第16話 バカップルと偽カップル

 バカップル二人に連れてこられたのは、グラウンドの横にあるベンチだった。

 今の時間は昼休みなのだが、活発な生徒はその時間もグラウンドに出て運動している。そのため、ここはその活発な生徒から見られることも多いだろう。実際、ここに来てから視線を浴び続けている。男子ばかりなので、殺意の純度は百パーセントだ。


「……なあ、ほんとにこので食うのか?かなり注目浴びてる気がするんだが……」

「あ〜それは気のせいじゃないと思うよ〜。二人は有名人だからね〜」

「……ちなみにどんな理由で有名か聞かせてもらっても?」

「『ぼっちな野郎と新入生の美少女が付き合ってる』ってことに加えて、『纏う雰囲気がバカップルのそれ』だとよ。……全く、何がライバルだよ。俺たちの愛に勝てるやつなんていねぇのによぉ」

「はぁ……」


 やっぱ本物のバカップルは違うな。そんなことをサラリと言えるなんて。……っていうかやっぱり付き合ってるって噂は否定したほうがいいだろうか?いちいち追及が面倒くさいからこのままの方がありがたいかもしれないが……なんとも言えないな。


「それにしても、お二人はこの視線気にならないんですか?」


 ナイスだ陽菜。俺もそれが気になってた。この視線に耐えられるメンタルが、俺は欲しいよ。


「まあ、今日はいつもよりすごいね〜。私達も『リア充帰れ』的な視線はよくもらうけど〜、金属バットは持ち出されたことはないよ〜」

「それに、慣れたら全く気にならないしな。寧ろ、『俺の女に手ェ出すなよ?』ってアピールしてるつもりだ」


 うわ、確かに金属バット構えてるやついるわ。素振りしているのはボールを打つためだよね?上から下におろしてるけど、新しいバントの打ち方とかだよね?


 それにしてもこの男、すごいメンタルだな。この殺意の中でも彼女奪うなよアピールできるとか、ハートの材質が知りたい。


「お二人もここでアピールしたら〜?特に水崎君とか、陽菜ちゃん可愛いからここでアピールしとかないと取られちゃうよ?」


 ……別に俺は陽菜の彼氏でもなんでもないんだけどな。っていうか俺がアピールとかしてたら「調子に乗るな」ってボコボコにされそうだな。……この機会に筋トレでもしてみるか。


「そうですよ先輩。愛しの陽菜ちゃんが取られても良いんですか?」


 ニヤニヤしながら陽菜が言ってきた。

 そういえば陽菜に振り回されてばっかだとついさっき思ったんだったな。よし、ここはやり返してやろう。


「……そうだな、確かに陽菜は可愛いから、他の人に取られちまうかもな」


 そして俺はベンチに腰掛けた。


「だから、ここで陽菜が誰のものかアピールしてやらないとだな」


 女子が言われて嬉しいセリフTOP10に入っていそうなセリフ、「お前は俺のものだからな」を状況に合わせてアレンジしてみました!パチパチ〜……言っててめっちゃ恥ずかしかったぞ、これ。


 俺の羞恥心の代償は、陽菜が顔を真っ赤にしながらも幸せそうな表情で硬直しているというものだった。……これはやり返せたのだろうか?


「やばい、バカップル代表の座が奪われる……」

「あらら〜陽菜ちゃん気絶してるね〜これ」


 うん、みんな今の聞かなかったことにして。




 それから五分ほど経過し、完全復活した陽菜からのいつも通りなポカスカを受けた後、俺達はやっと本来の目的である弁当を食べ始めた。


「んん~?あれ、二人とも入ってるもの同じだね〜陽菜ちゃん作ったの?」


 ……岩屋。陽菜は女子のくせして料理どころか家事は何一つできないんだぞ。

 と言えるはずもなく、どう答えればいいか悩んでいると、代わりに陽菜が答えてくれた。


「あ、このお弁当は先輩が作ったんですよ。私家事できないので」


 あ、家事できないこと言ってよかったんだね。でも、それは女子としてどうなのよ。岩屋のやつ、驚いて……ないな。


「あ、仲間〜。お肉とかフライパンで焼いたら絶対に焦がすよ〜」

「ああ、由美子に前、『由美子の作った弁当が食べたい!』って言ったことがあるんだけどよ、一瞬全てイカスミ入ってるのかと思ったぜ」

「それ、人の前で言わないでよ〜。もう、そんなこと言う人にはこれだよ〜」


 岩屋は自分の弁当の中からトマトを取り出して、瞬―――言い忘れていたが、バカップルの男の方。フルネームは柳沢瞬。移動中に聞いておいた―――の口元へと持っていった。


「うっ、トマト……。でも、由美子が食べさせてくれるなら……」

「あ~ん」

「あ、あ~ん」


 瞬はトマトにパクっとかぶりついて、歯を食いしばりながら咀嚼していた。トマト嫌いなんだな。美味しいのに。


「……はあ。俺はトマトに勝ったぞ!」


 瞬君。君は何と戦っているんだい?

 すると今度は瞬の方が弁当箱からトマトを取り出して岩屋の口元に持っていった。……もしかして二人ともトマト嫌いなの?なら入れるなよ。


「ん~トマトは嫌いだけど瞬は好きだから頑張る〜」

「あ~ん」

「あ~ん」


 うへぇ。

 今しょっぱい卵焼き食べたはずなのに、砂糖と塩入れ間違えた時みたいな味する。


「独占欲の強い先輩。私達もあれやりますか?」

「……俺には無理だ」

「ですよねー……チッ」


 ……あれ、今陽菜さん舌打ちしました?





☆あとがき

面白かったと思った方は是非、星やハートをお願いします!

感想を頂けるとなお嬉しいです。


※新連載『たとえハーレムな状況であろうとも、俺は貴女に好きと伝えたい。』始めました。

そちらも読んでもらえるとありがたいです。

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