空手家VSメスガキ
【前回までのあらすじ】
出落ちネタを3回やったらこの作品に使える出落ちストックが尽きたので
これ以降は出落ちネタも無く普通に進んでいきます。
あと、チュパカブラが異世界転生して異世界メスガキになりました。
異世界メスガキとは異世界のメスガキのことです。
ついでにチュパカブラの鳴き声は「ルーンヤ」ではないのか、
という感想を幾つか頂きました。
ご指摘ありがとうございます、聞き間違いだと思います。
◆
空は空色の空。
奇跡的な晴天に恵まれたこの日、
雲は一つもなく、ただひたすらに伸びやかな青色が上空にはあった。
一面の銀景色がそうであるように、
自然の色彩が統一感を帯びれば、人間に対して牙を剥くこともある。
「熱すぎるだろ……」
公園のベンチはちょうど木陰に位置している。
チュパカブラの返り血が付着した道着を脱ぎ捨てた
ベンチで項垂れながら、ただただ夏への呪詛を吐いていた。
鍛え上げられた上半身、その内側から幾つもの汗が滲む。
どれほど鍛えようとも夏は暑い。
「あー、しまったなー♡こんなにも暑いだなんて思ってなかったなぁー♡」
「あ?」
幼い女の声を若瀬は聞いた。
だが、ただの可愛らしい声というのではない。
その声の中にはどうにも淫蕩な響きを帯びている。
誘惑する者のそれである――例えるならば、
まぁ、特には思い浮かばなかったので……皆様の想像におまかせしますが。
若瀬が顔を上げれば、幼女の姿が見えた。
声だけが幼い女というわけではない、その声と姿は一致しているように思える。
金髪の長い髪が風でふうわりと広がる。
とろりとした表情、そして全裸。
だが、その秘部には淫蕩なるオーラが立ち込めて見ることが出来ぬ。
幼きにしてこれ程の使い手とは只者ではない。
「暑すぎて服脱いじゃったなぁ♡こんなんじゃ襲われちゃうかもなぁ♡」
いやいやをするように体をふる、目の前の幼女――否、これはメスガキの類か。
若瀬は目を逸らす。
どう考えても碌なことにはなるまい。
「こわ~い……襲われちゃう、
けど襲われないなら先手必勝!過剰防衛!
こちらから襲うとしようかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???」
「そうはならねぇだろ!」
メスガキ――
性行為よりも三時のおやつの方が好きであることは言うまでもないことだが、
こうなってしまってはもはや、規定量の精液かプリンでしか止まらないだろう。
「もしもプリンを持っていなければ恐ろしいことになっていた」
「わーい、プリン大好き」
若瀬の隣に座って、プリンを食べる殺死天。
項垂れた体がより深く地面に近づく若瀬。
服装の描写とかよくわからなくてとりあえず全裸って書いたせいで、
早速頭を抱えることになった作者。
感情は入り乱れ、複雑怪奇なる絵巻の様相であった。
「……で、性行為以外に何か用か?」
「えぇ……♡身体目当てだけじゃないってわかっちゃうんだぁ?」
「まぁ、なんとなくわかるんだよ。困ってるっぽい奴が」
じゃなければ、全裸のメスガキの隣で馬鹿みたいに座ったままにしているものか。
そう続けて、若瀬は殺死天に話を促す。
「私の住んでるヒグマワリトデル村が襲われててぇ……強い人を探してるんだぁ♡」
どちらにせよ身体が目当てであった。
「……続きを」
「私が住んでるのは山奥の小さな村で、
マンドラゴラを育てて過ごしててぇ……♡」
「マンドラゴラ?」
「マンドラゴラ♡」
「村が襲われてる状況にマンドラゴラを持ち込むな!話がぶれるんだよ!」
マンドラゴラとは引き抜いた時の叫び声を聞くと死ぬ、恐ろしい野菜である。
「駐在さんも返り討ちに遭うし……もう、どうしていいかわからなくなって」
「なぁ……マンドラゴラ育ててる時に死人は出るのか?」
「けっこう出ちゃうなぁ……♡」
「……話がぶれる!」
「だから村の外から強い人を……って思って、そしたらお兄ちゃんを見つけたの」
「わかった……で、何に襲われてんだ?猪か?ツチノコか?」
「羆……」
「なに」
「私の村は羆に襲われてるの」
「他を当たってくれ」
どこか楽観的な表情を浮かべていた若瀬、
だが羆という殺死天の言葉を聞いた途端に明らかにその表情に影がさした。
恐怖ではない、だが殺死天にその表情を伺うことは出来ない。
既にベンチから立ち上がった若瀬は殺死天に背を向けている。
「お礼ならいくらでも……」
「ガキに興味はねぇ」
「いや、性行為じゃなくて金銭的な」
小走りで若瀬を追い抜いた殺死天の小さな両腕には、いっぱいの札束があった。
全裸のメスガキが今の今まで札束を隠し通せたことなどがあろうか。
「……創造妊娠だと!?」
若瀬の言葉に、殺死天がこくりと頷く。
さて、皆様も一度は疑問に思ったことがあるだろう。
すなわちセックスを極めれば、どうなってしまうのか。
如何なる怪物相手にも射精出来る能力、
あるいは如何なる怪物をも快楽に落とす能力が描かれることはある。
だが、性行為とは本来出産のためにある。
なれば――セックスがスゴイやつは出産もスゴイ。
人間とセックスをして人間の子を産むだけではない。
ゴブリンとセックスをしてゴブリンの子を産むだけではない。
ドラゴンとセックスをしてドラゴンの子を産むだけではない。
セックスを極めれば、
人間とセックスをして宇宙を産むことも当然有り得るだろう。
更に、それを刹那の時間で行えるということも、また起こり得る。
勿論、いくらセックスの天才であるとは言え、殺死天はまだ子供。
宇宙を孕むほどの怪物ではない。
だが、一瞬で小銭と性行為を行い、札束を出産する――その程度のことは行える。
「……偽札じゃないのか」
「法律だからって腹を痛めた子供を否定できます??」
「えっ……ごめん……」
けれど、そう言って若瀬は言葉を続けた。
「けどな、羆はマジでヤバいんだ。
そりゃあ俺だってチュパカブラぐらいはぶっ殺すよ、俺より弱いからな
……だが、羆は駄目だ。強すぎんだよ。
俺の後輩も熊殺しに挑んで、失敗して死んだ」
若瀬はそれからあえて明るい表情を作ってみせた。
「その能力があるなら、わざわざ山奥の村になんかいる必要無いんじゃないか?
マンドラゴラとか意味わからんものも育てる必要もなくて丁度いいだろ!」
「もういい!バーカ!」
殺死天の左下段回し蹴りが若瀬を打った。
少女の蹴りに痛みはない、だがそれ以上のものが若瀬を打ち付けた。
「結局羆が怖いだけなんだ、早漏!ヘタレ!負け犬!えーっと……カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!カス!」
限界に達した語彙力とともに走り去る殺死天の目にはハートマークだけではない、
確かに涙も浮かんでいた。
若瀬は深くため息を吐いて、ベンチに座る。
追いかけはしない、そのような義理も無ければ権利もないだろう。
「……あー、くっそ」
若瀬は携帯端末を開き『ヒグマワリトデル村』を検索にかける。
特産物はマンドラゴラ、ある種の死病に対する特効薬。
ネットの記事でマンドラゴラを掲げて笑みを浮かべる殺死天の姿。
結局の所、若瀬に殺死天の事情などはわからない。
それを想像するつもりもない。
――先輩、私、羆ちょっと殺してきますね。
一瞬、死んだ後輩の声が若瀬の中に蘇った。
もう、彼女と繋いだ手の温もりを思い出すことは出来ない。
だが、拳を強く固めれば――彼女と修練した日々はすぐに蘇る。
空手家は何のために空手を学ぶのか。
強くなるためか、自信をつけるためか、
支配するためか、女子部員といちゃつくためか、
困っている人を助けるためか、違う。全て違う。
その答えは、もう若瀬も理解している。
「羆……ぶっ殺すかぁ……」
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