第30話 ヒーロー登場? ……じゃなかった。

「きゃ!!」


 ドン!!


 あたしは背中から何かに衝突した。

 ブロック塀かと思ったけど、それにしては柔らかい。


「大丈夫!? 君」

「え?」


 振り向くとそこにいたのは、あたしと同じぐらいの歳の大きなメガネをした男の子。


「助けて!! あたしの猫がさらわれちゃう!!」


 思わず助けを求めてしまったけど無理かな?

 男の子の身長はあたしより頭一つ分大きいけど、柔和な顔に華奢に身体つきの秀才タイプ。荒っぽいことに向きそうにない。


「おまえ達!! 女の子になんて事するんだ!!」


 え? 意外とたのもしい。

 男の一人が振り返った。


「だまれ!! ガキはすっこんでろ!!」

「あたしの猫を虐めないで」

「ちょっと調べるだけだ」


 やっぱり、内調だ。

 でも、まだリアルかわかってないのね。

 もっとも、男達も逃げ回る猫をなかなか捕まえられないでいる。

 男の子の方はその間スマホを操作していた。操作が終わると男達の方に向き直る。


「お前達!! 警察を呼んだぞ」


 男の一人が振り向く。何か細長いものを取り出した。


「ヤバ。ネットランチャーだ。これお願い」

「え?」


 男の子はあたしにスマホを持たせると、男達に向かっていった。

 だめよ。相手はただ者じゃ……

 は! もしかすると、彼は、ああ見えて実は武道の達人……


「どけ!!」


 ……じゃなかったか。

 男の一人にあっさりと吹っ飛ばされて男の子は路面に転がった。

 それと同時に男の持っていた道具から何かが発射される。

 それは空中で広がり網になった。

 あんなもの使われたら、猫だって捕まっちゃう。

 でも、リアルはかろうじて網をよけた。

 パトカーのサイレンが聞こえてきたのはそのとき。


「くそ!! 引き上げだ」


 男達は車に乗り込み逃げていく。でも、危なかった。

 パトカーのサイレンが、あたしが持っているスマホから鳴っている事がばれてたら……

 にしても、こんな着信音どこからダウンロードしたんだろう?


「にゃー!!」


 リアルがあたしの足下へかけてくる。


「大丈夫だった?」

「にゃー」


 人前なので、言葉は話せないけど、たぶん『どうって事ないさ』と言ってるんだと思う。

 そうだ!! 男の子は?

 アスファルトの上で伸びていた。


「大丈夫!? しっかりして」


 少し揺さぶる。

 同時にリアルも男の子の頬にペチペチと猫パンチをする。

 程なくして男の子は目を覚ました。


「あれ? 僕はここで……ああそっか。あいつらは?」

「逃げてった」

「よかった。おっと。もうそれ止めないと」


 彼はあたしの持ってるスマホを受け取り、サイレンを止めた。


「馬鹿!! こんなの用意しているなら、なんで飛びかかったりしたのよ」

「いやあ、女の子の前でかっこ付けてみようかなって思って」

「そんな事で怪我したらどうすんのよ!! 死んだらどうんすんのよ!!」

「そんな大げさな」

「大げさじゃない!!」


 君は何も知らないからそんな事言えるのよ。

 あれ? あたし震えている。今頃になって怖くなってきたんだ。


「あの、君。何も泣かなくても」

「泣いてなんかない」


 言ってから気がついた。

 あたし、涙を流している。


「ああ!! もうこんな時間!! ごめん。僕もう行かないと」

「あ!! 待って」


 男の子は走り去っていった。

 名前を聞く暇もなく。

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