第5話「どうだった? 初めての共同作業ってやつは」

「どうだ? 神に憑依された感想は?」

 自分の口で他人がしゃべる、なんていうのはものすごく気持ち悪い。それだけは確かだ。出来ればもう二度と体験したくはないけれど、神の器になってしまった手前、それは無理なのだろう。これから災厄が出現し、それと戦うたびに、この気持ちの悪い現象に耐えなければならない。ついでに言うと、先ほどの口づけと、そのあとに起こった水に溺れるような感覚にも。

(最っ悪だよ、本当に)

 返事をするものの、脳内に響くだけで、自分の口は動かない。あれ? あれ? なんて、フーレンに憑依したシュイロンは自分の――フーレンの、だが――頭を握りこぶしで軽く叩いた。

(いてえな、何するんだよ)

 やはり口は動かない。

「痛みは感じるな。いや、お前も少しくらいは動かしたって良いんだぞ? もっとも、邪魔をされては困るが。ほらほら、動かしてみろ」

 そんなことを言われても。先ほどから動かそうと努力をしているのに、指一本動かせないのだ。素直にそう伝えると、

「えーお前……っぷ、くくくくく」

 必死に堪えていたらしいのだが耐えきれず、両腕を抱えて肩を震わせて、楽しそうに自分が自分を嘲笑う。どんな状況だこれ。

(……何だよ)

「いや、お前、詐欺師だとか何だとか言ってたくせに随分素直な性格なんだな? 俺の『体を借りる』を真に受けて、支配権全部渡しただろ」

(は? 何それどういう)

「お前催眠術とかかかりやすそー。まあ、それはそれで都合が良いな。こういうこともできるし」

 フーレンが体を動かせないのを良いことに、シュイロンはフーレンの着物の襟合わせを強引に開いた。

(どわああああ! やめろ何やってんだ!)

「ゲーお前なにこれ骨と皮じゃん。抱き心地悪そー。ウェントゥンばっか食ってないでもっと良いもん食べて運動しろよ」

 あらわになったフーレンの胸と腹を見て、シュイロンは舌を出した。あまりに肉付きが悪くて、あばら骨を数えられそうだ。肉付きが良さそうな方ではないというのは見た目から分かっていたけれど、粗末な衣装を脱がせてみると予想よりはるかにひどい。というかこの服自体も分厚くがさがさで触り心地が悪いし、なんだか痒い気もする。早急に良い物に変えさせなければ。

(うるっせえさっさと服を着ろ! こんなところで脱ぐなんてただの変態だろ!)

「脱いだとは大げさだな、ちょっと覗いてみただけだろ」

 そう言いながら、着物の襟合わせを戻す。

 さて、そろそろ耳鳴りがひどい。アーゴンはとかく煩いのだ。人間の耳には聞こえないのかもしれないけれど、神であるシュイロンの耳にはずっとアーゴンの金切声が聞こえていた。

 新しい器も手に入れたことだし、早々に潰してしまうか。

 シュイロンは少し身体を屈めると、とん、と何もないはずの中空を蹴った。重力も空気抵抗も何もかもを無視して、ぐんと身体が前に飛ぶ。

(うわ)

 あまりの早さに、フーレンは息ができなくなるのではないかと思った。しかし神であるシュイロンに憑依されている今、この程度の速度はなんて事はないらしい。息苦しくもなんともなく、身体が風を受け入れている。普通はこんな速度、ヒトの体には耐えられるはずがない。自分の身体なのに、全く違う何かになってしまったようで、それはそれで恐ろしかった。足下の景色はまるで自分ではなく地面が勝手に動いているのではないかというほど目紛しくぐるぐると変わっていく。一つ一つを追うと目が回ってしまいそうだったので、なるべく俯瞰するように心がけるけれども、それはそれで自分の高さを感じられて気が気ではなかった。

 こんな状態で、災厄と戦えるものなのか。そもそも身体が自分の意思では動かせないから、自分にはどうすることもできない。内側からシュイロンが自分の身体でなすことをただ眺めていることしかできないのだ。

「見えたぞ、災厄だ」

 そう言って、シュイロンは急に減速し、ぴたと空中で立ち止まった。フーレンは人生で初めて災厄を目の当たりにし、ああ、言葉通り「災厄」を形にすると、こういうものになるのだ、と理解した。

 黒。ただの黒だ。黒としか表現できない丸い塊が、ガオソンとリンチュァンをつなぐ大通りの真ん中に、ぽっかりと空間を切り取って存在している。ただ一体で存在しているような、はたまたうごうごと触角のような手を動かしている何かの集合体のような、不思議な形態だ。

 目を合わせてはいけない。いや、むしろ見ることすら、してはいけない。けれど目を離せない。なるべく関わってはいけないというのは分かっているのに、吸い寄せられてしまう力がある。ただの真っ黒い塊から漂う負の気配。ここにいるだけで気分が悪い。出来るだけ距離を取らなければ。けれど自分一人なら、足がすくんで動けないだろう。

 なるほど、あれは人が敵う相手ではない。あんなものと戦えるはずがないのだ。あれを倒せるとしたら、そう、間違いなく、神だけだろう。

 ふと災厄の周りを見回すと、人が倒れているのが見えた。何人、いや、何十人と言う数だ。皆、アーゴンと呼ばれた災厄に足を向ける形で地面に転がっている。一様に意識を失っていて、顔に血の気が無い。

(死……ん、でる……?)

 恐る恐る尋ねると、シュイロンは首を横に振った。

「否。生きている。今のところはな。アーゴンとはそういう災厄だ」

 うごうごうごうごと、手にも見える何かを動かし、ゆっくりゆっくり、アーゴンは移動する。「重そうだ」と、直感的に思った。何が、かはわからないけれど、重い何かが動きを阻害している。だから、歩みが赤子よりも遅いのだろう。

 そうか、この神が災厄が出現したと分かっていてもちんたらちんたらしていたのは、この災厄の動きがとても遅いと分かっていたからなのだろう。なるほど、この速度ならば簡単に逃げ切れる。普通に考えれば、人死になんてあまり出ないだろう。

 しかし、ではなぜこの災厄を中心に、人々がばたばたと倒れているのか。

 ふと、アーゴンは何百と言う手のようなものの動きを止めた。そして、ぐ、ぐぐと身を強張らせる。身と呼べるものがあるのかはよくわからないけれど、真っ黒な負の塊が緊張感を持ち硬くなったのが、フーレンも見て取れた。

 何かくる。

 フーレンがそう思った時、シュイロンはもはや両耳をふさいでいた。その途端、何か衝撃波のようなものが身体にぶち当たる。目に見える何かがあったわけではないのに、鳩尾を思い切り殴られた、そんな気分だ。

「相変わらず煩いな」

 だというのにシュイロンに憑依された自分の身体は意にも解さないらしい。何事も無かったような顔で、しかし思い切り不機嫌そうに、シュイロンはつぶやいた。

(煩い?)

「ん、なんだ。お前聞こえなかったのか?」

(いや……)

 言われてみると、煩かった、のだろうか。音というより衝撃のようで、耳よりも身体で受け止めてしまった気がする。そんなフーレンを、シュイロンは鼻で笑い飛ばした。

「お前耳悪いのかー。よかったな? あれはな、とかく声がでかくて煩いんだ。一声聞けば足が止まり、二声聞けば意識を失う。奴自体は鈍重でほぼ動いていないも同然だが、あの声を何度も聞けば、普通の人間は脳がいかれる。奴に直接捕まらなくても、待っているのは生ける屍だろうな」

 アーゴンの周りで倒れている何十という人のことを見下ろしながら、シュイロンは平然と述べた。あいかわらずこの神は人のことを人だとは思っていない。シャンチャンの民は、よくこんなやつを敬っているよなとフーレンは思った。

(いや、それより、なあ、あれ)

「んー?」

(中に、ひとが、いる)

 脳内に響く自分の声が、震えた。真っ黒な災厄の中に、確かに、人影が見えた。あまりにうっすらとだけれど、確かに人がいる。しかも、苦しげに手足をばたつかせて。

 まだ生きている。助けを求めている。

 フーレンの気は逸った。が、

「あっ何お前、目はいいの? ふーん。あれが見えるやつは珍しいな」

 シュイロンは一切焦らない。

 どうやら身体を同じにしていても、何が聞こえて何が見えているか、感覚に差があるようだった。災厄の中の人影は、シュイロンにはもともと見えていたものの、フーレンにも見えるとは思っていなかったのだろう。逡巡した後、

「あれは捕まった人間ではない。あれこそが、災厄の本当の姿だ」

 答えた。

 言われて、フーレンは目を凝らす。言われて見ると、確かに、異常だ。中にいる人影は。

 頭が無い。いや、あるのだろうか。先ほどの衝撃波のようなもの、あれは声だとシュイロンは言った。声が出せるということは口や喉があるということなのだろう。けれど見えない。苦しげに手足を動かしてはいるものの、どうやらそれは、見えない頭を必死に抑えているようにも見える。ときおり関節が普通の人間では曲がらない方向に曲がり、災厄そのものだと思っていた黒い塊の中でぐねぐねと飛び跳ねている。ともすれば、楽しげに踊っているようにすら見えた。異様な光景だ。

(あれが、災厄……)

「見えるなんて、お前かわいそー。あれなんてまだマシな方だぞ、これからいろんな災厄と会うからな、覚悟しとけ」

 完全に怖気づいたフーレンを、からからとシュイロンは笑い飛ばした。

「さあて、アーゴンよ。良かったなあ、俺は今、最っ高に機嫌がいい」

 その笑い声のままシュイロンはそう告げ、右手をまっすぐイーゴンに向ける。ああ、いいな。やはり人の身体は良い。乾燥し荒れたフーレンの指先を見て、そう思う。

 完璧じゃないのが良い。壊れやすいのが良い。怪我をすれば血が溢れ、強い衝撃に骨が折れ内臓がつぶれる。そして、みな等しく息絶える。しかし息絶える前は、生きている今は、体中に血が巡っていると強く感じられる。

 そこに己の力を乗せる。体中に力が回り、それを掌に集めるのだ。

 もちろん、器に憑依しなくてもこれは出来る。今までだってこれで災厄を倒してきた。けれど器に憑依していると、自分の力に命が宿るような気がするのだ。命が宿った水の輝きはさらに強い力になり、まっすぐに災厄を屠る。その煌めきは、自分一人で倒した時の比ではない。

 ああ、早くそれが見たい。

「ふ、ふふ……っははははは……」

 ああ、楽しい。今なら無尽蔵に力が出せそうだ。掌に集まった力の塊は水のようにさらさらと流れだし、少しずつ金色に輝き形作っていく。三つ又の槍。フーレンの身の丈ほどの長さがあろうかという槍だ。ぐ、と柄を握ると形が固定され、輝きを終えた。そのかわり、掴む掌に鼓動を伝えてくる。きらびやかな装飾も何もない、飾り気のない三つ又の槍。

 間違いない、恐ろしいほどの、力の塊だ。

(え、あの、これ。やばいんじゃ)

 緊張感があるのかないのか、フーレンは脳内でぼそりとつぶやいた。初めて見た自分にもわかる。これはやばい。本当にやばい。災厄よりも、やばい。もはややばい以外の感想が出てこない。こんなもん本気で使ったら、このあたり一帯が全部消えてしまうのではないか。それくらいの力が内包されているのが、肌に伝わってくる。災厄より被害が大きくなるのではないか。

 しかもそんな代物が自分の身体から出てきた。今のところは何ともないけれど、こんなものが何の対価もなく出てくるとは考えられない。この後シュイロンの憑依がとかれたときに、生命力か何かが無くなって、老人の様にカサカサになって死ぬ未来が見えた。ほらやっぱり、器だ伴侶だ言いながら、人間扱いされていない。使い捨ての便所紙と一緒だ。

「心配するな。器はただの触媒にすぎん。これは全て、俺の力で出来たものだ。お前の中を通ったというだけでな」

 ほ、と息を吐いたのもつかの間、

「ただまー普段使ってない筋肉とか使ってるから、しばらくは酷い筋肉痛で動けないかもしれんが。お前運動不足っぽいし」

 ぶん、と三つ又の槍を模った力を軽く振り回しながらのシュイロンの言葉に、フーレンは一瞬言葉に詰まった。でも、まあいい、筋肉痛くらいなら耐えられる。

 そんな話をしている間にも、アーゴンはうぞうぞと動かしていた腕のような触手をひっこめ、ぐぐ、と身体を強張らせた。

 あれがまた、来る!

 いま倒れている人たちが、何度アーゴンの声を浴びたかは分からない。けれど先ほどのシュイロンの言葉が正しいならば、何度も浴びてしまえば元には戻れなくなる。細かい注文を付けている時間は無い。

(いい、もういい! わかった! 何でもいいからさっさとやれ!)

「応とも」

 シュイロンは、槍を振りかぶった。どうやら投げるつもりらしい。相手が攻撃してくるときが、こちらにとっても絶好の攻撃の瞬間だ。期を待つ。真っ黒の塊のさらに奥。アーゴンの、あるはずの見えない頭に狙いをつける。

 静電気、なのだろうか。体の周りでバチバチと音がし、小さな光が無数に弾け飛ぶ。まるで槍に感電しているようだった。

 三つ又の槍の先端が、ぎらりと太陽の光を跳ね返して輝いた。槍を握る手に、殊更に力を込める。

「死ね! 不完全で醜い存在よ! 一片の肉も残さず塵と化せ!!」

 うわ、それ完全に悪役が言うやつじゃん。

 フーレンは、己の口から出たシュイロンの言葉にドン引きしていた。少なくともこれから人々を救おうという正義の味方が放つ言葉ではない。声の迫力も悪の親玉そのもので、むしろ災厄の方が哀れに見えた。人が害虫を殺すのに全力を持って叩き潰すような様相にも見える。

 シュイロンが、光の槍を投げた。投げた、というよりも、槍が自ら災厄の方向に飛んで行った、ようにも見えた。けれど自分の右肩から右手の指先にかけて、ぶちぶちと筋の切れる嫌な音が聞こえたので、間違いなく力の限り放り投げたのだろう。槍は先ほど自らが飛んでいた速度など優に超え、導かれるように災厄の真ん中に向かう。

「ギッ」

 耳が悪いと言われたフーレンにも、一瞬だけ聞こえた。あれは、災厄の叫び声だ。断末魔の悲鳴にしてはあまりに短かった。叫んだと同時に光の槍が突き刺さり、バシュンという大きな風船が割れたような音があたり一面に響く。そして一間おいて、激しい閃光と爆風。フーレンは思わず目を閉じて、爆風が過ぎ去るのを待った。

 次にフーレンが見たときには、もはやそこに災厄の姿は無く、やはり十円禿げみたいにぽっかりと何もない空間が出来上がっていた。シュイロンの言っていた通り、周りで倒れている人々に光の槍が当たった気配はない。何もなくなってしまっているのは災厄の所為で、光の槍は人々や建物は壊さず、しっかりと災厄だけを貫いたようだった。

(か、勝った……)

 安堵の息とともに漏らすと、

「おーい嬉しそうに言うな。こんなもん勝って当然なんだよ」

 不機嫌そうに言いながら、シュイロンはようやく高度を下げる。先ほどまで災厄のいた場所、十円禿げの真ん中に、とん、とつま先が着いた瞬間、

「わ」

 しりもちを、ついた。フーレンは痛む自分の尻を抑え、

「う、動く」

 自分の目の前に背を向けて立つ神を見上げた。憑依を解いたシュイロンは、さらりと風に青い髪をなびかせ、いたずらな笑顔でフーレンに振り返った。

「どうだった? 初めての共同作業ってやつは」

 大人のこぶし一個分くらいだろうか、シュイロンはやはり浮いたまま、フーレンに訊いた。けれど先ほどより、不快感は無かった。あんな力をまざまざと見せつけられた直後だ。そりゃ浮くくらいなんてことないだろう。というか、あんな力を持ったやつが地面を駆け回っている方が違和感がある。

「……最悪……」

 素直にそう答えると、からからと竹を割ったようにさっぱりと、シュイロンは笑った。何が楽しいのか、フーレンには全く分からない。地面に腰を下ろし、なんとか体が倒れこまないように両手で上体を支えているものの、その支えている両腕自体が、疲れのせいなのか緊張が解けたせいなのかぷるぷると震えていて、気を抜くと今にも地面に倒れこみそうだった。けれどなんとか、ぎこちない動きであたりを見回す。

「巻き込まれた、人たちは……」

 倒れこんだまま、誰もピクリとも動かない。最悪のことも想定したけれど、

「安心しろ。生きてる。アーゴンの声をまともにくらったから気を失っているだけだ。……耳から血が出ているやつもいないし、頭も大丈夫なんじゃあないか?」

 シュイロンの言葉に、なおさら肩の力が抜けた。もう上体を支えていることもできず、フーレンは地面に突っ伏した。頬に砂が付いて、もしかしたら擦りむいてしまったかもしれないけれど、そんなことはどうでも良かった。地面が近いのにも安心して、目を瞑る。

 もう疲れ果ててしまって、何もかもが億劫だった。せっかく体の主導権が返ってきたというのに、指一本動かしたくない。このまま地面と同化出来ればどんなに幸せか。誰かこのまま俺を埋めてくれ。きっとこの水の神は、それを許してくれないのだろうけれど。

「薬師様! やっぱり、薬師様ですか!?」

 頭の上に声が降ってきて、フーレンはうっすらと目を開けた。本当は目も開けたくなかったのだけれど、声の主に想像がついて、無理矢理目を開けたのだ。

 視界に入ったのは、心配そうに自分を覗き込む幼い子供の顔。やはり、先ほど薬を買いに来た少年だった。自分のそばにしゃがみ込み、先ほど渡した水筒を差し出してくる少年を目だけを動かして見る。顔色もいい、怪我もない、意識もしっかりしている。間違いなく元気で、生きている。

 生きて、いる。

「……巻き込まれなかったんだな。怪我無いか?」

 もう声もまともに出ない。掠れる声で訊く。

「はい、僕は何とも。歩いて帰る途中、空を飛んでいる人が見えて、それが、薬師様に見えたものですから、走って追いかけてきたんです」

「ばか、お前……危ないだろ」

「薬師様……薬師様は、器様、だったのですね」

 ついさっきからな、とは言えず、相も変わらず自分に差し出されている水筒を受け取る元気もない。たとえ受け取ったところで、飲む体力もないだろう。

 滲む視界で、それでも必死に手を伸ばす。

 走ってきたからだろう、上気した丸くて柔い頬。

 腕も指も何もかも痛くて重くてまるで自分の身体だとは思えない。歯を食いしばると、口の中に砂が入ったのだろう、じゃりと音がした。それでもと、小さく呻きながら手を伸ばし、触れる。指先に感じる温かい感触と、触れられて困惑する少年の表情に、思わず破顔した。

 いいや、もう。何でも。完全なる空振りだったけれど、これが守られたならば。

 俺の残りの人生、捨てた甲斐があったな。

 心の底からそう思ったと同時に、ふっつりと、意識が途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る