第38話 王都実装! 皆は城へ、私は――

 ついに、遂に来ました王都実装!


 初イベントの時に見てから、なんで王都実装されてないの? とずっと疑問でいたのだが、その謎が今解明された。


 他の町に比べボリュームが半端ない。

 正面の城門から一番離れたところに、王城であるリヴィルニア城があるのだが、その前には広大な城下町が広がっており、そこだけで今まであった大き目の町の5倍くらいありそうだった。

 

 そして、城門をくぐった瞬間に分かる統一感。

 建物の素材はほぼ白い石材で統一されており、城までまっすぐに伸びるメイン通りは片側二車線の道路の様に広く、町の中の行き来にも馬車が使われているようだった。


 城下町の中央には大きな広場が設けられており、そこから東と西にも広い道が伸びている。その広場を抜けて真っ直ぐに進んだ先に雄大な王城が鎮座している。


「うーん、すごい人だなぁ」


 やはり待ちに待った実装であり、かなりの人がこの王都を訪れていた。


 広いメイン通りが人で埋め尽くされ、馬車は動けずに立ち往生していた。


 そんな大量の人達は皆同じ方向へ足を進めている。

 

 皆の目的地はやはり王城らしい。


 私も早く王城を見てみたい気持ちはあるが、やはりメインディッシュは後に取って置いて、まずは町の中を探索しよう。


 中央の大広場から東へと進むと、中央と四隅に尖塔を持つ壮大な建物が目に入った。

 白い大理石で作られた聖堂の様で、敷地の入り口となる門の右側の柱に、サン・フィレメンス教会と書かれている。


 教会の中に入ると両側面に設けられた、ずらりと並ぶ縦長のガラスから光が差し込み、祭壇まで続く光の道を生み出していた。


 おそらくNPCであろう町の人々が、整然と並べられた長椅子にまばらに座っており、粛然とした雰囲気が漂っている。


 奥まで進むと祭壇があり、その左右の壁寄りに奥へと続く扉があった。


「これだけ?」


 ここまで巨大な建物で中に人もいるのに司祭の姿もなく、待っていても何かが起こりそうな気配はなかった。


 奥に何かあるのだろうか?


 とりあえず、右側の扉を開けて中を覗いてみる。


 中には一人のシスターがテーブルの上で頭を抱えていた。


「あのー……」


「考えてるんだから話しかけないで!」


 全部言い終わる前に怒られてしまった。


 こう言われたら、言うことは決まってるよね?


「何か手伝えることはありますか?」


 そう聞いた瞬間、シスターがすごい勢いでこちらに顔を向ける。そして、鬼の形相から一転満面の笑みを浮かべた。


「そう!? ならさっそく手伝って頂戴!」

「えぇ! いきなり!?」

 

 抵抗する暇すら与えない速さで腕を引かれ、少し歩いた所にある小部屋に強制的に連れて行かれた。


「ちょうど司祭様がいなくて懺悔室を開けられなくて困っていたのよ。司祭様が戻ってくるまででいいから宜しくね!」


 息をつく間もない早口でまくし立て、私を小部屋に押し込むと外からカチッという音が聞こえた。


 まさか閉じ込められた?


 どうやらそのまさかのようで、ドアノブをひねっても扉はびくともしなかった。


 部屋の中には、この部屋を二分する壁が真ん中にあり、その壁を挟むように椅子が置かれている。壁の一部はガラスになっており、向こう側から人が入ってくればすぐに確認できる造りになっていた。


「皆さんお待たせしました。懺悔室解放しまーす」 


 外でシスターが礼拝に来ていた方々に声を掛けているようだが……軽すぎん?

 テーマパークじゃないんだから、そのノリはないでしょ。


 しばらくすると、一人の青年が入ってきて目の前に座り罪を告白する。

 私はそれに、「悔い改めなさい」とか、「神はお許しになるでしょう」とか、それっぽい言葉で返す。

 それで彼は満足したように去っていく。


 しばらくこれを繰り返せば終わるのかな?


 ――といった作業のようなことを何度か繰り返した後。

 

「おぉ、中の造りも本物っぽいな」

 

 なにやら雰囲気の異なる男の人が入って来た。

 姿恰好からするとプレイヤーのようだ。


「これ、向こう側にNPCとかいるんかな?」


 と、こちらを覗き込むような仕草をする。

 もしかしたら、向こうからこっちは見えていない仕組みだろうか。 


「お座りください。そして、あなたの罪を告白して下さい」


「お、やっぱ向こう側にいるんか」


 こちらに人がいることを認識し、彼は椅子へと腰を下ろす。


 そして、罪を告白――


「俺、昨日彼女に振られたんですけど、どうしたらいいですか?」


 懺悔じゃないじゃん!


 懺悔の意味分かって来てますかあなた!?


「ここは懺悔をする場所ですよ?」


 突っ込みたい気持ちを抑え、なるべく平静を保って返す。


「なんだ答えてくれないのか。使えねぇな」


 カッチーン。


 懺悔室を相談所か何かと勘違いしてる奴に、そんことを言われる筋合いはない!


「だったらこんなゲームしてないで自分を磨いたらいいんじゃないんですか? あなたに好意を持つような魅力がないから断られるんですよ」


「グフッ! 彼女と同じことを指摘してくるとかエグすぎる……なんっつぅシスターだ」


 彼はよろめきながら立ち上がると、ふらついた足取りで部屋を出て行った。


 そしてしばらくした後、また部屋のドアが開かれる。

 見た目からすると、今度もまたプレイヤーのようだ。


「あの、俺テストで赤点取ってやばいんですけど、どうしたらいいです?」


 なんで、また相談なのよ!

 ここが懺悔室なの分かって来てる!? 

 もし、懺悔室だと分かっていながら来てるとしたら、完全に確信犯である。


 もう相談してくる奴は、適当にあしらって追い返そう。


「今すぐゲーム止めて勉強しろ!」


「正論すぎワロタ。ていうか、シスターの口調キツすぎて草」


 こっちは怒っていて面白い要素など一切ないのに、彼は笑いながら部屋を出て行った。


 そして、先程よりも短い間隔で再びドアが開かれる。


「すいません、最近太り気味で、痩せたいんですけどどうしたらいいですか?」


 今度はどうやら女性のプレイヤーのようだ。


 こんなとこ来るくらいならジムでも行っとけ!


「ゲーム止めて外走ってきたらいいんじゃないですか?」


「このゲームは楽しくて止められないです」


 それは分かる。


「じゃあ食べるのを減らす」


「食べるのも好きなんですよねー」


 相手が同じ女の子なので厳しく言わないように我慢していたのだが、もう我慢の限界である。


「あれも無理これも無理で痩せられるわけないでしょ! 本当に痩せたいと思うなら自分で行動を起こしなさい!」


「う……確かにそうですよね、有難うございます」


 少し強く言い過ぎただろうか、彼女は顔を伏せ頭を少し下げてから席を立つ。

 そのまま重い足取りで踵を返し、ドアの前で足を止めて振り返った。


「あなたのそのキツイ口調、なんだかちょっとゾクッとしてクセになりそうです」


 誰かを彷彿とさせるからやめて!


 去り際に嫌な言葉を残し立ち去った彼女の後、今度はすぐにドアが開かれた。


 入って来てたのはまたしてもプレイヤー。


 どうせまた懺悔ではなく相談だろう。


 というか、いつになったらここから出られるんだろうか?


「すいぁせーん。なかなかレベル上がらないんですけどどうしたらいいっすか?」

「知らん。黙って敵を倒しまくれ」

「ひでぇ。助言冷たすぎじゃね?」


「だから――ここは懺悔室なのよッ!!!」

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