第20話 ダンジョン:星屑の崖 その4

 エアリー達と別れて1時間くらい経っただろうか、私は今やっと最下層に第一歩を踏み出していた。


 この階には目的のダーク・テラーしかいないはずなので、ひたすら歩いて手あたり次第倒していきたいところである。


 しばらく歩いていると、黒い霧の塊のようなものが目に入った。


 それは私を視認? したのか、こちらに向って黒い石礫のようなものを飛ばして来る。


 普通に見て取れる速度で飛来するそれを、体を反らして難なく避ける。そして、右手に持ったキラーアクスで反撃を試みる。


 ダーク・テラーを一刀両断! はしたが、手応えは全くなかった。


 ダメージログを見ると、0と表示されていた。

 

 何度も斬り付けてみるが、全て0である。


 これだけやってダメなら、おそらく物理攻撃は無効なのだろう。

 なら、効果があるのは魔法だろう。見た目的に一番効きそうなのは光系魔法だが、それはプリーストの分野になっているため、マジシャンでは使えない。


「ウィンドカッター」


 風の初級魔法をダーク・テラーに向って放つと、1500くらいのダメージを与えることが出来た。INTはお手伝いの指輪以外に補正がないので、まぁ、こんなものだろう。といっても、補正込み100近くあるので、特化型の人と同程度の強さはある。ただ、中級者向けのダンジョンの敵だけあり、さすがに初級魔法1発では倒せない。


 続けて4発ほど同じ魔法を打ち込むと、ダーク・テラーは散り散りになるように霧散していった。


「ん?」


 消え去ったその場に一つの黒い粉のような物が残る。


 それを手の中に集め、説明を表示するように思考すると、一つのウィンドウが目の前に現れる。


『漆黒の塵。

 ダーク・テラーの身体の一部。使い道は特にない。』


 なるほど。

 最下層についた瞬間、妙な違和感があったのだが、それが今理解出来た。


 最下層なのに人がいなさすぎるのだ。

 RPGのセオリーとしては、最下層は一番敵が強く経験値も稼ぎやすい。

 なのになぜ人がいないのか。

 それは、魔法系の人しかダメージソースになれず、ドロップ品が美味しくないからだ。使い道がないアイテムはNPCに売るしかないのだが、正直かなり安めだ。使い道のあるアイテムであれば、必要としてる人がそれなりの値段で買い取ってくれる。


 それから私は、無心でひたすらダーク・テラーを倒し続けた。

 ただひたすらに――ウィンドカッターを撃ちまくるだけの作業。MPが切れればMPポーションで回復する。

 

 ――5時間後、一度ローナの町に戻った。


 ドロップ率すくねぇ!


 思わず町の真ん中で、叫んでしまいそうな勢いで苛立っていた。


 だって、5時間も狩りして約50個しか集まらない。


 1万個集めようと思ったら、1000時間くらい必要になる。


 まじでクソゲーといえる。


 しかし、普通の人なら諦めそうな無理ゲーだが、私は逆に意地でも終わらせてやろうと燃え上がっていた。


 とにかくMPポーションを大量に買い込み、風の魔法も一個上位のウィンドブレードを取得。ウィンドカッターがただ大きくなっただけの、あまり変わり映えしない魔法だが、威力は1.3倍くらい高い。


 それから私は星屑の崖の最下層に籠り続けた。


 リアルでも家に引きこもっているのに、ゲームの中でも引きこもりとは……。


 そうやってダーク・テラーを狩り続け、漆黒の塵が1000個集まった時のことだった。


「あー、もう! このままじゃ、ダンジョンに籠り続けてたら、いつの間にか世界最強になってました。の主人公みたいになっちゃいそ……ん、なにこれ?」


 ダーク・テラーを倒したその場に、いつもとは違うドロップアイテムが落ちていた。それは小さな黒い鍵で、星屑の鍵と言う名前のアイテムだった。


 そして、この鍵の使い道には心当たりがある。


 最下層に100時間近く籠っている私は、もうここのマップは全て頭の中に入っている。その中でも、一か所だけ鍵が掛かっていて開かない扉があったのだ。


 私は真っ直ぐにその場所に向う。


 なんの装飾もないただの真っ黒な鉄製の扉で、中央に鍵穴があった。


 鍵穴に鍵を差し込み、右にひねるとカチリという小さな音が聞こえ、扉が中央から観音開きに開いていく。


 中は同じく石レンガ造りのだだっ広い空間で、明かりがなく薄暗いせいで奥の方はほとんど見えない。


「何もないってことは、ないよね?」


 訝しみながら部屋の中へと足を踏み入れる。


 だが、数歩進んだところで、バンッと大きな音が背後で聞こえた。


 慌てて振り返るがもう遅い。先程開けた扉が閉まり完全に閉じ込められていた。


 これは完全に迂闊だった。

 

 この広い空間、これは――


 ゆっくり振り返れば、始めは何もいなかった部屋の中央に、巨大な黒い球体のような物体が浮かんでいた――。

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