第31話 転校生のなぞ
「ハックしょん!! ちくしょうめ!!」
石動がわざとらしくクシャミをしたのは、翌朝のホームルームでの前のこと。
「ちくしょうめ!! 猫の毛がむずむずするぜ。誰だよ。学校に猫なんか連れてくる非常識な奴は」
イヤミな奴!! 猫アレルギーなんてないくせに……
ガラっと扉が開いて黒沢先生が教室に入ってきたとたん、石動のクシャミはピタっと治まる。
さすがに先生に逆らうだけの度胸の持ち合わせは無かったようね。
ていうか、こいつって先生や親の前ではいつもいい子ぶっている。
大人相手の顔と子供相手の顔を器用に使い分けているんだ。
黒沢先生は無表情な顔で教室内を一瞥する。
「さて、突然だが転校生を紹介する」
先生の後ろから教室に入ってきたのは大きなメガネをかけた男の子……え!?
昨日の子! なんでここに? でも、なんか昨日と雰囲気が違う。
昨日は無鉄砲にメン・イン・ブラックに立ち向かっていったというのに、今の彼はまるで何かに怯えているかのような顔をしていた。
転校したばかりでキョどっているのかな?
「い……い……
糸魚川君って言うんだ。変わった名字ね。
糸魚川って言ったら翡翠の産地として有名だけど、それを名字にしている人がいるとは知らなかったわ。とにかく、後で昨日のお礼を言っておかないと……
「かわいい」
女生徒の誰かが発した声に、糸魚川君は照れて赤面する。
「チッ」
背後から舌打ちが聞こえた。
振り向かなくても、石動だとわかる。
「席は廊下側の三列目が空いてるだろう。そこを使いなさい」
え? それってあたしの隣。
でも、そこは……
半年間、ずっと空席だった真君の席……
あたしの思いなどに関わりなく、転校生は真君の席に座った。
「あ!!」
思わずあたしの発した声に、転校生は少し驚く。
「どうかしたの?」
「ううん。なんでも……」
馬鹿だよね。あたし……
あの席を空けておいたって、真君が帰ってくるわけじゃないのに……
「ねえ、君大丈夫? どっか痛いの?」
糸魚川君が心配そうにあたしを見ている。
「別にどこも……」
「でも。涙流してるよ」
「え?」
あれ? いつの間に涙が……
「ちょっと、目にゴミが入っただけよ」
「そう? ならいいけど……」
そのまま、彼は何事も無かったかのように教卓の方に向き直った。
気がついてないのかな? あたしと昨日会ったことに……
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