第35話 動画が消されてる

「おはよう。美樹本さん」


 背後からの声に振り向く。


「星野さん、おはよう。あの……」

「ん? どうしたの?」


 あたしは石動を指さす。


「石動に何かされたの!?」


 いや、いきなりファイティングポーズ取らなくても……


「そうじゃなくて……」


 あたしは動画のことを話した。


「ううん、その動画見てないけど……これから処分を言い渡されるんじゃないのかな?」

「そうなのかな?」

「その動画って携帯でも見られるの?」

「うん」


 あたしは携帯で裏サイトにアクセスしてみた。


 あれ? ない? 


「動画が消されてる」

「ええ!?」

「変ねえ。昨日は見られたのに」

「ねえ、その動画サイトって、石動の実名とかも書いてなかった?」

「書いてあったわよ」


 てか、あたしが書いたんだけど。


「だとすると、圧力がかかったのかもしれないわね」

「圧力? 石動の親ってそんな力あるの?」

「そうじゃなくて、未成年の名前とか書き込まれたから誰かが警察に通報して、警察からサイト管理者に削除要請が出たのかもね」

「だって、このサイトはあまり見ている人いないし……」

「うちの学校の誰かが作ったサイトでしょ。なら先生が監視していたのかもしれないわ」

「そっか」

「というか、石動が自分で見つけて通報したんじゃないかな?」

「え!?」


 そうだった。そもそもこのサイトってこの学校の誰かが作ったんだけど、書き込んであるのはクラスメートや先生の悪口ばかり。

 あたしもアドレスは知っていたけど、ほとんど見ることなかった。

 見ても嫌な気分になるだけだし……

 だけど、石動のように根性腐ってる奴なら喜んで見ているはず。

 そこに自分の事が書かれていて見逃すはずがない。

 迂闊だった。

 という事は動画が消されただけでなく、石動にも知られてしまった。

 最悪……

 石動は校庭の片隅で悪友達と何かを相談していた。

 あの動画をあたしが投稿したってばれてるのかな? 

 あたしは鞄からリアルを出した。


「にゃん」

「あら、リアルちゃん。おはよう」


 星野さんがさっそくリアルを抱き上げようとする。


「ごめん星野さん。リアルは今、トイレが我慢できないみたいだから」

「そうなの? てか、わかるの? そんな事」


 あたしはリアルの耳元に小声で囁く。


「リアル。石動達が何を話しているか聞いてきて……」

「にゃん」


 リアルはとっとと走っていき、石動達が悪巧みをしている近くの藪に隠れた。

 程なくして戻ってきたリアルをあたしは抱き上げた。


「大丈夫だ。瑠璃華は疑われていない」

「そうなの?」

「ああ。あいつら、糸魚川がやったと思っている」


 なあんだ。それなら……いいわけない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る