イクスのバイク
大量の魔王石を持って、レプレスタ城下町に戻った。
「おお、待っていたぞ。吾輩の目に狂いはなかったな!」
ノアが早速、マシンをフル稼働させて、魔除けづくりに精を出す。魔導窯から、次々と魔物除けが製造されていく。
できあがった魔除けが、レプレスタの兵隊や冒険者の手によって運び出された。これから、レプレスタの街道へ設置していくのだ。
「最近、ダニーを見かけませんが」
「ダニーなら、エスパーダに頼まれていたよ。天才科学者ダニー・バンナの名前は、この辺りじゃ有名だからね。エスパーダから空き家を提供されて、何かを作っているみたいだ」
エスパーダが、ダニーに依頼をしているとは。
『だいたいの予想はつくがな』
「ええ。行ってみましょう」
コウガ側も、ダニーに頼みたいことがある。
教わった小屋の場所へ行く。レプレスタ城下町の北門を抜けた先に、件の小屋はあった。鍛冶に使われていたらしい。鉄の匂いが充満していた。
「よお。何日も会ってない感じだな」
「やはり、これを作っていましたか。ダニー」
ダニーがエスパーダのために作っていたのは、やはりバイクだ。
「予備のバイクパーツを作っておいてよかったぜ。こういうときがくると思っていたんだ」
『やけに禍々しいな』
コウガが乗っているものより、生物に近い。怪人に用いられた部品を使っているからだろう。
「なぜコウガにあって、エスパーダに乗り物がない、ってよ。報酬はたんまりもらっている。レプレスタ領地の鉱山から、魔法石も受け取った」
アイテム袋に手を入れてダニーが見せてきたのは、宝石の山である。使われているのは、すべて魔法石や、魔力のこもった装備品だった。
「俺からすれば、機械いじりさせてもらう方がありがたいんだけどな」
宝石類を、ダニーはアイテム袋にしまう。
「よし、あとは魔法石を動力部にセットして、と」
エスパーダのマシンが完成した。
構造は、コウガのマシンを思わせる。だが、脆いパーツを覆い隠すように、ウロコが付いていた。特徴的なのは、翼竜怪人の翼である。
『羽が生えているが、飛べるのか?』
「理論上はな。あいつの魔力次第だが、大丈夫だろう」
マシンを撫でながら、ダニーは嬉しそうな顔になった。
「楽しげですね」
「ああ。俺にもまだ、こんなマシンが組めるんだってな。自信がついた」
後は動かすだけ。
そこへ、イクスが現れた。いつものパンツルックで。クリスとレンゲも連れている。
「完成しましたの?」
「おうさ。試運転するかい?」
「もちろん」
イクスは、マシンにまたがった。
『魔力の注ぎ込み作業、終わったよ』
エンジンを掛けると、ノーマンが告げる。
「お茶会はよろしいので?」
「ええ。抜け出しました」
随分と勝手である。
イクスはいつも荒れているが、今日はそれ以上だ。
「どうかなさったので?」
「虫の居所が悪いのですわ。これは、魔物を蹴散らして発散するのがよろしいですわ。お付き合いくださる?」
マシンのエンジンを、イクスは苛立ち気味に吹かす。
「参ります!」
鉱山跡地をイクスはバイクで走り回った。
まるで自分の手足かのように、マシンを乗りこなす。
『次は、飛翔実験だ!』
「心得ていますわ!」
崖のような坂道を登りきり、イクスは一気にジャンプした。
ワイバーンの翼を広げる。
「飛んでいますわ!」
飛翔が見事に成功した。方向転換も完璧である。
「すさまじいです。初めて乗った道具を、いともたやすく」
イクスのバイクが持つ性能に、レンゲは圧倒されていた。
『ベルトの機能だ』
どこをどうすれば動くか、瞬時に把握できる。たとえ知識がなくても。
「こいつで、お祭りに参加すりゃいいのに」
『祭りってのは、なんだ?』
「王様がよぉ、王子の来訪を記念した式典を開くんだと」
王子が滞在中の間に、準備をしていたらしい。
「魔物に命を狙われているのに、ですか?」
「そうさ。王様からすりゃ、犯人のあぶり出しもできるって魂胆だろう。そううまくいくかね?」
相手に警戒されるのがオチだ。それどころか、みすみす王子を危険に晒しかねない。
「レプレスタ王は、国力の向上に必死です。今しか見ておりません」
『なぜ、そこまで国の力をつけようと躍起なんだ?』
「他国から、比較されるからです」
イクスの運転を見ながら、レンゲが話してくれた。
レプレスタは、多くの国をまたいで設立されている。
エルフの持つ豊富な魔力石を目当てに、各国は忖度してきた。同時に様々な嫌がらせも。
そんな状態に対して、レプレスタはパイプ役として間を取り持っている。
当のエルフ国家は、いざとなれば外界との交流を断絶すればよいと考えていた。レプレスタのようなシティエルフ国なんぞ、下に見ている。
『田舎者の考えだな』
「おうよ。本家様はレプレスタのありがたみなんて、なんもわかってねえ。もしレプレスタがなくなれば、エルフなんてあっという間に衰退するぜ」
イスリーブのような強い国家と契約を結べれば、今の状態も緩和できるのでは、と国王は考えているのだ。エルフ側も納得してくれるだろうと。
『おべっかを使うことに、我慢の限界が来ているのだな?』
「そういうことです」
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