第47話 メイドさんと色塗りゲーム
城の入り口から移動して2階の広い廊下を歩いていたところ、丁度手伝いを断られたメイドさんが前から歩いてきた。
この人にももう一度聞いてみよう。
「何かお手伝いすることはありますか?」
「お、新人ちゃんかな~?」
三番目に声を掛けたノリの軽いメイドさんだ。
楽しそうな笑顔を浮かべる金髪のメイドさんで、先程のマリーさんと比べると、こちらは秋葉原とかでチラシ配ってそうなメイドさんだ。
「は、はい」
「じゃあ戦ってもらおうかな♪」
「は……は?」
戦う? メイドが何と戦うの?
「場所移動ー」
金髪メイドさんのその言葉で周囲の風景が一瞬ぶれ、気が付くと周囲は全てが水色の様々なオブジェクトに囲まれた空間に変わっていた。
「今回の対戦相手はお前か」
金髪メイドさんとはまた別の声。
静かな落ち着いた口調でちょっと低めの声。その声の主を見れば私の予想通りの人がそこに立っていた。
「マリーさん。なんでここに?」
「はいモップ」
金髪メイドさんから突然モップが渡される。しかも、ただのモップかと思ったら、先端の布の部分が真っ黒なモップだった。
受け取ったそれを地面に付けると、水色の床に真っ黒なシミが広がった。
「準備は出来たな、早く始めてくれ」
戦闘準備万端でやる気満々のマリーさん。
彼女も同じようにモップを持っており、その先端は私とは真逆の白色だった。
「まぁまぁ、ルール説明くらいさせてよ。
これから始まるのは色塗り陣取り合戦! 制限時間は3分。その間にこの空間を自分の色で多く塗った方の勝利。スキルの使用も自由。ただし、相手にダメージを与えることは出来ないから、そういうスキルは使うだけ無駄だよ。でも、相手を攻撃するのは有り。相手に色を付けることにより、速度を少し落とすことが出来るよ」
インクを撃ち合うイカのゲームですか?
運営の中に好きな人がいるのだろうか……。
「ではそろそろ始めるよ。よーい、始め!」
「いくぞ」
始まりの合図とともにマリーさんの姿が消える。
次の瞬間、何かが私の横を一瞬にして通り抜けた。
「油断大敵だ」
慌てて自分の身体を見れば、私のお腹の辺りを中心にべったりと白いインク――ではないだろうが、白い何かで塗られたような跡が付いていた。
マリーさんはそのまま駆け出し、接地されたモップが白い道を描く。
私もどんどん塗って行こう。と、走り出そうとしたのだが、いつものような速さが出ずに違和感を感じた。
これが速度減少効果か。
ちょっと塗られた程度だから違和感を感じる程度だが、全身塗られたらどうなるんだろうか? 自分で動いて塗るしかない以上速さは重要な要素だ。自分の色の領域を広げる前に、相手の速度を限界まで下げた方が有利だろう。
そう思ってマリーさんを追いかけたのだが、この空間を縦横無尽に動く彼女に追いつくのはなかなか難しかった。
「加速!」
スキルの効果により自らの速度を上げる。
これなら、さすがに――そう思った瞬間、マリーさんの口からも力ある言葉が発せられた。
「メイド奥義・メイドアクセル!」
追いつきそうだったマリーさんの姿がぐんっと遠ざかる。
「なにそのスキル!?」
効果的にも名前的にも速度増加スキルなのだが、プリーストの使うクイックや個人スキルの加速以外にそんなスキルがあるなんて聞いたことがない。
「これは選ばれた優秀なメイドだけが使える、48あるメイド技の一つだ。名前から分かると思うが速度を上昇させる」
なにそのメイドなドラゴンが使いそうな技!?
しかしふざけた感じではあるが本当に早い。
この後もしつこく追い続けたのだが追いつくことはなく、彼女は逃げながらも周囲を白く塗りつぶしていたため、圧倒的な差で負けてしまった。
「出直してくるんだな。私はいつでも受けて立とう」
その台詞を最後に私は元のお城の廊下に戻されていた。
マリーさんの姿は当然そこにはなく、金髪メイドさんも何事もなかったかのように歩き去って行った。
あれに勝とうと思ったらさらなる速度アップが必要だ。
でも一体どうしたら……。
そう頭の中で思案した時だった。ちょっと前に聞いたある台詞が脳内で再生される。
『他の町にも同じクエストがある。ただし、順番があるようだから、全部受け終わるまで全ての町を回れ』
たしかにフェンリルさんはそう言っていた。
加速をもらったクエストの続きみたいな感じのものがあること示唆している。
上位互換のスキルまではいかなくても、速度増加系の何かがもらえるのは期待していいはずだ。
初めに加速を取った町は始まりの町チワナ。ゲームを始めた瞬間に訪れる結構大きめの町で、冒険の準備が出来るように様々な施設が揃っている。
各町には転送魔法陣が設置されており、町間はそれを利用して一瞬で移動することが可能だ。だが、村やその他の場所にはないため、早く移動出来る乗り物系を実装して欲しいところだ。
いくつかの町を移動しやっと配達クエストを見つけたのは、ヨークベルという町のピザ屋だった。他に配達クエストが受けられるところはなかったのでこれで間違いはないと思うのだが、どうやら同じレストランの配達と言うわけではないらしい。
内容は同じ30秒以内に配達なので特に語ることはない。むしろすでに加速を持っているのでかなり余裕だ。
次に配達クエストを見つけたのはウィントという町。
チワナ、ヨークベル、ウィント……。
これはもしや?
あることに気付いた私は次に南の町カーレンを訪れた。そして、ここにはカレー屋の配達クエストがあり、次の町はソルベイル、その次の町はクレナダ――。
おそらくここが最後だろう。
なにもヒントがなく絶対に気付かないクエストだと思っていたが、そんなことはなかった。
町の名前の頭文字を取ると、チョウカソクとなっている。
かなり気付きにくいけど……。
「よくやってくれた! まさか本当に30秒で届けるとは思っていなかったぞ!」
もう何度も聞いたお客さんの台詞。
「これだけの配達クエストを成し遂げたお前には真の力が目覚めている! 感じるんだ、お前の中で進化する力を!」
お客さんが声を張り上げると同時に、私の目の前にいつもの画面が現れる。
前から思ってたんだけど、大層なこと言ってくるこのお客さん一体何者?
『スキル:加速が進化 → 超加速
スキル加速の上位互換。AGIを高め、移動・攻撃速度、回避を高める。
魔法と違い効果時間は無限だが、発動中はMPを消費しMPが切れれば強制解除される。』
やっぱり超加速だった。
これで前よりも早く移動できる。
さぁ、マリーさんにリベンジしに行こう。
私は転移魔法陣を使い王都へと向かった――。
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