第二十三章 救い
23-1 祈る
「モモが……」
呟いた途端。
両目からぼろぼろと涙が溢れ落ちた。
「モモ……いたんだ……ほんとに、いたんだ……ッ」
自分の中だけの、妄想ではなかったのだ。とにかく、それを知れたことが嬉しくて仕方ない。
「でも、朱金丸さんからの、贈り物……って?」
ぐずぐずと鼻をすする美邑の頬を、トモエがそっと撫でる。
「二代目はね。貴女の魂を一部削り取ったの。その、削り取ったモノに自分の力の欠片を組み合わせて――モモを造った。孤立してしまうであろう貴女のために。人と言うよりも、物の怪に近い存在だけどね」
――ほんとに、独りにしないでくれていたんだ。
あの夢の中で感じたことは、間違いではなかった。「化け物」と揶揄され、引け目を覚えながら生きていく中で、家族以外に唯一側に居続けてくれた存在である、モモ。彼女がいたのは、朱金丸のおかげだったなんて。
「ううぅ……っ」
「ほらぁ。また、泣かないの。話は、まだ終わってないんだから」
くすくすと、トモエが笑う。
そうだ、確か美邑を救ってくれるという話だったが――モモが妄想の存在でなかったと知れただけでも、充分に救われた思いではあるのだが。
「モモはね。貴女に一度、信じてもらえなくなったことで、貴女との繋がりを失ってしまった。それを、元に戻すの」
「繋がり……」
その言葉に、はっとする。確かに美邑は鬼に成りきるその瞬間、モモのことを切り捨てた。妄想でも良いと、そう考えてしまった。
「あた、し……最低……ッ」
モモは、ずっと側にいてくれたのに。守ってくれていたのに。それを無下にし、自分の保身のために、友人の存在まで否定した!
「……モモはね。貴女のためだけに、十年間存在してきたの」
トモエが、囁くように語りかけてくる。
「何故ならね。モモが存在しているのは、朱金丸がきっかけではあるけれど――結局、モモは貴女自身の魂でできているから」
つまりね、とトモエは笑う。美邑の胸に、そっと手を当てながら。
「モモは、貴女自身だっていうこと。貴女がモモみたいな存在に側にいてほしいって、願い続けてきたから、モモは貴女の側にいられた。貴女自身だからこそ、貴女の気持ちを誰よりも理解して、寄り添って来ることができた」
「……モモが、わたし自身……」
「ええ」と、トモエが頷く。
「でもね。それを、決して虚しいことだなんて思わないで。モモは貴女の一部で貴女自身――けれど、紛れもなく独立した人格をもつ存在でもある」
「……あたし」
涙を拭いながら、美邑はぐちゃぐちゃになった頭の中を、なんとか言語化しようともがく。そうしなければ、自分の考え一つすらまとめられそうになかった。
「あたし……ずっと、モモみたく……なりたかった」
明るい色の髪を長くたなびかせ、魅力を最大限に引き出す化粧と笑顔をまとい、背筋を堂々と伸ばしている。
そんなモモに憧れ、時に羨ましくもあり、自分とは違うと、そう感じていたのに。
「……貴女がなりたい姿を、モモはずっと見せていたのね」
「大丈夫」と、トモエに抱き締められる。
「モモにはまた会える。そのために、わたしが来たんだもの」
「だから祈って」と、耳元でトモエが言う。それこそが祈りのような、真摯な声で。
「わたしの力を貸すから。だから心の底から、貴女は祈るの。もう一度、モモに会いたいって。モモが必要だって」
トモエの言葉は、そのまま、美邑の心からの願いで。だからこそ、自然と美邑はそれを受け入れ、トモエの背中を抱き締め返した。まぶたをぎゅっと閉じて、ただただ祈る。
(会いたい……会いたいよ、モモ……っ。会って、ごめんねって言わなきゃだし。それに……ッ)
抱き締めたトモエの身体が、熱くなる。同時に、閉じたまぶたに真っ白な光が射し込んできた。
「……っ」
目を開けても、光の洪水に包まれて、なにも見ることができない。
「トモエさん……っ!?」
叫びに応えるように、背中に回された腕の力が増す。耳元に囁いてきた声は、しかしトモエのものではなかった。
「――ミクちゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます