第52話 「近づいたら、これを叩きつけてやる」
一つ目の爆弾はすぐに見つかった。渡り廊下の観葉植物の後ろに無造作に小さな黒い箱が置いてあったのを拾い上げた。蓋があったので開けてみる。
う!!
いかにもダイナマイトっぽい丸い筒に導線で繋がれたデジタルタイマーがカウントダウンを刻んでいた。
「無暗に開けるなよ」
「リアル!! これ後十分で爆発するよ」
「急ごう。爆弾はあと四つある」
あたしはエコバックの中に爆弾入れた。
「次は一つの上の渡り廊下」
二つ目はゴミ箱の後ろにあった。
「なんで渡り廊下ばかりにあるの?」
あたしは爆弾をエコバックに入れる。
「廊下を爆破して二つのビルを分断するつもりらしい」
タイマーは残り九分。
急がないと、木端微塵だよ。
あたしは階段を必死で駆け登った。
三つ目もすぐに見つかったけど、ちょっと厄介。ベンチの下に針金で縛ってあった。
「まかせろ」
リアルが前足のリューターで針金を切断。
爆弾が床に落ちた時はちょっと焦った。
でも、何事もなく回収してエコバックの中に入れる。
この時点でタイマーは残り八分。
「一度。この三つを捨てに行こう」
「どうして?」
「やつらは本格的な要求をする前に、渡り廊下を落とすはずだ。つまり、この三つが最初に爆発する。他の爆弾はもう少し余裕がある」
「わかった」
あたしは大急ぎでエスカレーターをかけ降りる。気のせいか客が少ないな。
残り五分。
二階で突然警備員に呼びとめられる。
「なんです!? あたし急いでるんですけど」
残り四分。
「失礼しました。実はこのビルで危険な事態が進行しているんです。一刻も早くこのビルから離れてください」
「わかりました」
そうか!!
警察はこうやって地道に客を逃がしていたんだ。でも、こんな方法じゃ、とても全員逃げられないよ。
やはり、あたしがやらなきゃ。
駐輪場に着いた時、残り時間は三分半。
三分以内に行ける無人地帯……
多摩川!!
あたしは必死でペダルをこぐ。
土手に着いた。
タイマーは残り一分を切っている。
幸い河川敷に人はいない。
「瑠璃華!! 急げ!! 時間がない」
「うん」
残り三十秒。
あたしはエコバックごと爆弾を多摩川の水面に投げ込んだ。
驚いた水鳥達が逃げていく。
ちょうどよかった。
鳥さんだって巻き込みたくない。
チュドーン!!
爆発が起きたのはあたしが土手を駆けおりた時の事。
爆風は土手が防いでくれたけど、あたしはかなり水しぶきを被った。
「急ぐぞ。爆弾はあと二つ残ってる」
「うん」
ここで逃げ出したいという弱気を押えながら、あたしは必死で自転車をこいだ。
四つ目の爆弾がある建物に直接乗り付ける
見るとショッピングセンターの入口は警備員が貼り付いていて、新たな客を入れないようにしていた。
でも、爆弾はそこじゃない。
奴らは従業員用の出入り口から入って爆弾を仕掛けたのだ。
客を逃がすので手いっぱいなのか、そっちには誰もいない。おかげであたしは誰からも咎められることな く建物に入れた。長い通路を抜けた先の空調室。その機械の隙間に隠してある爆弾をリアルが引っ張り出してきた。蓋を開けてみる。
え!? タイマーがない!!
うそ!! これじゃあ、いつ爆発するかわからないよ!!
爆弾を拾い上げてふりむいた時、そいつはいた。
「そこで何をしている?」
さっきの変態男!
いけない。出口を塞がれたわ。
「おまえ!? さっきの……おい。悪い事は言わん。その箱を床に下ろせ。ゆっくりと」
「イヤ!!」
「イヤじゃない。マジに危険なんだから返しなさい」
あたしは爆弾を高く掲げた。
「近づいたら、これを叩きつけてやる」
もちろん、本当に叩きつける気なんてないけどね。でも、ここは本気に見せないと。
「わああ!! やめろ。落ち着け、それはだな」
「爆弾でしょ」
「なぜ……それを?」
「これ、いつ爆発するの?」
「さあ?」
「叩きつけるわよ!!」
「待て!! 落ち着け!! 俺は通訳を頼まれただけで、爆弾の事はよく知らないんだ」
「嘘つき!! さっき河原で爆発があったよ。あんたが仕掛けたんでしょ」
「いや、あそこに爆弾をおいたのは確かだが、俺はあそこに置いてきただけで……」
その時、変態男の背後から英語らしき声が聞こえてきた。
髪の長い白人の中年男が入ってくる。
この人!!
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