第11話 知性化猫
「遺伝子操作で頭のいい動物を生み出す研究が、とある研究所で密かに行われていたんだ」
「遺伝子操作?」
「ようするに、ベクターとか使ってDNAの情報を書き換えたりして、本来その生き物にない機能を持たせる事さ」
「じゃあリアルはその研究所で生まれたの?」
リアルは頷く。
「にゃん。俺はそこで生まれた知性化猫」
「じゃあ、リアル以外にも知性化された動物はいるの?」
「俺のほかにサルとかワシとか」
「でも、頭のいい動物なんか作ってどうすんの?」
「詳しくは話せないけど、諜報活動とか」
「ちょうほうってなに?」
「スパイの事だよ」
そうか。動物なら人に怪しまれないで、どこにでも入れるからスパイにはいいかもね。
それに、人って動物には心を許して、普段は人に言えないようなことを話したりするし、リアルみたいな動物を外国の高官に贈ったりしたら、その国の重要機密とかが……
はっ! まさか?
「ちょっと! この前某国の大統領に贈った秋田犬て、君の仲間じゃ?」
「んにゃ? どうかな? 研究所にいる知性化動物をみんな知ってるわけじゃないし」
これからは、動物の前でうかつな事はいえないわね。
「ところで、さっき追われているって言ってたけど。なんで?」
リアルは前足をペロッと舐める。
「この前の任務で、ちょっとドジを踏んでね」
「ドジ?」
「仲間の猿が、コンピューターを操作しているところを民間人に見られてしまったんだ」
「え?」
「つまり、俺達の存在が世間に知られそうになったんだ」
「それで……」
「日本政府が知性化動物をスパイに使ってたなんて知られたら体裁が悪い。それで俺達の処分命令が出てしまった」
「ええ!? 処分命令って? どういう事? まさか、リアルを殺すって事」
「まあ、そういう事さ。研究資料も破棄して何もなかった事に……おい……」
あたしはリアルを抱きあげた。
「リアル!! あんたそんなひどい事されて、よく黙ってられるわね!!」
「にゃ?」
「だって、そうでしょ。散々利用しておいて、邪魔になったら処分だなんて……人を何だと思ってるのよ」
「いや、俺は人じゃないし、猫だし」
「え? いや、そうだけど……猫だって同じよ。黙ってることないわ」
あたしは携帯を手に取った。動画撮影モードにしてレンズをリアルに向ける。
「リアル。何か喋ってみて」
「んにゃ? 何するの?」
「決まってるでしょ。ネット動画に投稿して、何もかもぶちまけてやるのよ」
「だから、国家機密だって」
「なにいってるの? 自分の命と国家機密とどっちが大事なのよ!?」
「んにゃ?」
「命でしょ? だから、逃げて来たんでしょ」
「んにゃ……まあ……そうだけど……でも」
「でも何よ?」
「国家機密は守らなきゃならないし……」
「まだ言ってるの? あんたはその国家に裏切られたんだよ。見捨てられたんだよ。そんな国に義理だてしてどうすんの?」
「瑠璃華。おまえ一つ勘違いしているぞ」
「なにを?」
「今、おまえがいるここはどこだ?」
「え? あたしの部屋だけど?」
「その部屋は日本にあるだろ」
「当たり前じゃない」
「つまり、お前も国の一部って事だな」
「え? ええっと」
いや、確かにそうだけど……いや……あたしが言いたいのは……
「わかってるよ。瑠璃華が言いたいのは政府に義理だてする事ないって事だろ」
「そ……そうよ」
「でもさ、国家機密って、ばらしたら政府だけでなく、国民みんなが迷惑することだってあるんたぜ」
「え? でも……喋る猫を作ったぐらいで、なんであたし達が困るのよ?」
「例えば戦争になったり」
「戦争になるの?」
「もし、さっき瑠璃華が言ってた犬が俺達の仲間だとしたら、某国の大統領がブチ切れて日本に戦争仕掛けてくるかもな」
「マジ!?」
「まあ、俺だってさ、処分命令なんか出した馬鹿総理に義理なんてないさ。でも」
「でも、なに?」
「俺を逃がしてくれた人達がいるんだ。その人達にだけは迷惑をかけたくない。それにさ、総理が交代すれば、帰れるかもしれないし」
「え? 帰れるって? どこに」
「つまり、俺が元いた組織。名前は言えないけど」
「そ……そっか」
リアルには、帰るところがあるんだ。
「じゃあさ、リアル」
「ん?」
「あんたが良ければ……」
「え?」
「あんたが良ければ、総理大臣が代わるまでここにいていいわよ」
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