異世界転生した俺は誰と戦えばいいんですか?



「オギャァァァァア!異世界転生!」

「やべぇ!俺の娘が異世界から転生した輩だったぞ!」


さて、皆様は異世界転生というものをご存知であろうか。

まず私が皆様を殺害したとしよう。

するとアナタは気づけば現代日本どころか地球とは全く別の世界(通称:異世界)

に赤子(ないしは非人間的存在)となって前世の記憶を保ちつつ、

世界を救ったり救わなかったりすることになるのだ。

この説明では理解出来ない人もいるだろう、だがご安心いただきたい。

アナタも死ねばわかるのだ。は?今すぐにわからせてやってもいいんだが?


「おとうさーん!!おとうさーん!!」

「アナタ……娘が喋ったわ……」

「いや、追いつかねぇんだよ!ただただ追いつかねぇんだよ!」

「娘……お母さんよ、次はお母さんって言ってみて……」

「おとうさーん!!おとうさーん!!」

「まぁ、この子はお父さんが大好きみたいね……可愛さ余って憎しみが胸を焦がす」

「お前……?」

「我が子すら私を愛さぬか、なれば私を認めぬ世界などは必要ない……

 この世界を消し尽くしてくれようぞ」

「とんでもない速さで物語が動こうとしている……」


母親が腕に抱いた赤子を憎悪の目で見れば、

赤子もまた、その年齢には不釣り合いに生え揃った犬歯を剥き出しにした。

否、それは犬歯というには尖すぎた――それはまさしく牙であった。

そして鋭く伸びる爪、背中にはジェット噴射機構。


「おとうさーん!!」

赤子が悲鳴を上げる、それは抱擁というにはあまりにも痛みが過ぎる。

母親が子に行った万力じみた絞め上げの名を、

現代日本ではベアハッグ、異世界ではグオワンヨアハトルヌルスという。


「やめろォ!!お前!!子供だぞ!!」

「例え、私が腹を痛めた子供であろうと……私を認めぬ存在は必要なし!」

「クソ……ついつい結婚したくて暗黒婚活魔法を行ったばかりにこうなるとは……」

「おい、赤子を殺した次は貴様、そして世界だ」

「ホップステップジャンプの最後に見せた異常な跳躍力!」

「おとうさーん!!おとうさーん!!」

「俺の心の内では子供への愛情よりもただただ不気味さが上回っている!」


母親が子供を殺さんと技の圧力を高めれば、

子供はひたすらに泣き叫び、しかし異常な生命力によって耐えてみせる。

しかし如何にジェット噴射を行おうとも、地獄の万力から逃れることは出来ぬのだ。

そして、その地獄の光景に対しひたすらに狼狽えることしか出来ぬ父親。

これが異世界――現代人の求めたユートピアだというのか。

「違うと思うけど」

すいません、違うみたいです。


「……ちょっと異世界から転生してきたぐらいでなんだというのだ!」

「おとうさーん!!」

苛烈なる内蔵圧迫により、とうとう子が血を吐いた。

みしりと音を立てて歪むのは肉か、骨か、人間の倫理観か。

「今の貴様はただの赤子!しかし私は母親……いや、母を超えたグランドマザーと言っても過言ではない!」

「俺の嫁が自分で自分を産むタイプの女!」

「絶対なる家庭内暴力の力を思いしれーッ!!!!」

「おとうさーん!!」


とうとう、子の肉体が限界に達した――その時である。

母の抱擁の中で、

子のジェット機構が赤く赤く血塗られた輝きに満ちていく。


「最後の命の煌きといったところか、だが無駄だ!

 如何にジェットを吹かしたところでこの抱擁からは逃れられぬ!逃さぬ!」

「逃げる必要はない……お前も一緒に飛ぶんだよ!」

「お前……結構ペラッペラに喋れたんだなぁ」


子の背より放たれしジェット噴射と言えども、

母親のベアハッグから逃れることは出来ぬ。

彼女のベアハッグを家庭内暴力5000とするならば、

ジェット噴射の家庭内暴力は2000、その差は圧倒的である。

だが、強烈なジェット噴射により子は母親ごと舞い上がった。


「ギャァーッ!」

強烈なるジェット噴射により母親の頭が天井に衝突。

しかし、彼女はそれでも子を離さず、

気を失い、地に倒れ、ようやく――その抱擁を終えたのだ。


「……何だ、これは」

「父さん……」

白目を剥き、泡吹いて倒れた母の手から逃れた赤子がすくりと立ち上がる。

その瞳にはIQ200の知性の輝き。

そして、その瞳は父のそれによく似ていた。

突如として、父親に湧き上がる恥の感情。

何を不気味がることがあっただろうか――

異世界からもたらされた魂であろうと、彼女が自分の娘であることに変わりはない。

子はおぼつかぬ足取りで父親の元へとゆっくりと歩き始める。

父はただ子の成長を前に、両腕を広げ迎え入れた。


「生物の血を啜って生きる未確認生命体が俺の娘に転生して俺の血をギャーッ!」

「おとうさーん!!」


父親の血を吸いながら、前世がチュパカブラの赤子は考える。

一度死のうとも、前世の記憶も憎悪も消えはしなかった。

ならば、続けるしかないだろう。

元の世界へと舞い戻り――あの空手家を殺す。


かくして、チュパカブラの異世界転生物語は始まった。

だが、この物語の題名は「大人はメスガキには負けないが羆は想定していないんだが???」である。

チュパカブラが異世界転生したからと言って、彼女が主役になるわけではない。

ただ、異世界転生が流行ってるからちょっと噛んでみただけである。


故に、物語の舞台は現代日本へと戻る――

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