第65話 囚われの身
玄関を開くと暖かい空気が流れてきた。
いけない。エアコンを切り忘れてた。
まあ、そんな余裕なかったしね。
エアコンを切るためにリビングに入ってみるとひどい有様。割れたガラスが散乱していた。パパが見たら怒るだろうな。
エアコンを止めると、あたしは二階に向かった。
スマホの着信音が鳴ったのはあたしの部屋の前まできた時。パトカーのサイレンじゃなく普通の着信音だった。
「もしもし」
『瑠璃崋。俺だ』
「リアル。どこから電話しているの?」
『首輪の通信機能を使っている』
「でも、それを使ったら居場所が……」
『事情が変わった。内調では俺の処分命令が凍結されたんだ』
あたしはドアノブに手をかけた。
「どうして?」
扉を開く。
『事情はわからないが、糸魚川の親父さんがしつこく電話していたのはそれを伝えるためだったんだ。間違って俺を殺さないために』
部屋に足を踏み入れた。
「だって、あたし達さんざん追い回されたじゃない」
『あれは内調じゃない』
「どういう事? 内調じゃなきゃ誰があたし達を追い回していたのよ?」
「俺達だよ」
え? 顔を上げると三人の先客がいた。
村井とハミルトン。もう一人の人間を見て彼らがどこの組織かすぐにわかった。
昨日の変態男。ニュースでは緑埜潤一と言っていたシーガーディアンの日本人協力者。
「あなた達、シーガーディアンだったのね」
村井はにやりと笑う。
「俺達を内調と勘違いしていたようだな。まあ、それはいい。猫を渡してもらおうか」
「いや」
「そうかい。じゃあこいつがどうなってもいいのか?」
村井はケージを高く掲げた。中でグッキーが怯えている。
「やめて!! グッキーに酷い事しないで!!」
「じゃあ、猫を呼べ」
「なによ!! シーガーディアンって、動物保護団体じゃないの? 動物保護団体のくせにハムスターを苛めていいと思ってるの」
「そうだ、村井君。僕達は動物保護団体だ。ハムスターを苛めるのは……グッ!!」
止めようとした変態男……緑埜に村井はボディブローをみまった。
「勘違いするなよ。俺はお前らに金で雇われたが、理念に賛同しているわけじゃねえ。それに何が動物保護だ。クジラの住む海に劇薬をバカスカ投げ込んどいて、この偽善者どもが。アメリカの裁判所からも、おまえら海賊認定されたそうじゃないか」
「それはだね……」
なだめようとするハミルトンを村井は睨みつける。
「気に入らないならも契約解除してもらっても結構だぜ」
「それは困る」
「だったら俺のやり方にケチをつけるな」
村井はあたしに向き直る。
「さあ、嬢ちゃん。猫を出してもらおうか」
「ここにはいないわ」
「そうかい。それじゃあしょうがねえな。あんたには俺達と一緒に来てもらおう」
抵抗する間もなく、あたしは村井に抱え上げられた。
「やだ!! 放してよ!! エッチ!! 変態!!」
「心配するな。俺にロリコン趣味はない」
いや……そう言われるのもムカつくんですけど……
「ハミルトン。エアロスを呼んで、ロープを下ろしてもらえ」
エアロス? さっき、飛んでいた飛行船!! こいつらのだったの!!
「おい。この子を連れていくのか?」
「そうだ。こいつを人質に、猫をおびき出す」
ハミルトンはトランシーバーを出して何処かと連絡をとった。
「来たぞ」
窓から上を見上げていた緑埜が、手を伸ばしてハーネスのついたロープを部屋に引き入れる。三人かがりであたしはハーネスに固定され窓から放り投げられた。
ハーネスが身体に食い込む。ロープは、さっきのエアロスとかいう飛行船からぶら下がっていた。
ロープは一本だけでなく、他に三本垂れ下がっていた。
「さて、空中散歩と行こうか」
村井達がロープに掴まると、飛行船はあたし達を引き上げ始めた。
グングン地面が遠ざかっていく。
家の前に止まっている車の横で星野さんが家の方を見ていた。
あたしには気が付いてないみたい。
「嬢ちゃん。もし、でかい声を出したらハムスターをここから落とすぞ」
村井の声だった。
「卑怯者!! こんな事して、ただで済むと思ってるの? すぐに警察がくるわよ」
「目撃者がいればな」
「そうじゃなくて、飛行船をこんな低空飛行させたら、航空法違反だって事ぐらいあたしだって知ってるよ」
さっき糸魚川君に聞いたばかりだけどね。
「レーダーに映ればな。だが、この飛行船には電波を吸収する磁性塗料が使われている。普通のレーダーでは捉えられんよ」
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