第42話 行列のできるメイド服

 中央広場を真っ直ぐ北に向かうと、見えてきたのはこの国の王城。

 

 白を基調とした外壁に金の装飾が所々施された壮観な佇まい。北へ抜ける通りを避けるように1階部分中央はトンネル状になっていて、その左右から幅の広い階段がカーブを描きながら中央に向って続いている。その階段を上ってしばらく進むと、城へと続く巨大な門があった。

 門は基本開いた状態であり、両側に槍を構えた兵士が立っている。


 門を抜け城の中に入ると、正面に見えたのは大きな階段。その階段は2階に続いているが、さらにそのまま上の階へと続いている。


 階段付近や通路の所々に、高級そうな調度品が適度に置かれており、2階部分には大きな絵画が飾られているのがここから見ても分かる。


 左右にも通路があるのだが、それよりも私は目の前の階段で手すりを拭いているメイドさんが気になった。 

 

 メイドさんには詳しくはないのだが、秋葉原とかにいるような軽い感じではなく、まさにこの城を支える一人とした、気品溢れる様相が彼女の動きから見て取れる。


 とてとてとて、と近付いても特に何も反応はない。


「あの、何か手伝えることはありますか?」

「ありませんよ」


 即答だった。


 プロならそう易々と素人に譲らないよね。


 とりあえず階段を上がって2階を少し歩いてみる。

 城にしては珍しく大き目の窓がたくさん並んでおり、そこに今度は窓拭きをしているメイドを発見した。


「あの、何か手伝えることはありますか?」

「お客様に手伝わせるわけにはいきません」


 またしても即答だった。


 その後も城内を探索をしてメイドさんを見つけるが、


「あの、何か手伝えることはありますか?」

「ないよ~」


 この人もだめか!


 絶対お手伝いクエがあると思ったのに、まさか一人も手伝える人がいないとは。


 最後の子とかノリ軽そうだったし、「まじ助かる~」とかいいながら交代出来ても良さそうなのに。


 上の階ばかり探索していたので、一度1階に戻る。

 そして、まだ行っていない左側へと続く通路を進んで行く。しばらく進み突き当りを右に曲がりさらに歩を進めると、左右に扉があるのが目に入った。


 窓から顔を覗かせてみれば、右側はどうやらこの城の中央に位置する庭園があるようだ。

 様々な草花に囲まれた落ち着いた雰囲気の庭園で、白いテーブルと椅子が置かれている。


 左側の扉を開けると、一度城の外に出るようになっており、その先にある大きな建物に謎の行列が出来ていた。


 近付いてみると、建物の脇に「王立騎士団訓練場」と掘られた柱が立っていた。


「訓練場?」


「ん? あんたもクエストを受けに来たのか? 残念ながらまだまだかかりそうだぜ」

 

 見るからにファイターであろう恰好をした男の人が、私の呟きに反応し声を掛けてくる。


 丁度いいから詳細を聞いてみよう。


「ここはどんなクエストが受けられるんですか?」


「ここでは兵士と模擬戦をするクエストが受けられるって話だ。しかもそのクエストの報酬、なんと力が15も上がるパッシブだ」


「そ、そうですか……頑張って下さい」


 兵士さん達と戦うクエストかぁ。この間のイベントで兵士さん達を相手にするの嫌だったし、このクエストはスルーかなぁ。


 順番待ちをする人たちを尻目に、私は一度城の中へと戻った。

 そして、そのまま真っ直ぐ中央庭園に入り、そこを通り抜けて反対側にある扉から再び城の中へと戻る。


 これでおそらく、入り口から見て右側の通路を進んだ所にいるはずである。


 こちら側にもどうやら外に繋がる扉があり、私はその扉をゆっくりと開く。


「こっちには一体何が……?」


 予想通り扉を抜けた先は外に繋がっており、その先には訓練場ほどではないが、大き目の建物があった。


 そして、その建物の入り口から伸びる長蛇の列。

 

 こっちもなんかすごいクエストがあるのだろうか?


「あの、これってなんの列ですか?」


 とりあえず列の最後尾に並ぶ女の人に声を掛けてみる。


「あら? あなた何も知らずに来たの? あそこに見えるメイドの詰め所で、無料でメイド服をもらえるから、みんなそれ目当てで並んでるのよ」 

 

 ん、んん? 確かに新しい衣装が貰えるなら並ぶのは分かるけど……なんか所々に男の人も見えるんですけど!?

 

 まさか自分で着るとかないよね?


「しかもそのメイド服が凄い高性能らしいのよ。防御力も過去最高でありながら、属性耐性も状態異常耐性も全て備えてるって噂よ」


 ナニソノ万能防具。


 あれ、なんかデジャブ? 似たような装備どっかで見た気がするけど?


 そんな記憶を辿ろうとする私に、聞き覚えのある声が降ってきた。


「ん? こんなところで会うとは、やはり俺達は漢の縄で繋がっているようだな、ブラザー!」


 誰がブラザーよ!

 てか、漢の縄って何!? 赤い糸じゃなくて!? いや、赤い糸もかなり嫌だけど、なんで一言でそんなにツッコミどころが多いのよ!


「え、あなたの知り合い? ……そ、そう」


 恐る恐る尋ねる先程の女の人。小さく頷くと、これ以上関わりたくないと言わんばかりに、そっぽを向かれてしまった。


「で、マッチョさんはなんでこ――」


 そこまで言って私の思考は固まった。


 いつものパンツ一丁なムキムキ男がそこにいると思っていたのだが、実際には予想を遥に超えたとんでもない姿の男の人が立っていた。


 2メートルはある高身長にプロレスラーのような肉体。それを包み込むのはスカートが足元まであるロングスカートのエプロンドレス。短髪の頭にどうやって留まっているのか、申し訳ないくらい小さいサイズのメイドカチューシャが乗っかっている。


「かなりの高性能な防具だと聞いたから、俺も取りに来たんだが――こいつはとんでもない装備だぜ。これがあればたとえボス相手でも一人で壁が出来るかもしれん」


 しかし、何かが違う。

 特に彼に興味はないのだが、違和感が強すぎて私は限界だった。


「仮面のないメ〇ドガイかあんたは! 大体、マッチョを売りにしてるのに筋肉隠してどーするのよ! ギルドだって痛みの極致なのに、そんな装備で痛みを感じなくなって、何を極めるって言うの!」 


「ずがぁぁぁぁぁぁん!」


 私が早口でまくし立てると、マッチョさんはショックを受けたようで、地面に両手を付いて項垂れた。


 つ、つい勢いで言ってしまったけど、さすがに言い過ぎたか……。


 急にマッチョさんの身に纏っていたメイド服が消える。


 どうやら装備を解除したようだ。


 そして、マッチョさんは急に立ち上がる。その姿はいつも通りの姿で、両手を腰に当てた筋肉を強調する自信に満ち溢れた姿だった。


「さすが俺のマイブラザーだ! 高い防御力に気を取られて肝心なことを忘れていた! 防御力等どうでもいい、食らったダメージの分だけ気持ちよくなれる! それが俺達だったな。なッ、痛みの友よ!」


 なッ、とか同意求められても知らんし。

 私を一緒にしないで!


「さて、俺は教会に団員を待たせているからこれで行く。また会おう、心の友よ!」


 去り際に勝手に心の友呼びしながら、マッチョさんは町へと出られるであろう方向に向かって、塀を乗り越えて去って行った。


 ここ、町との高低差10メートルくらいありそうだけど大丈夫だろうか?


 ていうか、教会って言った? まさか、あの悲劇の筋肉ラッシュは、マッチョさんのギルドメンバー達ってこと!?


 悪夢のようなクエストを思い出し頭を抱えていると、急に天からの声のようなアナウンスが町全体に響き渡った。


『ぴん、ぽん、ぱん、ぽ~ん。30分後に緊急メンテナンスを実施いたします。お楽しみのところ申し訳ありませんが、5分前までにはログアウトして頂きますようお願い申し上げます』


 それはイベントで聞いた、案内役のお姉さんの声に似ていた。

 

 今まで緊急メンテとかやったことなかったのに、なにかあったのだろうか?


 メイド服はメンテの後でも貰えるだろうし、念のため早めにログアウトしておこう。


 一休みして、メンテが終わっていたらログインしようかな――。

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