第47話 これはビンゴかもね

 なんで多摩川に行くことになったかというと、あの映像に出てきた塀のような物は川の土手だったから。

 つまりサッカー場は河川敷にあるわけ。

 もしかすると、多摩川の河川敷かも。

 そう思って多摩川に行くことにしたの。

 もちろん、河川敷にあるサッカー場なんて日本中にいくらでもあるけど、その中の一つが自転車で行ける場所にあるなら外れだとしても似たような景色を見たら、リアルだって何か思い出すかも……ん?


「リアル。あんた多摩川を見たことあるの?」

「んにゃ? 見たことないよ」

「じゃあ、この川を見てなんで多摩川より小さいと思ったの?」

「あれれ? なんでだろう?」

「それ、人間の時の記憶じゃないのかな?」

「ううんにゃ。そうなのかな?」

「きっと、そうよ! リアルは人間の時に多摩川を見てるんだわ」


 これはビンゴかもね。

 リアルは人間の時に多摩川を見ていたなら、さっきのサッカー場は多摩川の可能性が高い。

 あたしは自転車をこぐ足にいっそう力を込めた。

 程なくして、あたし達は浅川と多摩川の合流点を過ぎる。

 テニスコートを横目に走っていくと、やがてサッカー場が見えてきた。

 あたしは土手の上に自転車を止めて、サッカー場の方へ降りる。

 どこかの高校の女子チームが練習しているので、邪魔にならない程度の距離に近づいた。


「ねえ、リアル。見覚えある?」


 リュックから顔を出しているリアルから良く見えるように、あたしはサッカー場に背中を向けた。


「ううん……あるような、ないような」


 無理もないか。サッカー場なんてどこも似たようなもんだし……


「ねえ、そこの人」


 不意に背後から声をかけられた。

 振り向くと、さっきまで練習していた女子高生のお姉さん達。


「すみません。練習の邪魔でした?」

「ううん。そうじゃないのよ」

「え?」

「かわいいわね」


 え? かわいい? あたしが?


「あら、そんな」

「写真撮らしてもらっていいかしら?」


 お姉さん達はそれぞれ、携帯やスマホを構えていた。


「え?」


 どうしよう。困ったな。可愛いと言われるのは嬉しいけど、知らない人に写真を撮られることの怖さをあたしはパパからよく聞かされていた。

 ネットに曝されて酷い目に遭った人の話も。

 でも、このお姉さん達は悪い人じゃなさそうだし……


「あの、ネットにUPとかしませんか?」

「そんな事しないわよ。携帯の壁紙にするだけだから」

「私、パソコンの壁紙」

「そういう事なら あ! ちょっと待ってください」


 あたしは自分の携帯を出してカメラモードに。画面に自分の顔を映して精一杯の笑顔。

 うん!! 我ながら天使の微笑み。


「さあ、どうぞ」

「ありがとう」


 あれ? なんでお姉さん達、あたしの背後に回るの?

 なんで背後からシャッター音がするの? 天使の微笑みはこっちだよ。 


「可愛い!!」「キャー!! 可愛すぎ」「猫ちゃんこっち向いて」


 そ……そういう事か。

 リアルの写真を撮って満足したお姉さん達は、天使の微笑みをスルーして帰って行く。

 うう……なんか悔しい。

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