第44話 私ナーフされました。

 一休みしてから再びログインしようと思っていたのだが、メンテが終了したのは次の日の朝方だった。


 仕方ないので学校で緊急メンテの内容を見ていたのだが、その内容になんだか胸がざわついて、終わり次第一直線に帰宅した。


 いつも通りログインすると――そこは何もないただ白いだけの空間だった。


 ゲーム開始した時の空間に似ていなくもない。

 だが、いくら待っても文字一つ出てこない。


 ゲームバグった?


 と、ゲームの故障を疑う。


 このゲーム壊れたらどうすればいいんだろ?

 マニュアル見れば何か分かるかな?


 そう思って一度ログアウトしようとした時だった。


「初めまして、夜桜アンリさん」


 突如背後から声を掛けられ、振り返ればそこには一人の女性がいた。

 ゲームの中のファンタジーなキャラでなく、スーツを着たOL姿のキャラクターといった感じのお姉さんだ。

 どっかの企業のAIさんですか?


「ど、どうも初めまして。あなたは?」

「私はこのゲームのGMです」


 じーえむ? て、なんだったっけかな?


「ギルドマスターでしたっけ? ギルドなら間に合ってるんで結構です」

「いや、そんな新聞みたいな断り方されても困るんだけど。でも、残念ながらそちらではなくて、私はゲームマスターです」


 なーんだゲームマスターか……。


「えぇぇぇぇぇっ! げ、ゲームマスターっていうと、運営さんってことですか!?」


「そうよ」


 運営さんだ、運営さんだ、運営さんだ!

 ど、どうしたらいいの!? ていうか何しに私の前に? もしかして何かやらかした? 

 あ、もしかして、パッシブスキルとか特殊クラスとかでとんでもない強さになってるから、チートと間違えられてるとか!?


「えーと、これはですね、なんだかよく分からない内に強くなってしまったというか、決してチートとかではなくてですね…………」


「くすっ。何を焦っているのか分からないけど、別にチートを疑って来ているわけではありません」


「あ、そうなんですか」


 ちょっとホッとした。

 だとしたらなんで私のところに?


 と思った疑問を、運営さんの方から話を進めてくれた。


「この空間にあなたを呼び出したのは他でもありません。今日のメンテの告知でもありました通り、運営の一人による不正アイテムが実装されていたのです」


 その告知は学校で見た。

 そこにチート級の不正アイテムは削除しますと書かれており、対象者には追って連絡致しますと書かれていたため胸騒ぎがしたのだ。

 

「事の発端となったのは先日確認されたメイド服です。防御力、魔法防御力、ほとんど全ての耐性が最高という完全チートアイテムでした。本人は、メイド最強は男の夢、後悔はしてないと言っていましたけど」


 メイド好き過ぎか!

 

「余罪があるのではないかと社内で調べたところ、まだ実装していないアクセサリーの眼鏡が出てきました。その持ち主を調べたところ、あなただということが分かったのでこうして会いに来ました」


 ですよねー。


 やっぱこのメガネのせいか……。まぁ、どう考えてもINT+999とか異常すぎる。ボスを倒したくてつい使ってしまったが、これも立派なチートアイテム使用になるのだろうか?


「えーとですね、これはクエストで手に入って、まさかそんなとんでもない物だと知らずに使ったあげく、外したくても外せなくて仕方なくですね……」


「えぇ、わかっています。だから、そんなに焦らくなくてもいいですよ。あなたを処罰するとかは考えていませんから」


 無駄に両手をわさわさ動かして必死に言い訳する私に、運営さんは小さく笑って優しくほほ笑んで来る。


「ただ、あなたのパッシブスキル『インテリ眼鏡っ子』は削除対象なので消させてもらいます。それからその外せない眼鏡、呪われた装備類はまだ実装検討中なので、そちらも削除させてもらいます。眼鏡自体は近いうちに実装予定ですので、欲しければ買って下さい」


 淡々と私の眼鏡に対する対応を口にすると、運営さんは画面を呼び出してなにやら操作し始めた。


 そして、半ば諦めかけていた、私の視界の隅にいつも見えていた黒い影が何の前触れもなく消える。


 やっと眼鏡とれた!


「やった! 眼鏡消してくれて有難うございます」


「やはり好きで付けていたわけではなかったのですね。高い性能で釣って付けさせて外れなくするとか、ほんと悪質ですね」


 念のためステータス画面を確認すると、INTの値がかなり減少していた。


 眼鏡が外れたのはいいんだけど、これからは魔法で攻撃すればなんとかなる、というわけにはいかなくなりそうだ。


「はい、これであなたへの処理は完了しました」

「あ、はい。しっかりINTの値が減っているのを確認しました」


 目の前の画面を消して報告してくる運営さんに、私はちょっぴりガッカリした面持ちで返答する。


「お詫びと言ってはなんだけど――」


 目の前で運営さんが唐突に空間に向って手を突っ込む。まるでそこに穴でもあるかのように、突っ込んだ先の腕が見えなくなる。 


 しばしゴソゴソと漁るような動作を取った後、運営さんは何かを取り出した。


「あったあった。これをあなたに上げるわ」


 そう言って差し出されたのは、骸骨のお面のようなものだった。


 オー〇ーロードですか?


「これを付ければあなたは完全体死神よ!」


 親指をグッと突き立てながらノリノリの運営さん。


 私のクラスが死神なのも知ってるのか。それはそうか、運営だもんね。私がどんなパッシブ持ってるかも全部知ってそう。


「まさか付けたら外れなくなったり?」

「しないしない」


 私の問いに運営さんは、胸の前で手を振りながらニコニコ顔で返す。

 

 その笑顔、逆に怖い。


「眼鏡の効果でかなりレベル上げも楽に出来たんで、お詫びとかいらないですけど……」


「いいからもらって。私が完全体死神を見たいから!」


 と、再び親指を立てる運営さん。

 なんでそんな死神推し?


「なんでそんなに死神の姿にこだわるんですか……?」

「クラス死神を考えたのが私だからよ!」


 な、なるほど……。それなら拘るのも分かる気がする。


 ただ、このクラス若干チート気味な気がするけど……黙っておこう。


「あ、そろそろ仕事戻らないといけないから、これで失礼するわね」


 死神の話が出たあたりから、運営さんの口調がなんだかフレンドリーになっている。


「10秒したら元のゲーム画面に戻るから、大人しくしててね」


 そう言い残し、運営さんの姿が消える。


 元のゲーム世界に戻る前に、もらったアイテムの確認をしておこう。


『装飾品:死神の骸骨面 装備Lv:死神専用

 スキル 闇の帳 が使用出来る』


 10秒後、白い背景に色が付き始め、元のゲームの世界へと戻っていった――。

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