第53話 忍者?

 外人は変態男に話しかける。

 変態男はあたしを指さして英語で何かを話した。

 外人はあたしに何か話しかけたが、チンプンカンプンでわからない。

 変態男が通訳する。


「それは時限爆弾じゃなくスマホで遠隔操作する爆弾だと、ポールは言ってる」


 ポール!!


 やっぱり、この男がポール・ニクソン。

 ポールはあたしに向かって何か英語で言い、ポケットからチョコレートを出した。


「大人しく、それを返してくれたらチョコレートをあげると言ってるが」


 わーい!! チョコレート?


 て、喜ぶな!! あたし。


「子供だと思って馬鹿にしないで!! 叩きつけるわよ」


 突然、ポールは笑い出した。

 変態男に何か囁く。


「それはC4プラスチック爆弾といって、叩きつけたぐらいじゃ爆発しないそうだ」

「え?」

「わかったらそれを返しなさい。嬢ちゃんがここを離れるまで起爆装置は押さないから」


 ん? 


 いつの間にか、リアルがロッカーの上に登って飛びかかる機会をうかがっていた。


「いいわよ」


 あたしは爆弾を床に置く。

 そして男達に向かって蹴った。

 爆弾は床の上を滑っていき、男達の一メートル手前で止まる。

 変態男が拾おうとして屈みこんだとき。


「ふぎゃああああ!!」


 ロッカーの上からリアルが飛び掛かった。


「うわわ!! 痛い!! 痛い!! やめろ!!」


 変態男は頭を引っ掻かれ、たまらず床を転げまわる。


「ホワット?」


 呆気にとられているポールにリアルは向き直った。


「ハロー ロングタイム ノー シー」


 突然、英語を喋った猫にポールは一瞬驚き、次に怒りの形相を浮かべた。

 何か英語で叫びながら、ポールはリアルに掴みかかるがリアルはヒラリと躱して、ポールの頭に飛び移った。

 次にリアルが飛び退いた時、ポールはカツラをはぎ取られて禿頭になっていた。

 ちょっと、かわいそう。


「オオ!! ノー!!」


 ポールは爆弾そっちのけで、リアルに奪われたカツラを取り戻そうとする。

 その隙にあたしはスライディングして爆弾を拾い部屋から逃げ出した。

 長い通路を、あたしは爆弾をラグビーボールのように抱えて走った。

 後ろから、リアルが追いついてくる。


「急げ!!」


 でも、今起爆装置を押されたら……考えないでおこう。

 通路の先に外人の男女が立ちふさがった。あの二人、さっきポールと一緒にいた。

 じゃあ、あいつらもシーガーディアン?


「ホールドアップ」


 女は懐から何か取り出した。

 え!? ピストル!! なんでそんな物?


「やめて!! 撃たないで!!」


 あたしは立ち止まって叫んだ。


「ホールドアップ」


 わわ!! あの人、日本語通じてない!!

 カチャリという音をさせて、女はピタリとあたしに銃口を向ける。

 もうだめ!! 撃たれちゃう。

 パパ、ごめんなさい。

 ここまで、育ててくれたのに、もう花嫁姿を見せて上げられない。

 ママ、真君、あたしもうすぐそっち行くかも……


「オオ!!」


 突然、女が悲鳴を上げてピストルを落とした。手に何か刺さっている。

 手裏剣?

 唐突に天井からカーキ色のボディスーツに身を包んだ人が降り来て、女に当て身を食らわせた。 女はそのままクタっと倒れる。


「リンダ!!」


 横にいた男は対応する間もなく殴り倒された。

 何者?

 顔を覆面で覆っているから男か女かもわからないけど、まるで忍者みたい。


「今のうちに逃げろ!!」


 忍者はくぐもった声で言った。

 どうやら男のようね。


「あなたは?」

「猫に聞け」

「え? じゃあ……」

「案ずるな。われの任務はテロの阻止。喋る猫など与り知らぬ」


 どういう事? 

 とにかくあたしは言われた通り出口に向かった。

 忍者の横を通ろうとしたとき。


「まて。爆弾はおいていけ。始末する」

「え?」

「瑠璃華。言う通りにしろ」

「リアル!! 喋っちゃ……」

「心配するな。こいつは俺が喋れる事を知っている」

「ええ?」

「案ずるな。ここで喋る猫は見なかった事にしておく」

「恩に着る。瑠璃華。爆弾を」


 あたしは爆弾を忍者に渡した。


「あの。爆弾はもう一つあるんです。それに奴ら起爆装置を」

「心配ない。一つはすでに始末した。起爆装置もジャミングしている。さあ、早く行け。ここは我が食い止める」


 あたしはリアルを自転車の籠に入れて走り出した。しばらく走ったところで立ち止る。


「リアル。どういう事? あの人は誰なの?」

「内調のエージェントさ」


 やっぱり。


「でも、内調は……」

「俺を逃がしてくれたのも、内調内部の人なんだ。たぶん、あいつもそっち側なんだろ」


 内調もいろんな人がいるのね。

 駐輪場に戻ると警備員に入るのを止められた。


「すみません。中に友達が……」

「美樹本さん」


 その声は背後から聞こえた。

 ふり向くと、糸魚川君が自転車を押してくるところだった。


「自転車がないからどうしたのかと思ったよ」

「ごめんね」


 チュドーン!!


 外で爆音が聞こえたのはその時。


「なんだ今のは?」


 糸魚川君は驚いて振り向く。

 あたし達は急いで音のした方へ向かった。

 野外駐車場に人垣ができている。

 爆心地はあそこね。

 人垣をかき分けてようやく爆心地が見えた。駐車場の真ん中でかつて車であったスクラップが燃えている。


「僕の愛車が!!」


 声の方に目を向けた。

 変態男が燃え盛る車に駆け寄ろうとするのをポール達に止められていた。

 さっきの忍者、あいつらの車に爆弾を仕掛けていったのね。

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