レプレスタ城内(2) マムシ怪人 【ラミア】

 怪人は、兵士を胴体の側まで引き寄せた。

「はぁーい、ぱっくんちょ、っとぉ」

 マムシ怪人が、兵士の首元を甘噛みする。


 牙が刺さったのか、兵士の首から血が流れた。

 白目をむき、兵士がつま先をピンと伸ばす。

 神経毒らしき物質を、首から注入されたのだろうか。

 兵士は王子を守る責務さえ忘れて、快楽を貪っている。

 最期には、全身の骨を砕かれ、絶命した。


「では、いっただっきーまーす。あーん」


 怪人の唇が、脇腹まで割ける。まるで、ヘビが口を開けるかのように。



 息絶えた兵士を、怪人は丸呑みする。


 ディアナが悲鳴を上げた。 


「王子さまぁ。一緒にキモチイイことしよっ。よかったらぁ。そこのお嬢さんも一緒にでもいいからぁ。仲良くエッチッチしよっ」


「お前などに、誰が与するものか! ディアナ姫! 部屋に戻っておれ! ここは、余が食い止める!」

 剣を抜き、王子はマムシ怪人の注意を引く。


 つまらなそうに、怪人はため息をついた。


「しょうがないなぁ。スケルトン教授からはぁ、殺さず連れてこいって言われてるんだけどなぁ。やっぱり食ーべちゃおっ」


 ギャルっぽい舌っ足らずな口調で、ラミアと名乗るマムシ怪人が王子に襲いかかる。


「逃げるんだディアナ姫!」

 王子が、ディアナをかばう。


「妹をかばうのは、姉の役目ですわ!」

 二人共を抱きかかえ、イクスは飛び退く。城のそばに着地した。


「イクス王女、おケガは⁉」

「よろしくてよ。それよりあなた方は、王子とディアナを!」


 駆けつけた兵士に二人を任せる。


『今変身したら、確実にキミがエスパーダだってバレるよ!』

「妹を守れるなら、結構ですわ……参ります!」

 イクスは軍刀を抜く。


 空間を切り裂いた。青い光が、イクスに降り注ぐ。


「変身、ですわ!」

 青い装甲が、イクスを覆った。ブルーのマントがたなびく。


「お姉様が、エスパーダ……」

 戸惑いと安堵とが入り混じった顔をしながら、ディアナは意識を手放す。


「王子、すいませんが妹をお願いします」


「承知した!」

 王子は気絶したディアナを抱きかかえ、室内へ。


「へえ。あんたがエスパーダなんだぁ。まさか、お姫様だったなんてぇ。でもぉ、お強いんでしょお? エッチな相手してよぉ」

「あなたごときが、ワタクシを満足させられますの?」


 一瞬、マムシ怪人が真顔になる。

「アタシで満足できないって、ビッチってことになるけどぉ?」

 すぐに軽口に戻るが、トーンは低い。


「冗談は顔だけになさってくださいまし。いくらビッチでも、人間を丸呑みになんかしませんわ。ささ」

 あえて、エスパーダは右手を差し出す。

「どうぞ、食べれるものなら食べてみなさいな」


「なめるなよ年増ぁ!」

 挑発にのったマムシ怪人が激昂した。


 怪人の下半身が、容赦なくエスパーダの腕に絡みつく。剣の持ち手を塞がれた。


『これじゃあ、刀を抜けない!』

 ノーマンが、慌てだす。


「アハハ! 大したことないじゃあん。自分で煽っておいてやられるなんてさぁ」


 ジリジリと、エスパーダが怪人に引き寄せられていった。


「最強の剣士と言われてるエスパーダって、どんな味がするんだろぉ?」

「御託はいいですわ。さっさとお解きになったら? 大変なことになりますわ」

「え、なに? 命乞いしてんのっ? 超ウケるんですけどぉ!」


 ゲラゲラと、怪人が笑い出す。



 しかし、その嘲笑が絶叫へと変わった。




「アタシの足がああああああ!」

 マムシ怪人の尾が、ぶつ切りにされて宙を舞う。



『いつの間に斬ったんだ⁉』

「体を入れ替えたときですわ」


 居合である。

 エスパーダは身体を横移動させただけで、剣を抜いたのだ。


「抜くのは鞘の方。刀ではありませんわ」

『それでも、全身に巻き付かれていたら終わっていたよ!』

「ご心配なく、抵抗はしていましたので」


 エスパーダは移動していると見せかけて、巻きつき攻撃が全身に及ばないよう体移動していただけ。

 超高速で、怪人の尻尾をかわしていた。


『とんでもない技術だ』


 尾をすべて斬られて、マムシ怪人は暴れまわる。

「許さねえ! もうエッチなんて考えるかよ! 形も残さない程に食い散らかしてやる!」

 切れた尾を器用にバウンドさせて、マムシ怪人が飛びかかった。


「必殺技とやらを、試しましょ」

『ああ。キミらしい技を編み出したよ』


 だが、怪人は身体を蛇腹状にする。

「ギャハハ! どうよ! アタシは身体を蛇腹状にして、ダメージを散らすことができる! いくら切れ味のいい刀があっても、すり抜ける!」


「誰が斬るとおっしゃいましたか?」


「ああ⁉」

 マムシ怪人が、顔を歪めた。



「エスパーダ・リーパー」

 上段回し蹴りを、エスパーダは浴びせようとする。青い軌道を

描き、怪人のこめかみへ吸い寄せられた。


「そんなミエミエのハイキックが、あたしに当たるとでも」

「当たりますのよ」

「あぁあ、んっ⁉」


 キックは見事に、怪人のアゴを捉える。

 インパクトの直前、蹴りの軌道を変えたのだ。カマキリの前足のような動きで。


『ブラジリアン・キック、だったけ』


 リュート・オリベの世界にある格闘技、「カラテ」の技だ。


 マムシ怪人の首は半回転し、上下逆になった。



「ごはあ!」

 血ヘドを吐き、マムシ怪人は虫の息に。

「ワタクシの敵ではありませんでしたね」



「た、助けて、スケルトン、教授ぅ!」



 デヴィランの関係者らしき人物の名を口にしながら、マムシ怪人は爆発した。

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