第89話 「告発って? あそこでやるの?」

 ヘリからハーネスが垂れ下がる。

 一人の屈強そうな男が飛行甲板に飛び降りると、ハーネスを持ってあたしの方へ……


「何するの!? やめて!!」


 と言ったけど、男はやめてくれなかった。

 男はあたしを捕まえると無理やりハーネスに固定。

 あたしはリアルを抱いたまま空中に吊り上げられる。


「瑠理華ちゃあん!!」


 飛行甲板でおばさんが叫んでいる。

 何事かと、保安官たちが集まってくるがもう遅い。

 あたしとリアルは否応なく吊り上げられ、ヘリコプターの中に引きずり込まれた。

 中で待っていたのは……


「美樹本さん。無事でよかったわ。あれから心配したのよ」


 ヘリコプターの中で待っていたのは星野さんだった。


「星野さん。これはなんのまね?」

「ごめんなさいね。お父様の指示なのよ」

「お父様って?」

「学校では黙っていたけど、私のお父様も政治家なのよ。リアルちゃんの事を話したら、こうするように言われたの」


 なんて事。


 星野さん……信用していたのに……


「できれば巡視船が港に入るまで待っていたかったんだけど、時間がないからこんな乱暴な方法をとることになったの。ごめんなさいね」

「時間がないって……いったい、あたし達をどこに連れて行く気?」

「着いたらわかるわ」

「今教えて」

「ううん……どうしようかな?」


 窓の外を見ると東京タワーが見えた。


 なんて早い。


 ヘリはあっという間に、東京タワーと六本木ヒルズの間を飛びぬけていく。


 そして、東名高速の上に来たとき……


「おい、瑠璃華。あれって」


 リアルは操縦席の窓を前足で示した。


「このヘリ、あそこへ向かっていないか」


 あれ? あの建物!!


「星野さん。まさか、あそこへ行くの?」

「ええ、そうよ。あそこにお父様がいるの」

「でも、あそこって……」

「社会科見学で来た事あるでしょ」


 そりゃあるけど……


「六年の時だったな。瑠璃華はバスに酔って大変だったっけ」


 わーわー!! リアルったら、余計なこと思い出さないで!!


「でも、あんな所で何をするのよ?」

「決まってるわ。柳川総理がリアルちゃんにやろうとした事を告発するのよ」


 え? じゃあ、やっぱり星野さんは味方? でも……


「告発って? あそこでやるの?」

「そうよ。他にどこでやるというの?」


 だってあそこって……



 国会議事堂だよ!!

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