アンチ転生〜転生者狩りに転生しました〜

きんぎょ

第1話、転生者狩りのお仕事

 異世界転生。いいよな、アイツら。

 生まれつき高い魔力に、いい血統。

 元はニートみたいな奴らが転生していい人生を送る。

 もしかしたら死んでもう一回リトライする所もあるかもしれない。そこは、俺が関われる所じゃないので無視しよう。

 もしかしたらゲーム世界に転生してしまったり、雑魚モンスター代表のスライム先輩に転生するかもしれないが、ここも上述の通り無視しよう。というか、後で謝るのがこっちだろうから、先に土下座しておこう。

 あえてもう一回言おう。


 元はニートみたいな奴が転生して可愛い女の子にチヤホヤされて、最強の能力持つのって、超羨ましいよな!


 こっちもな、もしかしたら死んだら転生してラノベ主人公とか、アニメのキャラみたいな良い奴になれると思ったよ!そうだよ、思って何が悪いんだよ!俺だって夢見たいんだよ!

 確かに転生したよ、転生したんだよ?

 でもね、


 魔王軍の平の平、一兵士で、転生者を狩る側に回ってるんだよ!

 しかも、狼男きた。普通は人間だよ。そこは別にいいんだ。

 でもな、狼男って満月の夜に人間から狼になる。これは定番だ。ある程度知られている有名な話だが、違うんだ。まず、俺ら狼男が狼になる条件は別に月だけじゃない。丸い物を見た時は基本狼男になる。後、楕円形でもなる。

 おかげで酷い時には一日中獣一色に染まってしまう時さえある。

 また、パワーやスピードも一般人よりはある。だが、転生者に比べると天と地の差だ。また、魔界にいる奴らのなかでは中の中の下よりと、基本パッとしない。


 ということで、八つ当たりじみているが転生者を狩る側に回りました。





 転生者を狩ると言っても、殺したりとかはしない。

 殺すとどうやら天界の方から色々とクレームが来るので面倒らしい。本当に敵対しているのかどうか怪しくなってきた。悪役というか、ただの小悪党感が拭えない。

 転生者をひっ捕らえて魔王城にある転生システム装置とかいう胡散臭そうなマシーンにぶち込むだけで転生返しができる寸法になっている。

 そんなこんなで今日も転生者を狩るために辺鄙な村に行く。

「なぁ、今日の仕事の、帰りにキャバクラ行こうぜ、な!ヨース」

 そう言うのは俺の仕事の相棒であるアタッカーでオークのザバーン。オークのクセに好物が豚の角煮というどうしようもない奴だ。

 ちなみに、俺の名前はヨース。単純に転生する前の名前がヨースケだったからだ。

「俺はキャバじゃなくて今日はムラムラするから風俗で済ませるわ」

 ザバーンに断りを入れたのはダークプリーストでパーティーのヒーラー役のアイサル。

 腕は良いのだが、俺やザバーンよりも風俗通いが過ぎ、かつ悪酔いが過ぎてしまい、医者として女を診てはいけないということでここにぶち込まれたパーティーの中でもブッチギリでヤバい奴だ。

 ちなみに、女性に手を出そうとしたり、邪な感情を抱いたら電流が流れるようにアイサルには施されている。いっそ哀れだ。

 考えてみてくれ。女性に近寄って電流が、流れる。風俗に行って電流が流れる。もはや安息の場がない。そこで以前、どうしてそうまでして風俗に行くのか?と尋ねたら

「電流にも耐性が着いてきて、ちょっと気持ち良くなってきて、風俗✕電流でより気持ち良くなるからさ」

 という頭の病院に定期検診行くレベルの発言をした。同じパーティーで、あることを恥じるレベルな気がしてきた。


 そんなこんなで目標の村であるイサック村に到達した。なんてことはない。赤ちゃんを魔王城まで運ぶお仕事だ。

 そう思って足を踏み入れようとした瞬間……


 サイレンが急に鳴り始めた。


 ふと足元を見ると、三人全員赤いスイッチらしき物を踏んでいた。

 俺たちは顔を見合わせて、一旦引くことにした。

 振り返りながら見てみると、辺鄙な村に頑丈な柵が出来上がり、立派な石塁が出来ていた。

「なぁ、これ俺らホントに攻略して転生者を連行できんのか?」

 ザバーンがそう言って、俺たちは石垣を見つめる。およそ俺たちはの体の三倍以上はありそうな大きさだ。

「フッ、これだから知恵のない奴は困る」

 すまし顔でアイサルは笑う。

「見ておけ、俺にいい作戦がある」



 数十分後

 俺とザバーンは巨大なゴムで村近くの二本ある巨木の間に宙吊りにされていた。

「おいアイサル。これ俺ら死ぬよな」

 俺が突っ込む。

「安心しろ。生存確立はなんと10パーセントもある。多分大丈夫だ!」

「大丈夫じゃねぇよな!明らかに十回に九回はしんでるよな!」

「ちくしょう!やってられるか!」

 俺とザバーンは口々に文句を言っていく。

 そんな事をお構い無しにアイサルは身体強化の魔法をかけていく。

「そんじゃ、死なねぇようにな!」

 明らかに死ぬこと前提で計画立てやがった。


「「イィィィィィヤァァァァァァいィィィィィィィィやぁぁぁぁぁぁぁ」」


 俺とザバーンの断末魔がよく響く。風邪のせいで顔がもはや目も当てられないだろう。

 というか、この調子でいくと壁にぶつかってしまう。俺は飛ばされながら丸いものを探す。

 狼化して身体を強化しなければならない。

 幸いなことに、手でグーを作ることにより狼化できた。ジャンケンの度に狼になるのでキリがないと嘆いている暇はなかった。

 壁までもうすぐだった。すぐ横を見ると、ザバーンが俺よりも若干低空飛行になっていた。

 俺は体を少し上げて、壁が直前に迫った瞬間に体を横に逸らし、ザバーンを踏み台にすることにした。

 ザバーンを踏み台にすることに成功して俺は石垣の縁に手を届かせれた。貴重な犠牲だった。豚に感謝だ。

 俺は石垣を登りつめた。

 見たところ本当に辺鄙な村だった。

 すると、ニコニコしている大筒担当の警備のオッサンと目が合った。

 俺も負けじとニコニコする。

 笑顔が通じている。そう思った瞬間に大筒をぶちかまされた。石垣から落ちている最中に見たのはザバーンのこれ以上ない下卑た笑いだった。

「さっきはどうも、ありがとうな!」

 ザバーンはそう言って俺の腹を踏み台にして、俺と同じように石垣を登り、俺と同じようにやられてしまった。アイツ、馬鹿なんじゃないだろうか。

 ちなみに、腹が立ったのでアイサルにも二人で協力して同じ目にあわせた。

 結果は石垣を登れず顔面を強打して帰ってきた。いい気味だった。



「お互いに、協力しながら作戦を立てよう」

先程俺たちを酷い目にあわせたアイサルはこう提案した。若干半泣きだった。

「それにしても、どうやって攻め込む気なんだ」

ザバーンは尋ねると、

「大丈夫さ。ここに、任務の為に調達した大量の爆弾がある」

自信満々にアイサルが言い放った。

「先にそれをだせや!」

「お前バカなんじゃねぇのか!」

口々に暴言を吐きアイサルをタコ殴りにする。

「てめぇら生きてるから良いじゃねぇか!」

遂には開き直ってしまった。

「まぁいい。んで、火薬使って石垣ぶっ壊して侵入するんだろ」

「そうだ。それじゃあ、任務スタートだ」



俺たちはひたすら石垣目掛けて爆弾を投げていく。

そろそろ石垣が崩れる頃合かと思った矢先に、爆煙に乗じて一人の男が現れた。

見た感じ勇者だ。しかも、それなりに強そうだった。

「お前たち、そんなに罪のない人間を苦しめて何が楽しい!」

勇者はこう言ったが、俺達には焼かれて顔面を強打したり、味方に踏んづけられた記憶しかない。あ、これ完全にただの自滅だった。

「お前たちを追い払う為に戦っている人達も心を痛めている!」

俺らがやられた大筒のオッサンは、とても清々しい笑顔だった気がする。

「俺はしがないさすらいの勇者だ。だが、このイック村には恩がある!一体この村に何の用だ!」

そう言われて俺たち三人はお互い顔を見合わせた。確か、任務の場所は……

「ここは、イサック村だよな?」

「いいや、ここは、イザック村だ!」


しばらくの沈黙の後、俺たちは、一目散に、脇目も振ることなく、逃げることを選んだ。

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