第4話


 私は天使だった。

 父や母だけでなく、誰もが私の顔を見て、そう言った。

 小学生になった私を母は頻繁に原宿に連れ出した。

 母の狙いはスカウトだった。

 狙い通り、私はすぐにスカウトされた。そして子役モデルだ。第一の壁、やすやすと突破である。

「すごいねえ、幸子。あんたはやっぱり誰から見ても天使なんだよ」

 ニキビ跡の大きく残った肌を、母は何度も私の桃のような頬になすりつけた。

 私は我慢して、うれしそうにその愛撫を受け止めた。

 演技の練習である。来るべき時のための備え。

 そして「来るべき時」はすぐにやってきた。

 雑誌の片隅に出てた私の写真に目を止めたオトナがドラマに出てみないかと声をかけてきた。

 自分の国に来いと言っているのだ。

 そのために母は私を小さなモデル事務所から小さな芸能事務所に移籍させた。

 そうして、私と母は喜んでテレビの国の門をくぐった。

 当時の子役は今の子役とは違う。大人ばりの演技力などは求められていなかった。

 むしろ演技にたどたどしいところがある子のほうが好まれた。

 こましゃくれた演技をする子役より、棒読みで幼気な子役が視聴者に好まれたのだ。

 これでいいんだ。

 そう思って、私は演技を全く身につけなかった。身につけようとすれば周囲のオトナたちに止められただろう。

 その空気を読み、私はあどけないままでいた。

 そんな私はあっさりと時代の波に流された。

 あとから出てくる子たちは、かわいいだけではなかったのだ。

 かわいいうえに演技力がある、かわいいうえに歌が歌える、かわいいうえに笑いがとれる・・・

 かわいいだけの幸子に舞い込む仕事はあっという間になくなった。

 母は事務所の社長に噛みついた。

 もっとうちの娘を売り込んでくれと。

 そんな母を周囲のオトナたちは持て余し、私(と母)は事務所を解雇された。

 そんな私たちに声をかけてきたのが、個人で事務所を立ち上げたばかりの須藤だった。

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