 そういえば、エアリーを助ける時に髪型を変えてから戻していなかった。

 

「う、うん。ちょっとイメージチェンジで変えてみたんだ」


「私も変えようかなぁ~」 


「え? かざ――エアリーはそのままの方が似合ってるよ」


 あまり呼び慣れていないせいか、思わず実名の方で呼びそうになってしまった。そんな私を見てエアリーはくすりと笑う。


「ゲーム内で私達あんま関わってないからね。バランス型になってた時はどうしようかと思ったけど、ちゃんとマジシャンの方に絞って遊んでるみたいね」


 マジシャンと名乗ったから、バランス型を捨てて魔法職だけに絞ったと思っているらしい。エアリーには申し訳ないけど、私は今でも全てのパラメーターは均等に振り分けている。


 ただ、話をややこしくしたくないので、そういうことにしておこう。他にも私のことを硬いマジシャンだと思ってる人いるしね。


「そ、そうだね。バランス型だと狩りもまともに出来ないし……」


 そこまで言ったところで、突然周囲の視界が開けた。

 どうやら闘技場の中央に辿り着いたようだ。


 中は石レンガ造りの円形の闘技場になっており、ローマにある有名建築物を彷彿とさせる。ただ、中央部の闘技場の外周には半透明の帯みたいなものが見え、おそらく観客席側には行けないようになっていると予想される。


 最後尾の私が闘技場内に足を踏み入れると、突如ビィーー! ビィーー! と、警報音に似た音が周囲に響き渡った。


 いつの間にか闘技場の中心部には、『WARNING!』と黒背景に赤字の警告を示す文字が表示されていた。


「来るぞ!」


 黒柴犬さんが慌てて先頭に移動して大楯を構える。


 そして、それは地面からゆっくりと姿を現わした。身長三メートルは超える大きな人型の何か。新品はかなり豪華であったであろう古いボロボロのローブに身を包み、顔の部分はそれが生きていないことを示す骸骨であった。


 名前の部分を見ると、『エルダー・リッチ』と書かれている。何となくどんな敵なのか分かった気がする。


「あなた達は後方から援護して!」


 その一言と共にエイルさんが槍を手に突進していく。それに続いて黒柴犬さんも走り出す。


「アンリは私が守るから」


 私の前にエアリーが躍り出る。


「そうですね。一番レベルが低いんですから、僕達の後ろにいて下さい」


 エアリーの隣にユリスさんも並ぶ。


 ちなみに今の私は漆黒の外套は装備していない。もし前のイベントで死神の姿を見た人がいれば、黒い外套から私が死神ではないかと疑われそうだからだ。

 

 エルダー・リッチが聞き取れない呪文のような言葉を紡ぐ。それと同時に地面のあちらこちらに黒い魔法陣が展開される。大きさは1メートルと小さいものの、その数は数えきれないほど多かった。

 

「なにっ!?」

「気を付けろ、何か来るぞ!」


 エイルさんが思わすその場で足を止め、黒柴犬さんが彼女を守るように盾を構える。

 魔法陣は鈍く黒い光を放ち、どこかのホラー映画みたいに中から這い出る様にそれらは姿を現わした。リッチと名が付いているだけあり、やはり魔法陣より出てきたのはアンデットだった。体中の肉が腐り削げ落ちているゾンビ、皮も肉もなくなり骨のみとなったスケルトンなど、RPGでもおなじみのアンデットモンスター達が次々と地上に這い出てきた。


「そうはさせないっ!」


 エイルさんがエルダー・リッチに槍を向けて突進していく。だが、その前に何体ものアンデットが盾になるように立ち塞がり、辿り着くことは出来なかった。


「くっ! こいつらを片付けないとボスにダメージを与えることすら出来ないわ!」


「私に任せて! アローレイン!」


 エアリーが上空に向かって矢を打ち上げると、上空でその矢は姿を消し、代わりに下に向かって矢の雨が降り注ぐ。ただ、闘技場が広すぎるせいで、アローレインでは全ての範囲はカバーし切れていない。しかも、その矢によってアンデット達は大してダメージを受けていなかった。


「ダメだ。物理はこいつらには通りにくい!」


 黒柴犬さんが襲い掛かるアンデット達を盾で弾き飛ばしながら、こちらに向かって叫ぶ。


 急に近くで「オォォォォッ」と不気味な呻き声が聞こえ、


「ブレイズ・ショット」


 私達の方に近付いて来たゾンビを、エアリーが放った炎の矢が射貫く。ゾンビはしばらく炎に焼かれ蠢いていたが、ほどなくして消滅していった。


「私、炎系の技これしかないんだけど……」


 エアリーがぼそりと呟く。

 任せてと言っていたが、どうやら彼女ではこの場は切り抜けられなそうだ。


「これ無理過ぎじゃないの!?」

「あぁ、ボスに近付く事すら出来ない」

「エリアヒール」 


 エルダー・リッチに近付こうと頑張る二人からも諦めに近い声が上がる。そんな二人を必死に回復するユリスさん。


 もうこれは埒が明かない。

 やるしかないか。


「私がやります!」

「アンリ!?」

 

 横からエアリーの驚きの声が上がるがとりあえず無視する。


 手に持った疾風のワンドをアンデットの方に構える。スターダスト・ロッドは攻撃力が低いのでこちらを使用している。それに、スターダスト・フォールは攻撃中隕石で視界が塞がれるので使い勝手が悪い。やはりこれはネタ武器かもしれない。


 ウィザードになったらいらなくなるかもだけど、それまではレベル上げで凄い活躍しているスキル。マジシャンなのにウィザードスキルなので、あまり人前では使わないようにしてたけどしょうがない。


「全体化! からの、ファイアーボール!」


 火の魔法はあまり取っていないのでこれしかない。はたしてどれだけのダメージを与えられるか。


 と思った次の瞬間、杖から無数に放たれた火球が、闘技場を埋め尽くすほど大量にいたアンデットを全て焼き尽くした。そして、エルダー・リッチのみとなり今が攻撃のチャンスとなったのだが、全員の視線はボスではなく私に集中していた――。

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