ペガサスの翼

「それよりも、ペガサスは!」

 大量に出血し、ペガサスはすでに虫の息である。丸い瞳が、バイクへと注がれた。


「バイクがどうしたのです?」


「あれは、バイクというのだな?」

 白き天馬が、言葉を話す。


「わずかながら、我が力を授ける」

 天馬は光の粒子となって、バイクへと吸収された。


「どうしてそこまで?」


「敵がもう一体いるからだ。イスリーブの王子が狙われている」


 バイクの背部に、輝く白い翼が。羽根の一枚一枚が、機械のパーツを思わせる。


『新しい力が、バイクに備わったな』


「この力を使って、王子を救ってくれ。さらば」

 ペガサスの気配が消えた。


『なら急ごう』


「はい。ペガサスの死は、ムダにしません」


 レイジングフォームのコウガが、再度変身の構えを取る。


『変身、ライジングフォーム!』

 銀色のコウガへと変色した。


「フォームチェンジもなさいますのね」


『そうだ。すまんが先を急ぐ。レプレスタの城で会おう。トゥア!』


 アクセルを全開にする。突然、翼が光り輝いた。バイクがふわりと宙に浮かぶ。


「これなら、空の敵にも対処できますね」


『行くぞ。王子が危ない!』

 コウガはアクセルをふかすと、バイクがひとりでに前進した。


 敵の気配からして、城に近い位置にいる。





 下を見ると、馬車が翼竜怪人に追われていた。怪人は、先ほど倒した敵と同タイプのようである。色が違うだけだ。前の敵は緑で、こちらは赤い。


 二頭の白馬が、馬車を懸命に引いている。しかし、赤い怪人の吐く火球から逃げるのが精一杯のようだ。


 王を守るように、兵隊が矢や魔法で応戦している。しかし、硬い装甲に阻まれていた。傷一つつけられていない。


「あそこです」


『よし、迎え撃つ!』

 コウガは、シートの上に立つ。


「なんだ貴様は! 俺の食事をじゃましてんじゃねえ!」

 翼竜怪人が、首を大きくのけぞらせた。火球のブレスが来る。


『なんの。冷凍ガス!』

 両手をかざし、コウガは冷凍のガスを発射した。火球を撃ち出す直前に口を凍らせる。


「ぐふううう!」

 口内で爆発を起こし、怪人の口が黒煙をあげた。


『トドメだ! ライジングキック!』

 コウガは空高く舞い上がる。風の力をその身に受けて、速度の上がった前蹴りを打ち込む。


「やりやがったな! だが、俺らのボスはだまっちゃいねえぜ! 覚えてろよおおおおお!」

 捨てゼリフを吐いて、翼竜怪人は砕け散った。


 バイクに乗り直し、地上へとゆっくり着地する。王子を怖がらせないように、できるだけ遠くで。


「コウガどの、殿下が、あなたにお礼が言いたいと」


「出てきてはなりません!」

 王子の側近が近づくのを、コウガは止めた。


「まだ敵が近くに潜んでいるかも」

 上空を見上げながら、コウガは未だに警戒を解かない。


「安心なさい。もう敵はいませんわ」

 数分後、エスパーダが到着する。


「ならばいいのですが」


「正体を知られてくないのは、分かります」

 やはり、エスパーダは察してくれたようだ。


『お城へとお向かいください。まだパトロールせねばなりませんゆえ』

 エスパーダの口から、ノーマンの声が発せられる。


「そうですか。ならば」

 側近が、馬を動かそうとした。


「いやじゃ!」

 だが、王子は馬車の中でグズっている。


「ささ殿下、レプレスタの城へ」


「余は直接、コウガにお礼が言いたい! おろせ!」

 どうも、馬車内で問答をしているようだ。


『どうする、コデロ?』

 ヘタに正体を明かすと、レプレスタで調査をしづらくなる。


「では、こういたしましょう」

 馬車の側に向かい、コウガは側近と話し合う。


「お礼より、報酬をください。このレプレスタに、魔道具マギアを作れる作業場を提供してください。どのみち、我々はその相談に参ったのです。あなたもでしょう?」


「その程度でよろしければ」

 側近は、承諾してくれたが。


「顔を見せてはくださらぬのか?」


「お恐れながら王子、私はあまり人前に姿を明かせぬ身でありまして」


 コデロは、バイクにまたがる。王子の返事を待たず、エスパーダの元へ。 


「エスパーダ、今回は感謝致します」

 コウガは、エスパーダに視線を向けた。


 しかし、エスパーダは不満そうである。

「エルフの守り神だったペガサスの一頭を、わたくしは死なせてしまいましたわ」


『キミが来なければ、もっと多くの命が失われていただろう』

 落ち込むエスパーダを、コデロの兄ノーマンが励ます。


『コーデリア。キミと話がしたい。レプレスタの城について来てくれないか?』


 それは、思ってもいないことだった。ミレーヌの購入した店で、寝泊まりをするつもりだったのだが。


「それはナイスアイデアですわ。あなたは、ワタクシの食客ということにいたします。コデロ、でしたわよね?」


 ドランスフォード王家の親戚である貴族の娘で、王国壊滅の報告を聞き、このレプレスタまで逃げてきた、という設定になった。


「素晴らしい。我ながらナイスな設定ですわ!」

 一人だけ、エスパーダは満足そうだ。


「また、設定ですか」

 コデロは肩を落とす。


『めんどくさそうな女だ』


『キミもそう思うかい?』

 ノーマンも、苦労しているようだ。

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